高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

テーブル・ランプ「Kシリーズ」 倉俣史朗作
2010.03.01
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.009>
テーブル・ランプ「Kシリーズ」 倉俣史朗作
「工芸Ⅰ」P.52掲載 宇都宮美術館蔵
スティール・アクリル/高さ37cm(小)/1972
スティール・アクリル/高さ37cm(小)/1972

 白い一枚の布をつまんだような美しいドレープが特徴的なこのランプは、《Kシリーズ》という製品シリーズの名前よりも、むしろあの漫画のキャラクターと同じ「オバQ」の愛称でよく知られています。これは作者が作品発表時に命名した「フロア・ランプ『ランプ オバQ』」に由来しています。本作のデザイナー倉俣史朗は、戦後日本のインテリアデザインや家具デザインの分野において既存のデザイン的方法論を根底から覆すような前衛的な作品を次々に発表し、時代の寵児となった人です。
 例えば、《硝子の椅子》(1976年)は座面や背もたれなどすべてがガラスのみで作られており、まさに”透明”の椅子といったところですが、逆にモノとしての限りない存在感があります。一方、長方形の引き出し家具《変型の家具 SIDE1》(1970年)では、合板という普通の素材が使われていますが、家具自体がゆるやかなS字に変形しており、引力の法則に背くようなその特異な形状は見る者を驚愕させます。
 お化けのような乳白色のアクリルのシェードの形状にも見られるように、この《Kシリーズ》においても倉俣は<浮遊感>あるいは<うつろい>といった、やはり人間の知覚や感情に深く訴えるようなデザインを志向しています。
 実はこのランプは、限りなく手作りに近い方法で制作されています。正方形のアクリル板を熱し、4人の職人が四方から柱状の型の上にかぶせ、空気を吹き付けたりしながら、独特のかたちを生み出します。ですから、一見同じようなプロダクトに見えますが、どれもディテールは微妙に異なっています。
 「照明」という実用的な役割のみに終始することなく、このランプは我々にとって身近であり根源的な存在である「光」の不可思議さやその限りない魅力をそっと照らし出してくれているかのようです。

(宇都宮美術館 学芸員 前村文博)

宇都宮美術館ico_link

  • 所在地 栃木県宇都宮市長岡町1077
  • TEL 028-643-0100
  • 休館日 毎週月曜日、祝日の翌日

<展覧会情報>

  • 大原美術館名品展 モネ、マティスから濱田庄司まで
  • 2010年2月14日(日)~4月4日(日)

展覧会概要

  • 大原美術館コレクションから、モネやマティス、梅原龍三郎、安井曾太郎などをはじめとする、西洋と日本の近代美術、現代美術、また、栃木県にゆかりの深い陶芸家濱田庄司など合わせて76作品(85点)を展示。

<次回展覧会予告>

  • 没後10年 小倉遊亀展
  • 2010年4月18日(日)~5月30日(日)

その他、詳細は宇都宮美術館Webサイトico_linkでご覧ください。