高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

「彼岸花」 香月泰男作
2011.08.01
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.026>
「彼岸花」 香月泰男作
「高校美術1」P.06掲載 香月泰男美術館蔵

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クレヨン、墨/色画用紙/52.3×31.5cm/1962-67

 花瓶に生けられた彼岸花が描かれています。これは自身の従軍と抑留体験をもとにした、「シベリヤ・シリーズ」で知られる画家、香月泰男の作品です。
 1947年(昭和22年)の復員後まもなく、香月はシベリア関連の絵画を描き始めましたが、2年ほどで制作を中断します。その後約10年にわたり、シベリアを表現するのにふさわしい様式を求めて、試行錯誤を重ねました。そして、方解末(日本画の顔料)を混ぜたイエローオーカーの下地と、木炭の粉末を用いた黒色の絵の具からなる、香月独特の様式を確立させ、本格的に「シベリヤ・シリーズ」に取り組むのです。
 油彩画においてこの様式を完成させた時期、香月は水彩画でも独自の技法を生み出します。香月自身が「着色素描」と呼んだ墨を使用したスタイルで、『彼岸花』もこの方法で制作されました。最初に、モチーフの重要な部分をクレヨンで着彩します。続いて薄めた墨を刷毛にふくませ画面全体にのばした後、棒状の墨を用いて細部を描き込んで完成させます。花弁や茎、花瓶に見られる鋭い線は墨の角で引き、花瓶が置かれた台の模様は、墨の平らな面を押し付けるように使って表現しています。
 香月はモチーフの特徴を瞬時に見抜いて、薄墨で湿らせた画面が乾かないうちに、一気に作品を仕上げました。1枚の水彩画を描くときであっても、自らの持つ技術の全てをつぎ込むように真剣に取り組む姿勢は、香月が大切にした「一瞬一生」の境地につながっています。

(香月泰男美術館 学芸員 中野淑恵)

■香月泰男美術館ico_link

  • 所在地 山口県長門市三隅中湯免226番地
  • TEL 0837-43-2500
  • 休館日 火曜日(祝日の場合は開館、翌平日休館)

<展覧会情報>

  • 生誕100年 香月泰男 欧州遊学スケッチ展Ⅱ
  • 2011年6月24日(金)~9月19日(月)

展覧会概要

  • 香月泰男が1956年秋から約半年間に及ぶヨーロッパ旅行の際に持参したスケッチブックに残る作品群を、2011年の香月生誕100年を記念し、5回に分けて初めて公開しています。
    第2回目となる本展では、スペイン各地やパリ、ローマで描かれた作品を展示します。

<次回展覧会予定>

  • 生誕100年 香月泰男 黒への確信-シベリヤ里帰り展-
    (同時開催)欧州遊学スケッチ展Ⅲ
  • 2011年9月28日(水)~11月28日(月)

その他、詳細は香月泰男美術館Webサイトico_linkでご覧ください。