高等学校 情報
高等学校 情報

※本実践は美術科と連携した取り組みです。美術科としてのmy実践事例はこちら。
1.はじめに
本単元は、聖学院高等学校の高校1年生を対象に実施した、情報科と美術科による教科横断型(STEAM型)授業の実践例である。
本校にはレギュラー・アドバンスクラスに加え、「ものづくり・ことづくり」を通じてグローバルな人材を育成するコース「GIC(グローバルイノベーションクラス)」が併設されている。このGICが掲げるのは、探求型教育を推し進めた「共創型の学び」で、知識の一方向的伝達ではなく、対話とフィードバックを通じて新たな価値を創造することを重視する。本単元では、情報科と美術科の教員が学習過程を共同で設計し、チームティーチングを行っている。それぞれの専門性を融合させることで、情報デザインで扱う題材の可能性を広げるのと同時に、生徒とともに創造性な学びを実現している。
本単元のテーマ「ボックスアート」は、蓋のない木製ボックス内に3~4枚のマットボードパネル(レイヤー)を階層状に配置し、限られた空間に奥行きのある世界を生み出す造形表現である。本校では、各レイヤーの図案を、液晶ペンタブレットとAdobe Photoshop、そしてIllustratorを用いて制作し、作成した図案をレーザーカッターで切り出して制作する。これらデジタル技術を導入することで、アナログのみでは困難だった精緻かつ複雑な表現が可能になり、学びにおける創造性は各段に向上した。また、共創型の実践として、教師による生徒へのフィードバックはもちろん、生徒間による相互サポートや改善のための講評の機会を適宜盛り込み、生徒は自らの制作結果を検証・比較することで、都度、学習上の課題を見つけ、新たな目標を設定していく。
この活動は「情報Ⅰ」の「コミュニケーションと情報デザイン」に関わる要素が多分に含まれている。
情報デザインとは、目的と受け手に応じて情報を整理・構造化し、わかりやすく伝えるための知識、表現および技術である。本単元では、生徒が自らテーマ(伝えたい情報)を設定し、「ボックスアート(=レイヤー構造)」という形式を用いて視覚的・空間的に構造化する。これは、情報を階層化して整理する情報デザインの思考そのものであり、同時に美術科における「構図」や「空間表現」の探究でもある。さらに、その過程では、プロトタイプ段階から生徒や教員、外部企業・講師からのフィードバックを受けるなどして、情報伝達の意図と表現のずれを修正する。
美術科の観点では、「層の重なり」を核に据えた造形技術・表現の習得を目指す。切り抜いたパネルの階層配置によって、空間性と奥行きを生み出し、工作精度や色彩計画を意図に沿って選択する力を育む。ここでも共創が働き、ピアレビューで構図・配色・形態の根拠を言語化し、他者の視点を取り入れて修正案を表現する。表現と意図、受け手の理解を往還させる過程が学びの要となる。
なお、本題材に取り組む前段階として、美術科の授業でレイヤー構造を理解するための予備学習を行っている。具体的には、透明シートに描いた絵を重ねて立体表現を探る教材「レイヤーの彫刻」を用いて空間表現の基礎を体感させ、さらに紙上で図形の重なりを利用した「切り絵」の制作を通して、色彩と平面構成力を学ぶ機会を設けている。これらの学習を経て、本単元のボックスアートの制作に取り組むことで、生徒はレイヤーの概念や空間把握の素養を身につけた状態から創作を開始することができる。
2.単元名
情報・美術教科横断型(STEAM型)授業「ボックスアート制作」(実施学年:第1学年) 全18時間
3.単元の目標
液晶ペンタブレットとPhotoshopを活用し、重なりによる空間表現を意識したオリジナルの図案(線画データ)を制作する技能を習得する。作成した図案データはレーザーカッターで正確に切り出すため、必要な画像データ形式や線の条件を満たすよう適切に編集・調整できることを目指す。完成作品では、複数のレイヤーを配置することで遠近感や奥行きを表現し、デジタルで制作した原画を立体物として的確に出力・組み立てる技能を身につける。
デザインソフトを用いて作品の土台となるデータを作成している様子。
レイヤーごとの形状や色の違い、重なりによって生まれる空間の見え方や各パーツ間の関係性に着目し、それらを効果的に活かした構成を考える力を養う。自ら設定したテーマに沿って、どのような図像表現をすれば奥行きや物語性が生まれるかを思索し、独創的で動きのある作品構成をデザインする創造的思考力・表現力を育成する。また、デジタル(レーザーカッター)とアナログ(着彩)のそれぞれの特性を理解し、それらを組み合わせて表現する判断力を身につける。
作成したデータをもとに、レーザーカッターで材料を加工。切り出した部材に着色する工程。
制作の各過程で記録(写真・メモ)を取り、自分の作品を客観的に捉えて振り返る習慣を身につける。作品のコンセプトやねらいを言語化して他者に説明し、自分の表現を見つめ直すことで、よりよい発想や改善点を見出す力を育てる。また、各自のテーマに必要な資料を主体的に収集するリサーチ力や、制作計画を状況に応じて柔軟に見直し改善する力を養う。さらに、協働的な学びの姿勢を重視し、ICTスキルに長けた生徒が周囲をサポートするなど、互いの得意分野を教え合いながら学習を進める風土を醸成する。
作品のコンセプトやねらいを言語化しながら、記録した制作過程を振り返り、彫刻表現について理解を深める。
4.単元の評価規準
ア 知識・技能 |
イ 思考・判断・表現 |
ウ 主体的に学習に |
|---|---|---|
●複数枚のマットボードで構成されるレイヤーを効果的に活用し、作品に遠近感や奥行きを与えた表現ができている。 |
●箱の中に配置した素材一つひとつに形状や色彩への工夫が見られ、各自の意図が独自性をもって動きのある構成として表現されている。 |
●各自が設定したテーマに必要な資料を主体的に収集し、アイデアスケッチや試作を丁寧に行っている。 |
5.単元の指導と評価の計画
以下に、本単元(全18時間)の指導計画と評価の概要を示す。各段階における生徒の主な学習活動、教員の指導上の留意点、評価方法を表形式でまとめる。
時 |
学習活動・内容 |
評価の観点 |
評価の方法 |
指導上の留意点 |
||
|---|---|---|---|---|---|---|
ア |
イ |
ウ |
||||
1 |
●ボックスアート制作のテーマや必要な素材について説明を受け、参考作品を鑑賞してイメージを膨らませる。 |
○ |
○ |
●行動観察(口頭で理解度を確認) |
●作品例を提示し、具体的な完成イメージを持たせる。 |
|
2、3 |
●各自の発想でテーマを設定し、ラフスケッチを行う。 |
○ |
○ |
●行動観察(口頭によるフィードバック) |
●生徒の自由な発想を尊重し、多様なアイデアを引き出す。 |
|
4、5 |
●液晶タブレットのセットアップとPhotoshopの基本操作を学ぶ。 |
○ |
○ |
●ワークシート(操作習熟度合をはかるチェックリスト) |
●外部講師等と連携し、操作を確実に習得させる。 |
|
6~9 |
●テーマに沿って線画データをレイヤーごとに制作し、提出して確認を受ける。 |
○ |
○ |
○ |
●行動観察(ピアレビュー) |
●出力を見据えた解像度・線幅等について指導する。 |
10 |
●線画データをレーザーカッター用の形式に変換し、必要な調整を行う。 |
○ |
○ |
○ |
●成果物(形式および内容の達成状況を確認) |
●適切なタイミングで一斉説明を行い、手順資料(動画や動的なサイト)を配布する。 |
11 |
●マットボードをレーザーカッターで切り抜く。 |
○ |
○ |
○ |
●成果物(加工精度の達成状況) |
●安全管理を徹底し、加工精度を確認する。 |
12~15 |
●マットボードに着彩し、箱の内部に配置して立体作品として組み上げる。 |
○ |
○ |
○ |
●成果物と行動観察(表現の質/工夫・改善の有無) |
●色彩表現および立体構成の工夫を促す。 |
16 |
●作品を撮影し、ポートフォリオ(Googleスライド)にまとめ、自己評価アンケート(Googleフォーム)に回答する。 |
○ |
○ |
○ |
●成果物(観点別の総合評価) |
●対話的な鑑賞・講評を取り入れる。 |
17 |
●校内展示会で作品を公開し、来場者に向けて作品の意図や制作過程を解説する。 |
○ |
○ |
○ |
●行動観察(発表態度および言語化の質) |
●成功体験を共有し、次への動機づけを図る。 |
6.本時の目標【1限目】
単元全体の学習課題である「ボックスアート」制作の目的と概要を理解し、レイヤー構造による空間表現の面白さに気づくことができる。
事前活動で得た知見を踏まえ、自分がどのようなテーマでどのような世界を表現したいかを思い描くことができる。
7.本時の流れ【1限目】
時間 |
学習内容・学習活動 |
|---|---|
導入 |
●実物の作品例を提示し、本単元で取り組む課題の具体的なイメージを掴む。 |
展開 |
●ボックスアート制作の手順とポイントについて理解する。 |
まとめ |
●本時の要点を振り返り、次回に向けての宿題として、作品テーマの検討および参照資料の収集について確認する。 |
8.まとめ
生徒は情報科と美術科の両面にまたがるスキルを習得し、デジタル作画・画像編集・デジタル加工といった高度なICT技能に果敢に挑戦した。完成作品はいずれもレイヤーを活かした奥行きのある仕上がりで、独創的なテーマ表現を実現していた。デジタルツールの活用により、描き直しやレイヤー管理の利点を実感し、テクノロジーを創作に活用する楽しさに気づく契機となった。
細部のデザインを調整し、レーザーカッターの加工条件を踏まえて最終データを完成させる。
情報科と美術科のチームティーチングにより、それぞれの専門性を活かして弱点を補完できた。
生徒とともに試行錯誤することを意識し、過剰な先回りを避けて思考の余白を残すことで、生徒の主体性と創造性が引き出された。生徒同士の支え合いも自然に生まれ、協働学習の文化が醸成された。
生徒ごとの進度差が大きく、デジタル作画に時間を要する生徒と早く終える生徒が生じた。作業空間を分けるなど環境面の工夫により、各自に合わせたサポートを提供できた。
機材・ソフトのトラブルには、バックアップ案の準備や手順のマニュアル化で対応し、次年度に向け改善を図る。
アナログ素材・技法への触れ直しと最新デジタル技術の融合をさらに推進し、日常とは異なる視点や素材に触れる体験を意図的に組み込む。ゼミ形式の探究活動にも、本単元で培ったデザイン思考・情報デザイン・デジタルファブリケーションの知見を横展開し、生徒が自らの探究で自在に活用できるよう支援する。
高校1年生・2時間/1コマ×全9コマ=18時間
美術科(伊藤隆之教諭)とのチームティーチング
外部講師(液晶タブレット講習)








