学び!とシネマ

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『幸せへのキセキ』
2012.06.04
学び!とシネマ <Vol.74>
『幸せへのキセキ』
二井 康雄(ふたい・やすお)
(C) 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

(C) 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

 しみじみ、ほのぼの、笑って、泣けて、心温まる。よく練られた脚本で、味のあるセリフがたっぷり。良質のユーモアに笑い、爽やかな展開に涙する。このところ、3DやらCG駆使の大味な映画が多いが、久しぶりに「ウェルメイド」と思えるアメリカ映画だ。
 「幸せへのキセキ」(20世紀フォックス映画配給)という、変わったタイトルだが、キセキとは、軌跡と奇跡の両方を意味しているようだ。チラシに「最愛の人の死から立ち直ろうとする家族の<軌跡>を描く、実話から生まれた<奇跡>の物語」とある。さらに大きく、「家を買ったら、動物園がついてきた」とある。まさにチラシのコピー通りで、原題は「We Bought a Zoo」(私たちは動物園を買った)である。
 妻に先立たれたジャーナリストが、14歳の息子、7歳の娘を育てながら奮闘するが、いろいろと問題が起こる。そして、転居を決意、なんと転居先の住居には、動物園がついている。

(C) 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

(C) 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

 映画は、軽快に始まる。ベンジャミン(マット・デイモン)は、ロサンゼルスの新聞にコラムを書いているジャーナリスト。今日は、中南米のある国の独裁者に突撃取材する。アメリカを批判し、中国との結びつきを実証するコメントをとる。最後に、好きな映画は、と質問する。独裁者は「トイ・ストーリー」と答える。いきなりのギャグに大笑い。現場取材は危険も伴う。嵐のなかでの取材もある。
 最愛の妻が半年前に亡くなる。ベンジャミンは、14歳の息子ディラン(コリン・フォード)と、7歳の娘ロージー(マギー・エリザベス・ジョーンズ)の面倒を見ながらの日々で、食事や通学の準備など、なにかとうまくいかない。
 ディランは反抗期か、会話も「別に…」の一点張りで、ベンジャミンは息子に対して、つい辛く当たってしまう。学校でも、なにかと問題を起こすディランは、絵を描くのが好きだが、不気味な絵ばかり描いている。
 ある日、ベンジャミンは上司から、新しい仕事を勧められる。時代は変わる、ウェブに執筆してもらえないか、というわけだ。しかし、古いタイプのジャーナリストのベンジャミンは、受け入れない。そんな時に、ディランがまた、学校で事件を起こし、とうとう退学処分となる。
 いま住む町は、妻との思い出ばかり。いっそ、すべてをやり直そうとばかり、ベンジャミンはあっさり退職、町を離れる決意を固める。
 ロージーを連れて、郊外のあちこちに転居先を探すベンジャミン。豊かな自然の残るローズムーアに格好の家を見つける。しかし、これはいわゆるワケあり物件で、もう2年間も閉園したままの動物園がついている、というものであった。
 いまなお、多くの動物がいて、前オーナーの遺産をやりくりしながら、数名の飼育員たちが働いている。ライオンやベンガルトラ、クマなどがいる。見ると、ロージーがクジャクと遊んでいる。ベンジャミンは、いきいきと遊ぶロージーを見て、決心する。ここに移ろう、と。

(C) 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

(C) 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

 ベンジャミンの兄ダンカン(トーマス・へイデン・チャーチ)は会計士をしている。いろいろと経費のかかることを予想して、ダンカンは反対する。しかし、ベンジャミンの決意は固い。乗り気でないディラン、はしゃぐロージーとともに、一家は引っ越してくる。
 新しく動物園のオーナーになったベンジャミンに、飼育員たちは好奇の目を向ける。飼育員の主任は、まだ若い女性のケリー(スカーレット・ヨハンソン)に、大きな体で酒好きのピーター(アンガス・マクファーデン)、いつもサルを肩に乗せているロビン(パトリック・フュジット)など、動物は好きだが、どこか変な人たちばかり。
 ケリーの親戚にあたるリリー(エル・ファニング)は、動物園にあるレストランを手伝っているが、1歳年上のディランに、淡い恋心を抱く。
 いろいろと問題が起こる。動物園を維持するだけでなく、再開園を考えているベンジャミンのやり方と、飼育員たちの考えが対立する。開園のためには、さらにぼう大なお金がかかることが明るみに出る。動物園のスターともいえるベンガルトラが死にかかる。開園には、きびしい農務省の審査にパスしなければならない。
 そんな中、ベンジャミンとディランの父子関係が、ますますこじれてくる。
 だが、ベンジャミンは、あきらめない。奇跡を信じているわけではないが、なんとか、家族のため、自分のために夢を叶えるよう、必死に取り組んでいく。 
 大好きな映画「フィールド・オブ・ドリームズ」の中に、こんなセリフがある。「それを作れば、やってくる」。主人公のケヴィン・コスナーは、とうもろこし畑に野球場を作る。そして、奇跡が起こる。
 マット・デイモンもまた、動物園を再開園しようとする。はたして、「キセキ」は起きるのだろうか。
 人生には、数々の難局が待ちかまえる。夢があり、希望があっても、その実現には、多くの苦労が伴う。それでも、願った夢や希望が実現するよう、人は努力する。本作は、その夢や希望を実現するためには、努力を惜しまず、けっしてあきらめないこと、とエールを送る。

2012年6月8日(金) TOHOシネマズ スカラ座ico_linkほか全国ロードショー

■『幸せへのキセキ』

監督:キャメロン・クロウ
原作:ベンジャミン・ミー
音楽:ヨンシー
出演:マット・デイモン、スカーレット・ヨハンソン、トーマス・ヘイデン・チャーチ、パトリック・フュジット、エル・ファニング、ジョン・マイケル・ヒギンズ
2012年/アメリカ/ヴィスタ/2時間4分
原題:We Bought a Zoo
配給:20世紀フォックス映画