高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

「那智瀧図」
2012.02.01
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.032>
「那智瀧図」
「美・創造へ1」P.15掲載 根津美術館蔵

絹本着色/159×57.8cm/13世紀末

絹本着色/159×57.8cm/13世紀末

 紀伊半島の南端、熊野・那智山にある瀧を描いた絵画。日本では、古くから山や瀧、樹木や岩などに聖霊が宿ると考えられ、高さ133メートルを一気に落下する那智瀧も神聖なものとみなされていました。その後、仏教が普及するにしたがい、日本古来の神々は、実はインドの仏さまが、日本人のために姿を変えて現れたと考える神仏習合(しんぶつしゅうごう)の思想が広まります。それゆえ、神聖な那智瀧も、仏教の千手(せんじゅ)観音が姿を変えたものとみなされるようになります。ですから、この絵は、たんなる風景画ではなく、神でもあり仏でもある瀧を描いた宗教絵画なのです。
 絵の上の方では、崖の上には紅葉した木々が茂り、金色の月がのぞいています。暗い色の崖を白い瀧は一直線に落下し、途中の岩壁に当たって幅を広げ、やがて岩場に落ちて三方向に流れてゆきます。まっすぐに落ちてゆく瀧の、神々しい姿を描いていると言えるでしょう。下の方には、緑の葉を茂らせた杉の木立や、瀧を礼拝するために建てられた拝殿の屋根(赤茶色の部分)が見えます。
 誰が、何のためにこの絵を描いたのかは、記録が無いため明らかではありません。しかし、拝殿の向かって左側に描かれた大きな碑は、弘安4年(1281)にこの地に詣でた亀山上皇(1249‐1305)が、参拝の記念に建てたと考えられており、このことから、熊野御幸(くまのごこう)から帰ったのち、13世紀末から14世紀初めのころ、上皇が、京にいながらにして、はるか遠くの那智瀧を礼拝できるよう描かせたのではないかと推測されています。
 日本人の自然に対する敬虔な思いや日本独自の宗教観を、一筋の瀧の姿に表したこの絵は、日本の宗教絵画を代表する作品の一つにあげられています。

(根津美術館 学芸部 白原由起子)

■根津美術館ico_link

  • 所在地 東京都港区南青山6-5-1
  • TEL 03-3400-2536
  • 休館日 月曜日(月曜日が祝日の場合は、翌火曜日)・展示替え期間・年末年始

<展覧会情報>

  • 特別展 虎屋のお雛様
  • 2012年2月25日(土)~4月8日(日)

展覧会概要
和菓子の老舗「虎屋」に伝わる雛人形と極小雛道具約270点を展示します。雛人形は,きらびやかな衣装と端正な面差しの京雛。雛道具は,極小でありながら細部にまで蒔絵をほどこしたものなど,華やかな品々が並びます。

<次回展覧会予定>

  • KORIN展 -国宝「燕子花図」とメトロポリタン美術館所蔵「八橋図」-
  • 2012年4月21日(土)~5月20日(日)

その他、詳細は根津美術館Webサイトico_linkでご覧ください。