教育情報

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地域コミュニティの形成と学校の役割
2011.02.25
教育情報 <日文の教育情報 No.99 臨時号>
地域コミュニティの形成と学校の役割
前宮崎市教育長 財団法人宮崎文化振興協会理事長 田原 健二

■ 自立した地域社会

 学校が、その役割を十分に果たすには、地域社会との連携・協力が不可欠であることは理解され、かつ実践されてきている。
 一方、学校教育における諸問題の中には、地域社会の教育力の弱体化に起因する問題が指摘されていることも事実である。また、社会変動やアイデンティティの希薄化など地域社会の存在そのものが問われるようになってきている現状もある。
 ここに学校と地域社会との関係を、地域コミュニティという概念で整理する必要性があると考える。なお、地域コミュニティとは、「地域社会が自らの課題に対して自らの力を統合して解決していく」ことのできる「自立した地域社会」(平20・中教審答申)と定義する。
 旧来の自然発生的な地域共同体である地域社会と異なり、意図的に創造されるべき共同体としての地域コミュニティという概念を用いることによって、学校と地域社会との連携の在り方について、新たな視点が得られると考える。
 以下、宮崎市における学校と地域自治区が連携した二つの取組を紹介する。

■ 開かれた学校づくりと学校評価

 宮崎市における学校評価は、各学校での自己評価に加え、中学校区(地域自治区)ごとに10名程度で構成される学校関係者評価委員による学校関係者評価を行っている。
 学校関係者評価の目的は、「学校と保護者と地域住民が、学校運営の現状と課題について共通理解をもち、解決への建設的な協働作業を行うこと」(「宮崎市学校関係者評価委員設置要綱」)である。
 学校評価を契機として、それぞれの学校の教育的課題が保護者・地域住民にも共有され、その課題解決に向けて保護者・地域住民の協働作業を学校がコーディネートしていくことは、開かれた学校づくりとして重要である。
 また、学校評価を、学校のみならず学校関係者評価委員自らが保護者・地域住民への説明責任の担い手になることで、〈地域と学校〉から〈地域の中の学校〉という関係性に保護者・地域住民の意識が変化するものと考える。

■ 学校と地域自治区を結びつける学校支援地域本部事業

 学校支援地域本部事業は、学校と地域社会で双方向の相互補完的な支援関係を構築し、子ども達の人間関係を広げる機会を提供することによって、子ども達の多面的な発達を促進することができる。
 宮崎市では、地方自治法に基づく地域自治区が設置され、地域住民の意見を市政に反映させるためそれぞれに地域協議会が設けられ、その活動の実践組織として、まちづくり推進委員会が組織されている。
 学校支援地域本部事業では、この地域協議会・まちづくり推進委員会と学校が地域コーディネーターの調整のもとに連携・協力している。地域社会が学校の教育活動を支援する学校支援ボランティア活動や、学校が地域行事への参加など地域活動を支援する活動を双方向で推進している。
 双方向での支援活動によって子ども達は、地域社会に対してアイデンティティを獲得することができるものと考える。

■ 地域コミュニティの形成

 学校と地域社会の連携は、単に学校や地域社会の教育活動の充実という視点だけでなく、学校づくり、地域づくりというより大きな視点をもって推進されなければならない。
 紹介した二つの事例は、双方向で連携することで、教育環境を子どもの発達に有用なものにレベルアップする試みであり、地域住民を含めた学校づくりは地域づくりに、地域づくりに関わる学校は学校づくりになることを意図している。それは、開かれた学校づくりという理念の実現であり、「自立した地域社会」すなわち地域コミュニティの形成をめざすものである。

 アンケート調査(「市広報№794」平21.12)の結果、地域活動などが衰退したため住んでいる地域のつながりが10年前と比べて弱くなったと約半数の市民が感じている。また、安らぎや安心、子育てのためにも地域のつながりは必要とする市民は約9割である。
 そのような中で、地域社会の教育力のアップを視野に入れ地域コミュニティによる問題解決の取組を始めた学校は、過渡的な負担感を負っているのが現状である。地域社会のバックアップが欠かせない事を最後に指摘しておきたい。
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