高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

「優しい女」 ジョルジュ・ルオー作
2010.07.30
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.014>
「優しい女」 ジョルジュ・ルオー作
「高校美術2」P.17掲載 出光美術館蔵
油彩/紙(キャンヴァス地で裏打ち)/57×49㎝/1939/(C)CADGP,Paris&SPADA,Tokyo,2010
油彩/紙(キャンヴァス地で裏打ち)/57×49㎝/1939/(C)ADGP,Paris&SPADA,Tokyo,2010

 頭には愛らしい髪飾り、首には豪華なネックレスをつけて着飾っているこの女性(あるいは少女)は、ルオーが得意としたサーカス、または、旅芸人一座のスターを描いたものだと思われます。こちらに顔を向けた女性の姿は、両目をしっかりと閉じ、静かで穏やかな表情をしています。清楚で気品をたたえた本作は、ルオーが描いた数ある女性像の中でも、最も魅力的な作品のひとつといえるでしょう。
 ルオーの作品に共通する特徴として、なんといっても鮮やかな色彩表現と、黒くて太い輪郭線の多用があげられます。これは、ルオーが画家として自立する前に修行した、教会の窓ガラス装飾などに用いられるステンドグラスを制作する工房での研鑽の影響と考えられています。ステンドグラスに見られる特殊な制作技法、つまり、さまざまな色ガラスを黒く太い鉛の枠でつないで図柄を表すという技法が、ルオー作品の表現上の特徴として残ったものと思われます。
 さて、ルオーが生きていた頃のヨーロッパは、今と変わらぬ豊かな都市での生活というものが登場した時代でもあるとともに、2度の世界大戦を経験するなど絶望的な現実ももたらされました。このような中で、敬虔なカトリックの信者であったルオーは、その信仰に基づき、この世の救いというものがキリストの無償の愛によってもたらされるのだというメッセージを、作品を通して発信し続けたのでした。ルオーの描くこの女性の姿にも、神への切なる祈りの気持ちと、それによってもたらされた充足感が感じられます。

(出光美術館 学芸課長代理 八波浩一)

出光美術館 ico_link

  • 所在地 東京都千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
  • TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • 休館日 月曜(ただし月曜日が祝日・振替休日の場合は開館し、連休の翌日に休館)

<展覧会情報>

  • 日本のヴィーナス -浮世絵と近代美人画-
  • 2010年7月31日(土)~9月12日(日)

展覧会概要

  • 江戸時代の浮世絵と近代の美人画を中心に、古くからかたどられてきた美しい女性の姿をご堪能いただけます。なお、会期中8月22日までルオーの「優しい女」を特別に展示いたします。

<次回展覧会予定>

  • 「生誕260年 仙厓 -禅とユーモア- 」展
  • 2010年9月18日(土)~11月3日(水・祝日)

その他、詳細は出光美術館Webサイトico_linkでご覧ください。