学び!とシネマ

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ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳
2012.08.03
学び!とシネマ <Vol.76>
ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳
二井 康雄(ふたい・やすお)
(c)2012『ニッポンの嘘 報道写真家福島菊次郎90歳』製作委員会

(c)2012『ニッポンの嘘 報道写真家福島菊次郎90歳』製作委員会

 写真家、福島菊次郎さんは、1921年3月生まれだから、91歳になる。今なお、現役の写真家である。
 映画「ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳」(ビターズ・エンド配給)は、戦後すぐから、広島の原爆被災者の記録、東大の安田講堂事件、自衛隊の潜入取材、三里塚闘争、公害問題などの現場を撮り続けている福島さんの「今」を追いかける。戦後日本の、いわば負の部分を活写した福島さんの歩みも合わせて、まことに迫力に満ちたドキュメントだ。
 映画は、2011年の9月、「9・19さようなら原発」のデモから始まる。90歳の福島さんが、シャッターを押す。
 福島さんは、フォトジャーナリスト学校で、若い人たちに語る。「問題自体が法を犯していれば、カメラマンは法を犯してもかまわない。そういう状況を発表するのは必要、映像に関わるカメラマンとして写すべき」と。
 福島さんは、敗戦直後から、25万枚以上の写真を撮っている。そして、自らの歴史を語り始める。
 かつての戦争では、新聞ジャーナリズムはこぞって国の体制に協力した。反戦を唱えて、新聞社を辞めた気骨あるジャーナリストも、少数だが、存在した。
 昭和の作家たちも、戦争に関しては、黙ってはいなかった。野間宏、梅崎春生、中野重治、大岡昇平、五味川純平…。
 福島さんは、写真家として、反骨、反戦を貫き続けている。少数どころか、いまや孤高のジャーナリストかもしれない。

(c)2012『ニッポンの嘘 報道写真家福島菊次郎90歳』製作委員会

(c)2012『ニッポンの嘘 報道写真家福島菊次郎90歳』製作委員会

 1951年、福島さんは、広島の被災者である中村さんと出会う。中村さんは、奥さんを原爆症で亡くし、6人の子供を育てている。中村さんは言う。「私の写真を撮ってくれ。ピカに出会ってこのざまだ。このままでは死にきれない。仇を取ってくれ」と。1961年、中村さん一家の10年を記録した写真集「ピカドン ある原爆被災者の記録」が世に出る。
 福島さんは語る。「中村さんが種をまいてくれて、それが木になっていった。社会の不正義に対してカメラを向けさせ始めたのは中村さんだった」。
 アメリカの原爆傷害調査委員会が、日本でどのような調査をしたのかの実態が明かされる。多くの被災者の血液を採血する。レントゲン写真を撮る。人体解剖は5千体を超える。
 瀬戸内海に浮かぶ祝島。1982年、中国電力は原子力発電所の建築計画を発表する。祝島の対岸近く、上関町だ。漁業権を売り渡した漁協もあるが、反対運動は今でも続いている。2009年以降、福島さんは、写真を撮り続けている。
 瀬戸内海の島々も撮影した。徳山湾に浮かぶ仙島にある戦争孤児施設だ。子供たちに、戦争中と同じように「報恩感謝」「無我献身」を説いている。
 60年代、安保闘争が始まる。福島さんは、学生たちの反体制運動を支持する。学生たちの叫びを、現場で撮る。「カメラの中立性なんてない。危ないところに入らないと“報道”というのはできない」と福島さんは考えている。
 1966年、新国際空港の建設反対運動を取材する。「俺たちは主権者」という老人たちに、福島さんは感動する。機動隊による強制代執行で、農民放送塔が破壊される。成田国際空港は、1978年に開港する。
 1967年から3年間、福島さんは、自衛隊と兵器産業の実態を撮影する。PRのためと偽っての取材で、撮影禁止の場所の隠し撮りも平然と行う。自衛隊のチェックを受けずに作品を発表する。当然、圧力がかかるが、福島さんはたじろがない。事実、福島さんは暴行され、家に放火されている。
 広島は、ずっと撮り続けている。1978年には「原爆と人間の記録」を刊行、写真展も開催する。
 高度成長の歪みとも言える「公害」を撮り、昭和天皇の戦争責任についても問いかける。

(c)2012『ニッポンの嘘 報道写真家福島菊次郎90歳』製作委員会

(c)2012『ニッポンの嘘 報道写真家福島菊次郎90歳』製作委員会

 いま、福島さんは、山口県柳井市で、愛犬のロクとひっそり暮している。まさにたまかな暮しである。スーパーで買い物をし、自炊する。バイクに乗り、補聴器屋さんに出入りする。国の年金は拒否している。
 昨年3月の地震と津波。昨年9月、福島さんは、福島県南相馬市の原発20キロ圏検問所や飯舘村を取材、撮影する。福島さんは思う。「今のフクシマがヒロシマに重なる」。
 監督の長谷川三郎さんは、ドキュメンタリー作家。映画の冒頭で、37キロしかない福島さんをおぶって階段を昇る。福島さんは軽いが、その仕事、人生の意味は、とてつもなく重い。

2012年8月4日(土)より
銀座シネパトス、新宿K’s cinemaico_link広島八丁座ico_linkほか全国順次ロードショー!

『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』公式Webサイトico_link

監督・脚本:長谷川三郎
朗読:大杉漣
撮影:山崎裕
録音:富野舞
編集:吉岡雅春
スチール:那須圭子
プロデューサー:橋本佳子、山崎裕
製作:Documentary Japan. 104 co ltd
制作プロダクション:Documentary Japan.
2012/日本/114分/カラー/デジタル
配給:ビターズ・エンド