高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

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(高等学校 美術/工芸)

「空間概念 期待」 ルチオ・フォンタナ作
2009.12.01
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.006>
「空間概念 期待」 ルチオ・フォンタナ作
高校美術教科書「美・創造へ1」P25掲載 大原美術館蔵
油彩/キャンヴァス/115.5×89cm/1961/Concetto spaziale,1961(C)Lucio Fontana by SIAE 2009
油彩/キャンヴァス/115.5×89cm/1961/Concetto spaziale,1961 (C)Lucio Fontana by SIAE 2009

 イタリアを代表する前衛芸術家、ルチオ・フォンタナの作品です。題名は《空間概念 期待》。赤く塗り込めたキャンヴァスに、軽やかな曲線をえがく三筋の切れ目が入れられています。
 フォンタナは、この作品のように、ひと色で塗り込めたキャンヴァスに、ナイフで切れ目を入れた作品を1000点近く制作しました。その多くには、この作品と同じ《空間概念 期待》という題名がつけられています。
 この題名には、ある法則があります。日本語に訳するとわからなくなってしまいますが、元の言語であるイタリア語では、切れ目がひとつの作品には、「期待」を意味する「Attesa(アテッサ)」という単数形の単語が当てられ、対して、切れ目が複数の作品には、同じく「期待」を意味する「Attese(アテッセ)」という複数形の単語が当てられています。
 切れ目がひとつの作品には、ひとつの期待、切れ目が複数の作品には、複数の期待。つまり、この題名にある「期待」とは、この切れ目そのものを指していると考えられるのです。
 フォンタナは、「画家として、キャンヴァスに穴を穿つ時、私は絵画を制作しようと思っているのではない。私は、それが絵画の閉鎖された空間を越えて無限に拡がるよう、空間をあけ、芸術に新しい次元を生みだし、宇宙に結びつくことを願っている。」(Jan van der Marck,”Lucio Fontana:From Tradition to Utopia”,op.cit.「フォンタナ展」図録 富山県立近代美術館他 1986年)と述べています。
 時代が移り、人々の生活が変わっても、依然として絵画や彫刻といった芸術の枠組みが変化しないことに強い疑問を抱いたフォンタナは、絵画という芸術を支えてきたキャンヴァスに穴をあけ、絵画という枠組みを、文字通り突破しようとしたのでした。

(大原美術館 主任学芸員 吉川あゆみ)

■大原美術館ico_link

  • 所在地 岡山県倉敷市中央1-1-15
  • TEL 086-422-0005
  • 休館日 月曜日(ただし、祝日、7月下旬~8月、10~11月は無休)、年末

<展覧会情報>

  • コレクションテーマ展28「新収蔵作品展 2006-2009」
  • 10月1日(木)~12月27日(日)

展覧会概要

  • 大原美術館が2006年以降に新規収蔵した、現代日本の作家たちの作品を一堂に公開。

【展示作家】 淺井祐介 会田誠・加藤愛 岩熊力也 植松奎二 太田三郎 岡田修二 押江千衣子 小野博 鯉江真紀子 東島毅 樋口佳絵 彦坂敏昭 北城貴子 町田久美 三瀬夏之助 ログズギャラリー

<次回展覧会予定>

  • コレクションテーマ展29「白樺派誕生100年 夢の美術館」
  • 2010年1月1日(金)~2月28日(日)

その他、詳細は大原美術館Webサイトico_linkでご覧ください。