学び!と道徳2

学び!と道徳2

カリキュラム・マネジメント
2018.07.30
学び!と道徳2 <Vol.10>
カリキュラム・マネジメント
岡田 芳廣(おかだ・よしひろ)

 1学期が終わり、夏休みになりホッとしておられる方が多いと思いますが、運動部の顧問をしている先生方は、記録的な猛暑が続き、熱中症が心配で十分な活動ができずにいるのではないでしょうか。

「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」岩崎夏海 ダイヤモンド社

 夏の風物詩の一つに甲子園で熱戦が繰り広げられる高校野球があります。各地の予選を勝ち抜いてきた高校生たちが全力で試合に向かう姿には感動させられることが数多くあります。そのような高校生の姿をモデルにした小説に『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』があります。都立高校の野球部の女子マネージャーである川島みなみが、ドラッカーの経営学書『マネジメント』を読み、ドラッカーの経営理論を実践して甲子園をめざす物語です。主人公のみなみは「顧客」「マーケティング」「イノベーション」の視点から野球部を見つめ、顧客でもある自分たちが感動する野球を、ノーバント・ノーボール作戦という常識を覆す新しい戦法を実践させることで、甲子園出場という目標を達成します。小説の最後には、甲子園の開会式で「あなたは、どんな野球をしたいですか?」というテレビ局の質問に、キャプテンの二階正義が「あなたはどんな野球をしてもらいたいですか?(中略)ぼくたちは、それをマーケティングしたいのです。なぜなら、ぼくたちは、みんながしてもらいたいと思うような野球をしたいからです。ぼくたちは、顧客からスタートしたいのです。顧客が価値ありとし、必要とし、求めているものから、野球をスタートしたいのです。」と答えます。
 高校生の青春物語ですが、マネジメントとはどのようなものであるかをわかり易く具体的に述べた経営学書でもあります。夏休みの推薦書です! 是非、お読みください。(ビデオもあります。)

 今回でこのシリーズは最終回となります。今まで考えてきた道徳教育・道徳科が効果的に行われ、成果を上げるためにはどうすればよいかを「カリキュラム・マネジメント」の視点から考えていきたいと思います。
教員採用試験の勉強で忙しい響・真理・道子たちにもいつものように参加してもらいます。

1 カリキュラム・マネジメント

「今日は、学習指導要領の改訂で新たに取り上げられたカリキュラム・マネジメントについて考えてみたいと思います。さて、カリキュラム・マネジメントとはいったいどういうことでしょうか?」
「言葉通りに解釈するとカリキュラムは教育課程で、マネジメントは運営だから、教育課程と運営ですが……。」
真理「教育課程の編成をして実施していくことかな?」
「確かに教育課程を編成することも運営の一つですが、他には何を運営するのかな?」
道子「学校で行われる全ての教育活動だと思います。」
「そうですね、中学校学習指導要領の第1章総則の第1の4には『各学校においては,生徒や学校,地域の実態を適切に把握し,教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくこと教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を確保するとともにその改善を図っていくことなどを通して,教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていくこと(以下「カリキュラム・マネジメント」という。)に努めるものとする。』(下線は筆者)とあります。つまりカリキュラム・マネジメントとは、学校で行われている様々な教育活動を、教育課程に基づき組織的に計画的に実施することにより学校教育の質の向上を図っていくことです。また、カリキュラム・マネジメントを三つの側面(下線箇所)から考えていくことが求められています。」
「教育活動の質の向上はいつも取り組まなければならないことなのに、なぜ今回の学習指導要領の改訂で新しく取り上げられたのですか?」
「そこは大切なポイントですね! 学習指導要領が求める新しい時代に必要となる資質・能力(三つの柱)を育成する『主体的・対話的で深い学び』を、現行の学習指導要領の枠組みや教育内容を維持したままで行うためには工夫が必要とされるからです。」
道子「ということは、『教科等横断的な視点で組み立てていく』ということは総合的な学習の時間を増やすということですか?」
「いいえ、総合的な学習の時間の時間数は変わりません。総合的な学習の時間の学習内容や方法を検討したり、各教科等で横断的に取り組むことを考えたりすることが求められます。」
真理「カリキュラム・マネジメントを実施するにあたり配慮していかなければならないことはどのようなことですか?」
「総則の『第5 学校運営上の留意事項』の『1 教育課程の改善と学校評価,教育課程外の活動との連携等』のアには『各学校においては,校長の方針の下に,校務分掌に基づき教職員が適切に役割を分担しつつ,相互に連携しながら,各学校の特色を生かしたカリキュラム・マネジメントを行うよう努めるものとする。また,各学校が行う学校評価については,教育課程の編成,実施,改善が教育活動や学校運営の中核となることを踏まえ,カリキュラム・マネジメントと関連付けながら実施するよう留意するものとする。』とあります。特に、一部の者だけでなく全教職員で取り組むことが大切です。留意事項はさらに、学校の全体計画と各分野の計画の関連を図ること、教育課程外の活動と教育課程との関連を図ること、家庭や地域と連携して『社会に開かれた教育課程』にすること、学校間連携を図ることなどが述べられています。」

2 道徳教育におけるカリキュラム・マネジメント

「次に皆さんが研究している道徳教育におけるカリキュラム・マネジメントについて考えてみましょう。」
「中学校学習指導要領の『第3章 特別の教科 道徳』には、カリキュラム・マネジメントという言葉はありませんが……。」
道子「総則にあるのだから道徳教育・道徳科でも実施するの!」
「道徳教育の教育課程は、学習指導要領が求めている道徳教育のねらいや内容を実施していく計画です。そのために各学校ではどのような指導計画を作成することになっていますか?」
真理「道徳教育の全体計画と道徳科の年間指導計画です。」

学級における指導計画(例)

「そうですね。指導計画については中学校学習指導要領の『第3章 特別の教科 道徳』の『第3 指導計画の作成と内容の取扱い』の1に、『各学校においては,道徳教育の全体計画に基づき,各教科,総合的な学習の時間及び特別活動との関連を考慮しながら,道徳科の年間指導計画を作成するものとする。なお,作成に当たっては,第2に示す内容項目について,各学年において全て取り上げることとする。その際,生徒や学校の実態に応じ,3学年間を見通した重点的な指導や内容項目間の関連を密にした指導,一つの内容項目を複数の時間で扱う指導を取り入れるなどの工夫を行うものとする。』とあります。道徳教育は道徳科を要として学校教育全体を通じて行うので、道徳科はもとより、各教科・総合的な学習の時間・特別活動等で行われる道徳教育を組織的に計画した全体計画が必要となります。さらに、道徳教育の要として、すべての内容項目を計画的に指導し、各教科・総合的な学習の時間・特別活動等で行われる道徳教育の足りない部分を補ったり、より一層深めたり、内容項目の相互の関連を捉えなおしたり発展させたりする道徳科の年間指導計画が必要となります。」
道子「全体計画は学校全体の道徳教育の計画ですが、学年ごとの計画や学級ごとの計画を作成する必要はないですか?」
「なかなか良い質問ですね。全体計画は、教育目標・生徒や学校の実態・家庭や地域の実情などにより違っています。同じように考えると、学年も発達段階や生徒の実態などにより道徳教育の目標も違いますので、学年ごとの計画もある方がよいでしょう。また、資料のように学級ごと道徳教育の計画を作成する学校もあります。」
真理「全体計画を作成するとき、私の専門である数学科ではどのような道徳教育をすればよいか、いつも悩みます。」

「図のように縦軸に内容項目、横軸に各教科・総合的な時間の学習・特別活動等にした表を作り、該当する箇所を埋めていくと道徳教育との関連がわかり易くなります。なお、縦軸を4月から3月に、横軸を教材名・主題名・内容項目・その他にすると道徳科の年間指導計画になります。」
「年間指導計画を作成するにあたり配慮することは、学習指導要領に書かれている以外にありますか?」
「学校生活・地域行事・季節などを考慮して主題を配列する、中学生の発達の段階を考慮して1年生では視点AやBの内容を、3年生には視点CやDの内容項目を増やす、中学校3年間だけでなく小学校との関係も配慮する、いじめなどのテーマを重点化して関係する主題をまとめて実施する、学校行事や職業体験などと関連した指導を計画する、思いやりから人間愛へと道徳的価値が広がるように計画するなどが考えられます。」
道子「指導計画の作成・実施以外でカリキュラム・マネジメントにかかわることはありますか?」
「今回の学習指導要領の改訂では『社会に開かれた教育課程』が新しく提言されています。道徳教育も保護者や地域住民への授業公開や道徳だよりなどの広報活動を通して、道徳教育に対する保護者や地域住民の理解を深めるとともに、その願いや要望を受け入れ協働して道徳教育を進めていくことが求められます。また、道徳教育の目標を達成するために、道徳教育推進教師を中心に全教職員が一致して道徳教育に取り組める体制や互いに指導力を高めていける研修制度を作ることも大切です。そして、道徳教育の充実に向けた『イノベーション』を創造することです。教職大学院で学んでいる皆さんは期待されていますよ!」
「頑張らなくては……。」

 「道徳とは何か」から始まり、学校における道徳教育の在り方、道徳科の指導と評価、そしてカリキュラム・マネジメントと進んだこの連載も今回で終了します。大学院生の響・真理・道子との対話方式で説明がわかり易くなるように工夫しましたがその分内容が浅くなった、もう少し事例や指導案などを紹介すればよかったなど反省することも多いです。読者の皆様にはご満足いただけましたでしょうか?
 先日、ロシアで行われたサッカーのワールドカップでは、前回のブラジル大会で行われた日本のサポーターのごみ拾いが話題を集め、それが各国のサポーターにも広がりました。良い行為・人間としてするべき行為「MOS(モラルの原語)」は国や民族が違っても誰でも認めることです。そのような道徳的行為を自然にできる人が、世界中から尊敬される真の国際人だと思います。今後もさらに道徳教育を充実して『世界から尊敬される国際人』を育成してください。