学び!とシネマ

学び!とシネマ

シチリア!シチリア!
2010.12.03
学び!とシネマ <Vol.56>
シチリア!シチリア!
人生は、どこを切っても美しい。
二井 康雄(ふたい・やすお)
(c)2009 MEDUSA FILM

(c)2009 MEDUSA FILM

 誰にでも、生まれ育った故郷はある。その思い出や思い入れの深さは異なっても、人生そのものに、なにかしらの影響をもたらすものと思われる。洋の東西を問わず、映画や文学、絵画、音楽など、いろんな表現に、故郷が登場する。
 イタリアのシチリア島に生まれた映画監督ジュゼッペ・トルナトーレも、故郷シチリアを映画で描く作家である。
 シチリア島の村が舞台。映画館に通い詰める少年の半生を描いた傑作「ニュー・シネマ・パラダイス」を監督したトルナトーレは、新作「シチリア!シチリア!」(角川映画配給)でもまた、故郷のシチリアを描く。

(c)2009 MEDUSA FILM

(c)2009 MEDUSA FILM

 1930年代のイタリアのシチリア。ペッピーノ少年は次男坊、経済的には豊かではないけれど、優しい家族や周囲の大人たちに囲まれて、幸せな少年時代を過ごしている。
 家業は牛飼い。もちろん、学校に行くけれど、農場に出稼ぎに行ったりもして、家業を手伝っている。ペッピーノの楽しみは、父に連れられて映画館に行くこと。サイレントの映画だが、ペッピーノにとっては、かけがえのない幸福な時間だ。 
 ペッピーノは、やがて大人になっていく。裕福な家の娘のマンニーナに恋をするが、マンニーナの両親は結婚に大反対。ペッピーノの家が貧しいからである。ふたりは駆け落ちまでして、やっとのことで結婚する。そして、時代の荒波にもまれながらも、ペッピーノは政治家を志し、みごと共産党から出馬、議員となる。
 かつてのペッピーノが、父に連れられて映画を見たように、父となったペッピーノは、まだ幼い息子ピエトロを映画に連れていく。ブルックリンの波止場で働くイタリア移民の悲劇、シドニー・ルメット監督の「橋からの眺め」だ。
 息子のピエトロが、賑やかになった町の通りに駆け出す。まだ幼かったペッピーノの姿に重なる。感動的なラストシーンが用意されている。

(c)2009 MEDUSA FILM

(c)2009 MEDUSA FILM

 ペッピーノの父から、ペッピーノの息子までの親子三代、1930年代から50年間にわたる家族のドラマである。ファシズムの崩壊、第二次世界大戦の敗戦、共和国の成立までの、まさに激動のイタリア史を背景に、家族のドラマが語られる。
 多くのエピソードは、さりげなく描かれるが、ひとつひとつが滋味深い。ひとつの家族の50年の歴史から、当時の社会背景、人生模様が、くっきりと浮かびあがる。
 笑いも涙もある。どのような境遇にあっても、前向きに、肯定的に生きることは、素晴らしい。正しいと信じたことを貫き、家族のため、人のために生きる。この、あたりまえのことを貫く勇気を、映画は伝える。

2010年12月18日(土)より
シネスイッチ銀座ico_link角川シネマ新宿ico_link他にてロードショー

■「シチリア!シチリア!」

監督・脚本: ジュゼッペ・トルナトーレ
音楽: エンニオ・モリコーネ
撮影: エンリコ・ルチディ
美術監督: マウリツィオ・サバティーニ
衣装: ルイジ・ボナーノ
2009年/イタリア/カラー/151分/スコープサイズ/ドルビーSRD/
配給:角川映画