高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

「大和路」 奥村土牛作
2010.04.01
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.010>
「大和路」 奥村土牛作
「高校美術1」P.12掲載 山種美術館蔵
紙本着色/91×119.5㎝/1970
紙本着色/91×119.5㎝/1970

 「白毫寺(びゃくごうじ)のある、奈良の白毫寺村の一隅を描いた。今は町になっているが、当時村であった。」(『奥村土牛』文藝春秋 1979年)と語っているように、作者は奈良に取材しています。この斜めにのびてゆく古びた家並みと土塀は、西洋絵画の遠近法を用いて奥行きと空間の広がりを表しています。
 歴史画や挿絵で名を馳せた梶田半古に師事した土牛でしたが、その指導のほとんどは兄弟子の小林古径から受けました。古径の教えは大局的で細かいことは言わずに、日本の古典のみならず、中国・宋代の名画、ヨーロッパ絵画の複製をだまって見せてくれるというものでした。また『白樺』で紹介されていた西洋絵画にも触れ、中でもセザンヌに惹かれていたといいます。そして、セザンヌの画集から素描などを模写した土牛は、長い年月をかけて西洋絵画、日本の古典などを咀嚼した後、独自の描き方を生んだといわれます。西洋絵画から学んだ構図ばかりでなく、何度も薄塗りを繰り返した絵の具の質感と風合いに、土牛作品の特徴があります。本作で試された存在感のある土塀が、後に描いた《醍醐》(1972年)の背景の土塀に生かされています。《醍醐》では、土塀に何度も胡粉を塗り、「こく」を出すのに苦心したと作者は語っています。
 土牛が本作品を描いたのは81歳。自著『牛の歩み』(日本経済新聞 1973年)で「私はこれから死ぬまで、初心を忘れず、拙くとも生きた絵が描きたい。むずかしいことではあるが、それが念願であり、生きがいだと思っている。」と述べているように、84歳になってもなお、若々しい感性で前向きに画業を追究しようとしています。そして101歳で天寿をまっとうするまで、ひたむきに絵筆をとりつづけました。

(山種美術館学芸員 櫛淵豊子)

山種美術館 ico_link

  • 所在地 東京都渋谷区広尾3-12-36
  • TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル) 03-5467-1101(直)
  • 休館日 毎週月曜日(祝日は開館、翌日火曜日は休館)、展示替え期間、年末年始

<展覧会情報>

  • 開館記念特別展Ⅳ 生誕120年 奥村土牛
  • 2010年4月3日(土)~5月23日(日)

展覧会概要

  • 2009年に迎えた奥村土牛(1889-1990)の生誕120年を記念し、その人と芸術をたどる展覧会を開催します。国内外屈指の「土牛コレクション」といわれる山種美術館所蔵品から、院展出品作を中心として、季節の草花や十二支をテーマに描かれた作品なども加えた約70点を選び、土牛の画業と芸術の粋を紹介します。

<次回展覧会予定>

  • 開館記念特別展Ⅴ 浮世絵入門 -広重《東海道五拾三次》一挙公開-
  • 5月29日(土)~7月11日(日)

その他、詳細は山種美術館Webサイトico_linkでご覧ください。