学び!とシネマ

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おにいちゃんのハナビ(2010・日本)
2010.09.29
学び!とシネマ <Vol.54>
おにいちゃんのハナビ(2010・日本)
一発一発に想いを込めて打ち上げる花火の町の物語
二井康雄
おにいちゃんのはなび

(c)2010「おにいちゃんのハナビ」製作委員会

 いまから5年ほど前に、新潟中越地震のドキュメントがテレビで放映された。花火で有名な、新潟県小千谷市の片貝町で行われる片貝祭りを中心に、作られたものである。
 映画「おにいちゃんのハナビ」(ゴー・シネマ配給)は、このドキュメントのなかに出てくる兄妹のエピソードを描いたもの。重病で亡くなった妹のために、成人式を控えた兄が、花火を打ち上げる、という話である。
 片貝の町が、世界的に有名になったのは、この祭りで打ち上げられる数々の花火だ。企業スポンサーによる花火大会ではなく、主体は、町に住むみんなが、花火のお金を出し合う。そして、誕生、成人、結婚、還暦などなど、人生の節目節目に、それぞれの願いをこめて、打ち上げるのである。
 花火が効果的に使われた映画では、アルフレッド・ヒッチコックの「泥棒成金」をすぐ思い浮かべるが、本作での花火は、重要な役割で登場する。

 ハナ(谷村美月)は女子高校生。重病のため、半年の入院生活から、やっと退院する。その日は、ハナの大好きな花火祭りの日。家には、兄の太郎(高良健吾)がいるが、大学も受験せず、就職もせず、いわば、引きこもりである。
 明るく勝ち気なハナは、太郎を外へ連れだそうと努力する。そして、兄のいた高校の同窓会で、成人を記念して花火を奉納、打ち上げる会の事務所に、なかば強引に連れていく。
 さらにハナは、新聞配達のアルバイトを太郎に世話する。しかも、太郎といっしょに、配達まで手伝う。
 一見、なにもかもがうまくいくかと思われたが、ハナの病気が再発する。ハナを見舞い、「俺は、人見知りで、ダサくて、暗い」という太郎に、「人見知りは遠慮深い、ダサいは個性的、暗いはクール」と、太郎を逆に励ます。
 やがて、ハナは亡くなる。死んだあとに、太郎の携帯に、ハナからの成人式のメッセージが届く。
 太郎は、悲しみをこらえ、ハナのために花火を打ち上げる決心を固めるが…。

 要所要所に、ドラマの伏線があり、しかも泣かせる。親子、兄妹の関係が過不足なく描かれ、説得力がある。
 悲しい話ではあるが、愛する者の死は、避けがたいことである。その後に、ぼくたちはなにをすべきかを、深く考えさせてくれる。
 兄妹の父親役で、タクシーの運転手を演じる大杉漣が、渋くて、うまい。監督は、主にテレビドラマ演出で実績のある国本雅弘。やや登場人物が泣きすぎるシーンもあるが、これが、長編劇映画の監督第一作になる。

9月25日(土)より有楽町スバル座ico_linkほか全国公開中!

■おにいちゃんのハナビ

監督:国本雅広
脚本:西田征史
出演:高良健吾、谷村美月、宮崎美子、大杉 漣、早織、尾上寛之、岡本玲、佐藤隆太、佐々木蔵之介、塩見三省 他 
主題歌:藤井フミヤ「今、君に言っておこう」(Sony Music Associated Records Inc.)
2010/日本/119分/35mm/カラー/1:1.85/ドルビーSR