高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

「彫刻と女」 松本竣介作
2011.12.28
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.031>
「彫刻と女」 松本竣介作
「高校美術3」P.29掲載 福岡市美術館蔵

油彩/キャンヴァス/117×91.2㎝/1948

油彩/キャンヴァス/117×91.2㎝/1948

 描かれたモチーフはどれも、西洋美術の伝統を踏まえたものだと考えられます。彫刻は言うまでもなく、女性の豊かな髪や衣服を透ける体の線は、ギリシャ神話から抜け出して来たかのように堂々としており、画面右下の斜めに傾いたサインは、空間の奥行きを示す線遠近法に則っているように見えます。しかしそれらはどれも、少しずつちぐはぐです。女の手足はちょっと大きすぎるようですし、線遠近法は徹底していません。彫像を載せる台は、奇妙に足の長い電話台のようではありませんか。それでいてこの作品には中途半端な印象はかけらもなく、どこか胸が痛くなるようなひたむきさを感じさせるのです。なぜでしょう。
 女と彫像の間の白い部分に注目して下さい。絵の正面に立つと、必ず目に入るのがここです。女とこの部分の青白い色は、上から色を重ねずに残された地塗りの色です。塗り重ねるのではなく塗り残すことで表現されたこの色は、「彫刻と女」の謎めいた特徴をよく表しています。淡紅色の上塗りが施された女の上半身と比べ、彫像との間はひときわ白く、光っているように見えます。「光」と呼ぶにはあまりに儚(はかな)い表現にも見えますが、作者はそのことを承知していたでしょう。なぜなら決して応えはしない彫像に触れるという女の行為もまた、「かたち」を表す線の内側に閉じ込めることのできない「光」を描くようなことだからです。触れて確かめることのできない遥かな世界への憧れが、この絵には託されているのかもしれません。
 作者の松本竣介(1912-1948)は、東京で活動した画家です。少年期の病気が元で聴覚を失っていた松本は、徴兵を免れたために第二次大戦中も東京に留まり、重要な作品を制作しました。「彫刻と女」は終戦から3年後、彼が36歳の若さで病没する直前に完成し、遺作となった3点の油彩画の内の1点です。

(福岡市美術館 学芸課 吉田暁子)

■福岡市美術館ico_link

  • 所在地 福岡市中央区大濠公園1-6
  • TEL 092-714-6051
  • 休館日 月曜日(月曜日が祝・休日の場合は開館し、次の最初の平日が休館)、12月28日~1月4日

<展覧会情報>

  • 企画展 レオナルド・ダ・ヴィンチ美の理想 展
  • 2012年1月5日(木)~3月4日(日) 特別展示室A

展覧会概要

レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)の貴重な習作、弟子やレオナルド派による絵画など日本初公開を数多く含む作品約75点を紹介し、レオナルドが生涯をかけて追求した「美」とその系譜をたどります。※会期中一部展示替えがあります。

  • 常設企画展 第10回21世紀の作家-福岡 鈴木 淳 展
    なにもない、ということもない
  • 2012年1月5日(木)~3月25日(日) 2F常設展示室内企画展示室

<次回展覧会予定>

  • 第46回福岡市美術 展
  • 2012年3月13日(火)~3月25日(日)

その他、詳細は福岡市美術館Webサイトico_linkでご覧ください。