学び!とシネマ

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ラーメンヘッズ
2018.01.25
学び!とシネマ <Vol.142>
ラーメンヘッズ
二井 康雄(ふたい・やすお)

 ラーメンに限らず、うどん、そば、スパゲティなど、めん類は一帯に好きである。評判のラーメンを、あちこち、食べ歩いている友人が、数人、いる。当方は、食べ歩くほどではないが、まあ、普通のラーメン好き、といった程度だ。
 東京や、東京近郊の人気ラーメン店は、いつ行っても、客が行列し、入れないことが多い。運良く入れて、食べると、行列するほどの店かと思ったりして、がっかりすることもある。
 一方、すぐ近くの、ごくごく普通の醤油ラーメン、中華そばが、意外とおいしかったりもする。作るほうは、苦労して、工夫して、めんやスープに、大変なこだわりをみせるが、結局は、個人の好みが大きく左右することになる。
 中国に何度か出かけたが、その都度、出かけた町のめんを食べる。北京では、牛肉めんが多いが、日本風のラーメン屋がある。博多のとんこつラーメン屋がある。中国各地のめんを食べることのできるフードコートがあちこちにある。おいしかったのは、日本風のとんこつラーメンと、今、日本で人気の、あっさりスープの蘭州めんだった。
 ドキュメンタリー映画「ラーメンへッズ」(ミッドシップ配給)には、さまざまな苦労をして、おいしいラーメンを提供しようとする人たちが、相次いで登場する。「ヘッズ」とは、狂う、バカ、といったほどの意味で、もちろん額面通りの意味ではないだろう。
 一応、主役がいる。「中華蕎麦 とみ田」の富田治だ。20歳で、伝説の名店「東池袋 大勝軒」の山岸一雄に出会う。以前、本欄で、「ラーメンより大切なもの~東池袋 大勝軒 50年の歴史~」というドキュメンタリー映画をレビューしたが、この映画の主人公が、山岸一雄である。富田は、山岸の弟子の弟子、つまりは孫弟子になるそうだ。
 映画は、富田の仕事と私生活を紹介しながら、丹念に富田の今を追いかける。
 富田は修行をかさね、2006年、千葉の松戸で「中華蕎麦 とみ田」を開く。今では、朝早くから並ばないと、お昼に間にあわないほどの人気店だ。その言うことが、いい。「3万円の料理は、味に満足してあたりまえ。こっちは、800円で、いかに満足してもらえるかだ」と。
 富田に、企業秘密はない。こだわりと自信がある。あきれるほど多くの材料からとったスープ。何種類もの粉を季節にあわせて調合し、打っためん。その製法、過程をカメラがとらえる。大変な自信である。撮影クルーが、「企業秘密という店も多いが……」と質問する。「大したことをやっていないから、見せられないだけですよ」。
 休みの日も、ほかの店のラーメンを食べる。家族との食事も、ラーメンである。
 今なお、富田の作る「つけ麺」は、進化し続けていて、一日に提供できるめんは、減り続けているらしい。
 富田の店だけではない。5軒ほどのラーメン店が出てくる。「中華そば 葉山」のめんは、店主の齊藤幸純が、自ら青竹で踏んで、コシをだす。「福寿」は、標準的な醤油ラーメンだ。店主の小林克也は言う。「ラーメンは生きる為、仕事をする為に食べるもの」と。「らぁめん 一福」は、みそラーメンで、「味噌汁の延長で、なつかしい、おふくろの味」と石田久美子。「鯛塩そば 灯花」の高橋登夢の作る、琥珀色したスープのもとは、鯛からだけ。「中華そば 井上」のメニューは、中華そばのみ。築地の人気店で、「多い日は、1000杯、作る」と松岡勝治。
 富田が店を開いて10年になる。富田は、おなじ業界の達人2人に、声をかける。究極のラーメンを作ろう、と。多くのラーメン好きが絶賛する「らぁ麺屋 飯田商店」の飯田将太、ミシュランで星を獲得した「Japanese Soba Noodles 蔦」の大西祐貴が、富田の誘いに応じる。
 3人の、まさに究極のラーメン作りがスタートする。
 「たかがラーメン、されどラーメン」という。簡単なモノを作っているように見えるが、提供する側の情熱、工夫、努力は、ハンパではない。かつて、何事もマネをして、いろいろな技術を磨いてきた日本である。だが、今は、いろんな業界で、手抜きだとか、偽データだとか、不正が目立つ。ラーメン業界でも、不味ければ、淘汰される。自然の流れである。
 映画は、思わず笑い、驚き、あきれてしまうシーンも多い。突如、日本のラーメンの歴史が、さりげなく紹介される。楽しい映画だが、これは、とりもなおさず、エンタテインメントの味付けの効いた、ラーメンを通じての「日本人論」だろう。
 理屈ではない。たかがのラーメンを作り、されどのラーメンを作る。たかがのラーメンを食べ、されどのラーメンを食べる。映画は、いろんなラーメンを作り、いろんなラーメンを食べる日本人たちのこころの世界を、活写しているようだ。

2018年1月27日(土)、シネマート新宿ico_linkシネ・リーブル池袋ico_link千葉劇場ico_linkほか全国順次熱々のロードショー

『ラーメンヘッズ』公式Webサイトico_link

出演:富田治(中華蕎麦 とみ田)、飯田将太(らぁ麺屋 飯田商店)、大西裕貴(Japanese Soba Noodles 蔦)、松岡勝治(中華そば 井上)、髙橋登夢(鯛塩そば 灯花)、石田久美子(らぁめん 一福)、齊藤幸純(中華そば 葉山)、小林克也(福寿)
監督:重乃康紀
プロデューサー:大島新
撮影:髙橋秀典
編集:齋藤淳一
プロダクションマネージャー:望月馨
共同プロデューサー:鎌田雄介、神野敬久
音楽プロデューサー:中嶋尊史
2017年/日本/93分/カラー/16:9
企画・製作:ネツゲン
配給:ミッドシップ