教育情報

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学校のIT化への対応
2011.03.07
教育情報 <日文の教育情報 No.100>
学校のIT化への対応
静岡県地域文化団体連絡協議会会長 庄田 武

■ 学校への情報技術の導入

 学校における情報技術の活用(IT化)が年々すすんでいるが、国では今後全国の小中学生にデジタル教科書を使用させることを検討している。
 デジタル教科書とは教科書、副読本はもとより関連するあらゆる情報を内蔵し、生徒の必要とする情報を瞬時にとり出せる小型映像端末である。教師はこれを使って生徒の実態に応じた個別指導を行うことになる。情報化社会は意識や行動の面で個人を構成単位とする社会であるから、学校においても生徒の多様な学習ニーズに応じた個別指導が必要になってくる。その意味で学校のIT化は時代に適合した有効な学習手段であると言えそうだ。
 ただ情報技術の進化は著しく、機器の使用という実態が先行し、子どもの精神的、肉体的発達との関連についての理論付けや成果、問題点等の検証や研究は十分ではない。そのためか学校のIT化について様々な意見がある。

■ IT化についての異見

 脳科学者や精神科医、文学者、教育学者の中にはテレビやパソコン、ケータイ等の情報機器操作の活動は、脳の前頭前野を活性化させないとか、映像でみる実験や観察の様子は記憶に残る可能性が低いと指摘する人がいる。また文章作成の折、手書きの場合は脳の動きが活発化するが、パソコンやケータイで文章をつくる場合は脳があまり動かないとも言う。パソコンやケータイに深くかかわっている子どもは他人とのコミュニケーションが不得手になり、周囲の人と人間関係を築いたり豊かな感性の発達が難しくなる等、子どもの成長過程で好ましくない影響があると主張する。
 情報や産業活動のグローバル化がすすむ現在、学校のIT化は時代の要請でもあるから阻止することはできない。とはいえIT化の問題点が学問的に証明されていないにしても、子どもたちが日常生活のレベルで共生や協働、協調が困難になったり脳力の低下をきたす懸念があるとしたら、それへの対応を考えなければならない。電子機器を使って学習効果をあげながら人間のもつ本来の力(仮に人間力という)も育てていくにはどうしたらよいか、教育界にとって大きな課題である。

■ 情報技術の導入と人間力の調和

 デジタル教科書等を導入した授業展開のモデル作成やカリキュラム開発は当然行うべきであるし、IT化と人間形成との関連の研究も重要であるが、当面現実論としての対応を考えてみたい。
 まず個々の教師が情報機器の必要性を理解し、自分自身がパソコンをはじめデジタル教科書等の情報機器の操作に習熟することである。その上で旧来の学習方法の実績を基に情報技術との調和を図ることが必要である。
 私たち日本人は従来から日常生活の中でごく自然に新技術と人間力の調和を心掛けてきた。例えば、日常自動車を利用している人が、運動不足や足の弱化を補うために徒歩やジョギングを行うというようなものである。精神的活動では読書力を育てるために全国のほとんどの中・高校で始業前や放課後一定時間読書をさせて読書の習慣化を図っている例がある。これらの実践にならって、学校で書き取りや手書きの文章作成等の活動を実施してみたらどうだろう。さらにことばを使う話し合いの訓練を行うことも必要である。
 電子機器の発達のためか、今の日本では人間の感覚のうち視覚を偏重する傾向が強いが、他の感覚の活動も促すべきであろう。バランスのとれた人間形成のためには芸術、スポーツ、技術(工作)等身体を動かす活動や実験、観察の学習に努力すべきと考える。
 学校のとりくみとしては、子どもの多様な学習ニーズに応えるため学年や学級の枠を越えた学習集団をつくって子どもの適性、興味、関心、習熟度に応じた指導を行うことも考えてみてはどうか。新しい事態に対応するためには優れた教師集団を組織することが求められる。元々教師は担当する学級を一人で受けもって授業を行うという仕事の性質上、組織的に学習指導することが一般に苦手である。しかし高機能をもつ電子機器を使って個別の学習ニーズに応えるということは、全く未知の経験であるから互いに助け合うことが重要である。
 個々の教師が、自分の特技や専門性を基に研鑽を積み、情報化時代にふさわしい教師像、教師集団像を構築して新しい時代に堂々と立ち向かってもらいたいと、切に願うものである。
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