学び!と道徳2

学び!と道徳2

道徳科の評価②
2018.06.25
学び!と道徳2 <Vol.09>
道徳科の評価②
岡田 芳廣(おかだ・よしひろ)

 6月になり早稲田大学のイチョウ並木が萌黄色の新葉から深緑の葉へとすっかり変わりました。梅雨の恵みの雨や夏の強い日差しを受け、さらに葉が茂り、そして11月になると見事に紅葉して、校内に黄色いじゅうたんを敷き詰めます。毎年の繰り返しですがイチョウの強い生命力を感じます。しかし、単に見ているだけではイチョウの成長がよくわかりません。40年前、私が大学生だった時に比べれば確かに幹が太く立派になりましたが、1年1年の成長はよく見えません。どうすればイチョウの成長を把握することができるでしょうか? 道徳科では『物事を広い視野から多面的・多角的に考え』とあります。イチョウを前から見るだけではなく、幹を切って上から見れば年輪がイチョウの成長を表しているでしょう。外から見えない心の成長も、長い時間の経過や違った視点から見ることにより把握することができるのではないでしょうか。
 今回は、前回から引き続き道徳科の評価の在り方について具体的に考えていきたいと思います。見えにくい心の成長をどのようにして可視化するか。さらに、その評価を生徒や保護者にどのように通知すればよいかについても提案したいと思います。先生方に少しでも参考にしていただけるようになればと考えています。

1 評価方法

「評価方法について考えてきましたか?」
「はい! 僕は中央教育審議会の答申に述べられている『ポートフォリオ評価』について考えてみました。ポートフォリオ評価は学習の記録を振りかえることにより成長を評価する方法ですので、授業で使っているワークシートを毎回ファイルに保存して、学期末や年度末などに見直すとよいと思います。」

認知評価シート(ワークシート)

「響君、宿題をやってきましたね! ポートフォリオとは、画家や写真家が自分の能力を示すために作られた作品集のことです。教育の分野では、生徒の作品、感想文、ワークシート、ノート、自己評価表、教師からのフィードバックや評価などを蓄積したファイルのことを言います。このポートフォリオを振り返ることにより生徒の変化や成長の状況を先生はもとより生徒自身も把握することができます。ポートフォリオ評価を効果的に実施するにはいくつかの工夫が必要です。一つは、参考資料『認知評価シート(ワークシート)』のようにある程度形の決まったワークシートや自己評価表を使用すると変化の状況が把握しやすくなります。もう一つは、ワークシートや自己評価表に先生からの一言などのフィードバックを生徒一人一人に書いてあげることも効果的です。三つ目としては、生徒が振り返りをするときの視点を指示してあげることです。漠然と眺めていてもなかなか先生が意図する変化や成長に気づいてくれませんので、『印象に残っている授業はどれですか。その理由は何ですか。』『生活していて実際に役立った内容はありましたか。』などの問いを生徒に投げかけることも大切です。答申にはもう一つ別な評価方法が紹介されていると思いますが?」
真理「『パフォーマンス評価』です。論述やレポートの作成、発表、グループでの話し合い、作品の制作などの活動を評価するとありますが……?」
「そうですね。パフォーマンス評価はフィギュアスケートの採点方法だと思ってください。フィギュアスケートでは、選手の演技を採点員が一定の基準に基づいて採点します。同様にパフォーマンス評価も課題に対する生徒の取り組みをルーブリックという評価基準を基に評価します。フィギュアスケートでは、ジャンプ・ステップ・スピンなどの技を演技の中に必ず入れるような課題が出されています。パフォーマンス評価ではどのような課題を与えるかも大切なポイントです。」
真理「実技教科は実際に作品を作ったり、演技をしたりすることができますが、道徳科ではどのような課題を与えればよいかな?」
道子「生徒がどのように問題を解決すればよいか、どのような生き方をすればよいかを道徳的価値を基に考えて話し合う課題がいいとも言われています。」
「そうですね、学習指導要領が求めている『考え、議論する道徳』や『深い学び』がパフォーマンス評価の場になりますね。またそのような活動において、友達の考えや発表について感想を述べたり、質問をしたりするような相互評価を生徒間で行わせることにより生徒自身の学習への評価がさらに深まります。」
「ポートフォリオ評価とパフォーマンス評価以外にも評価方法はありますか?」
「人材育成のために使われている手法として、結果だけでなくそこまでに至る過程(プロセス)を評価する『プロセス評価』という評価方法があります。
 学習においても、先生が生徒の学習プロセスを観察し、その学習状況を評価する方法が考えられます。また、この学習プロセスは生徒にどこまで考えられたかという学びの達成感を自覚させることもできます。道徳科では、道徳的価値を正しく理解するとともに、自分自身がその価値を自覚して行動しているか自己を見つめてみることが、道徳的行為を実践するためには大切なポイントです。つまりこのことは道徳的価値を認知し、さらにメタ認知することにより認知的行動へとつながる認知的な学習プロセスです。先ほど紹介した参考資料はこのような学習プロセスを基に作成したものです。今後は生徒の思考に沿った授業の展開を考えて、授業を行い、評価することも考えられるのではないかと思います。」
道子「岡田先生、学習のプロセスごとの評価はどうすればよいでしょうか?」
「発問に対する意見、ワークシートへの記入内容、感想文、自己評価、生徒同士の相互評価などがあります。
 図の『心のグラフ』は、円グラフによって自分の考えや思いの割合を扇形の面積で示すものです。考えたり、議論したりする中で、生徒自身が視覚的に自分の心の変化や成長をとらえることができます。この他に、数直線上に自分の位置を示す方法などもあります。皆さんも考えてみてください。」

2 評価の通知

真理「評価の方法についてはわかりましたが、その評価をどのようにして生徒や保護者に伝えるかが問題だと思います。」
「数値ではなく記述式で通知しなければならない。生徒や保護者が納得していないようなことを書いたらまずいな……。」
道子「生徒の問題点ばかりを書くわけにもいかないし……。先日の中学校道徳教育セミナーでも多くの先生方が心配していました。岡田先生、どのようにしたらよいでしょうか?」
「そうですね。生徒のマイナス面ばかりでは道徳科に対する学習意欲がなくなりますし、納得できないような評価を書けば生徒や保護者の先生に対する信頼感が揺らぎます。評価の通知は、生徒の良いところしっかりと把握し、認め励ますようなプラス思考の評価でなければなりません。また、生徒の日ごろの行動や言動を観察することにより、 道徳性の成長の様子をより正確に把握することができると思います。さらに、道徳性は人格を構成するものであるので、個々の内容項目ごとに評価するのではなく、大くくりなまとまりとして評価することも忘れてはなりません。そのためには、先生は多面的・多角的な視点から生徒を見つめ、評価していかなければなりません。そのような評価を行うための方法として、生徒自身の学習への評価を活用することが考えられます。毎時間の自己評価表の記述内容やポートフォリオに対する振り返りをもとに具体的に記入するとよいでしょう。例えば、ポートフォリオの振り返りで一番印象に残っている授業が生命は死んでも親から子供へと続くことであったら、『生命の大切さについてしっかり考えていました。』と単に道徳的価値について記入するのではなく、『授業ではしっかり考え、発言していました。特に生命についての学習では、生命の大切さを生命の有限性や連続性の視点から深く考えていました。』と通知したらどうでしょうか。」
「なるほど、生徒が自分で考え記入した内容ならば生徒は納得しているし、保護者にも説明できますね!」
道子「考えていてもワークシートなどに自分の考えを記入しない生徒にはどうすればよいですか?」
「確かに書くことが苦手な生徒もいますね。そのような生徒にはどのように考えているか個別に聞き取るような支援をすることで解決します。なお、評価は学級担任の先生が一人で行うことが多いですが、学年の先生や部活動の先生など複数の先生からも評価していただくことも大切だと思います。」

 第8回、第9回と連続して道徳科の評価について述べましたが、いかがでしたでしょうか? 道徳が教科となり評価をどうするかは中学校道徳教育セミナーでも大きな話題になっていました。この課題を解決するには、「指導と評価の一体化」「学びと評価の一体化」と言われるように授業をしっかりと行うことにより評価は見えてくるのではないかと思います。
 次回は最終号になりますので、道徳教育を、道徳科をどのように実施していけばよいかカリキュラムマネジメントの視点について考えていきたいと思います。ご期待ください。