学び!とシネマ

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ヒューゴの不思議な発明
2012.02.27
学び!とシネマ <Vol.71>
ヒューゴの不思議な発明
二井 康雄(ふたい・やすお)
(C)2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved

(C)2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved

 マーティン・スコセッシ監督の「ヒューゴの不思議な発明」(パラマウント ピクチャーズ ジャパン配給)は、今年のアカデミー賞の作品賞、監督賞、脚色賞など、11部門にノミネートされただけあって、映画への愛に満ちた、楽しくて、美しい映画。
 いまは、ネットで検索すると、本を読んだり、人に聞いたりしなくても、多くの情報を入手できる。ちなみに、リュミエール兄弟、ジョルジュ・メリエス、ロベール・ウーダン、フリッツ・ラング、D・W・グリフィス、ダグラス・フェアバンクス、ハロルド・ロイド、チャールズ・チャップリンといった人名をご存じでないなら、あらかじめ調べておくと、いかに本作が映画への愛に満ちているか、お分かりいただけると思う。
 スコセッシは、来日記者会見で語る。「私にはまだ幼い娘がいる。妻から言われた。たまには娘のために映画を撮れば」と。
 これまでスコセッシは、「タクシードライバー」や「ラストワルツ」、「レイジング・ブル」、「アビエイター」、「ディパーテッド」、「シャッター アイランド」などを撮った。たしかに、社会性のあるテーマを扱った映画が多かったが、少年と少女が登場、サイレント映画をめぐっての、魔法のような、夢のような映画を撮ったのは初めてだろう。
 1942年生まれのスコセッシは、幼い頃から、父親に連れられて、多くの映画を見たという。戦後すぐから1950年代にかけてのビリー・ワイルダー監督や、ジョージ・スティーヴンズ監督の映画だ。ワイルダーなら、「サンセット大通り」、「第十七捕虜収容所」、「麗しのサブリナ」、「七年目の浮気」、「翼よ!あれが巴里の灯だ」だろうし、スティーヴンズなら、「陽のあたる場所」、「シェーン」、「ジャイアンツ」、「アンネの日記」だったろう。もちろん、西部劇も大好きだった。
 さらに、スコセッシは、もっと古い、それこそリュミエール兄弟が映画を発明した直後に作られた映画も、数多く見ているはずである。

(C)2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved

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 「ヒューゴの不思議な発明」は、ちょうどその頃、1930年代のパリでのお話である。
 大きな駅舎の時計台に隠れ住む少年ヒューゴ(エイサ・バターフィールド)は、父(ジュード・ロウ)を火事で亡くし、時計修理のおじに育てられている。いつのまにか、そのおじも行方不明、ヒューゴの仕事は、駅にたくさんある時計のネジを巻くことである。
 ヒューゴは、駅舎の中にあるオモチャ屋からブリキのオモチャを盗もうとして、主人のジョルジュ(ベン・キングズレー)に見つかってしまう。ポケットを調べられたヒューゴは、父の残した大切なノートを、ジョルジュに取り上げられる。ノートを見たジョルジュは、大変な驚きようだったが、ヒューゴには、その意味は分からない。
 ノートには、壊れてしまった機械人形の修理方法が書いてある。この人形は、父がとても大切にしていたものである。しかし、この人形を動かすには、胸にあるハート型の鍵穴に合う鍵を見つけなければならない。
 ヒューゴは、罪の償いでジョルジュの店で働くことになり、やがて、ジョルジュの養女イザベル(クロエ・グレース・モレッツ)という少女と仲良しになる。イザベルは、なぜかジョルジュから、映画を見ることを禁じられている。映画の大好きなヒューゴは、半ば強引にイザベルを映画館に連れていく。映画は、ハロルド・ロイドのドタバタ・コメディの「要心無用」だ。初めて見た映画に、イザベルは驚き、喜ぶ。
 原作のブライアン・セルズニックの「ユゴーの不思議な発明」(アスペクト文庫)では、ふたりの会話のなかに、大きな時計の針にぶらさがるハロルド・ロイドの「要心無用」の有名なシーンが出てくるが、ふたりが映画館で見たのは、ニュース映画、「夜の時計店」というマンガ映画、それにルネ・クレールの「ル・ミリオン」だった。
 ふと、ヒューゴはイザベルのペンダントを見ると、ハートの形をした鍵ではないか。ふたりは、壊れた人形に鍵を差し込むと…。
 やがて、人形が動きだし、それが、ジョルジュの秘められた過去と結びついていく。

(C)2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved

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 かつて映画は魔法のようと言われたが、これは、その魔法のような映画に捧げられた映画。夢と希望があり、心あたたまる映画。何度も、はっとするような美しい映像が流れる。3D画面いっぱい、時計台から見たパリの夜景に息を呑む。3D効果の驚くシーンもたっぷり。
 冒頭にあげた人名を調べていなければ、すぐ調べたくなる。そして、理解するはずである。映画は夢であり、魔法であり、見た人の人生を豊かにすることを。
 スコセッシは言う。「7歳から108歳まで、誰にでも、楽しんでもらえる」と。
 これは、マーティン・スコセッシという映画を愛する人の撮った、映画への愛に満ち溢れた映画。 

2012年3月1日(木・映画の日)
TOHOシネマズ有楽座ico_linkほか全国ロードショー(3D/2D同時公開)

■「ヒューゴの不思議な発明」

監督・製作:マーティン・スコセッシ
製作:グレアム・キング、ティム・ヘディントン、ジョニー・デップ
脚本:ジョン・ローガン
出演:ベン・キングズレー、エイサ・バターフィールド、クロエ・グレース・モレッツ、ジュード・ロウ ほか
2011年/アメリカ/126分
原題:HUGO
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン