高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

「インサイダー」 アントニー・ゴームリー作
2011.09.01
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.027>
「インサイダー」 アントニー・ゴームリー作
「高校美術2」P.40掲載 霧島アートの森蔵

5体のうち1体部分/鋳鉄/193×190.6×27cm/1999

5体のうち1体部分/鋳鉄/193×190.6×27cm/1999

 薄暗い森の奥へと続く長い階段を下っていくと、シラキの若木が軽快な垂直線をつくりだし、その葉の間から降り注ぐ木漏れ日によって光あふれた空間が目の前に広がります。アントニー・ゴームリー作「インサイダー」は、霧島の湿潤な気候、繁茂する植物が醸し出す独特の空間の中を、作家自らが歩き回り発見したこの特別な場所にあります。
 ゴームリーは1950年にロンドンに生まれ、オックスフォード大学で人類学を学んだ後、美術家をめざします。ゴームリーは、人間の存在について哲学的な問いを投げかけ続ける彫刻家で、1981年より自らの体に石膏を塗って型取りした「ボディー・ケース」シリーズを制作するようになります。
 「インサイダー」は、一見するとゴームリーの身体と遠くかけ離れているように見えますが、自らの身体で型取りしたものから数学的法則に基づいて抽象化したものです。そのかたちは、身体の中の核としてのもう一つの身体といえます。人間は生きていく中での様々な体験を記憶として体に刻んでいきますが、「インサイダー」は身体に対する記憶と同じようなものなのです。
 ゴームリーは、人々が「インサイダー」に出会うために森を通過していく道すがら、自分自身の呼吸や心臓の鼓動への意識が高まったり、自分がどこにいて、どこへ向かっているのかと自問したりできるような特別な感情をひきおこす場所をつくるために、森の奥にポーズの異なる5体の作品を設置しました。
 目の前に現れたもの言わぬ細長い彫刻は、彫刻も自分自身も自然の一部かもしれないと来訪者に思いを馳(は)せてもらうために設置された、森の中のアンテナのようなものなのかもしれません。

(霧島アートの森 学芸専門員 前野耕一)

■霧島アートの森ico_link

  • 所在地 鹿児島県姶良郡湧水町木場6340-220
  • TEL 0995-74-5945
  • 休館日 月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日)

<展覧会情報>

  • 「八谷和彦展 -OpenSky in KIRISHIMA-」
  • 2011年7月15日(金)~9月25日(日)

展覧会概要

  • メディアアーティスト八谷和彦による本展は、SFコミックの中に出てくる架空の航空機を、実際に有人飛行可能な機体として制作するOpenSkyプロジェクトの軌跡をたどりながら魅力を伝える展覧会です。

<次回展覧会予定>

  • 「高嶺 格展 とおくてよくみえない」
  • 2011年10月7日(金)~12月4日(日)

その他、詳細は霧島アートの森Webサイトico_linkでご覧ください。