小学校 図画工作

小学校 図画工作

トロトロ、カチコチ・ワールド「○○○の世界をつくろう」~ひらめきシート・カードを活用して~(第4学年)
2024.04.26
小学校 図画工作 <No.057>
トロトロ、カチコチ・ワールド「○○○の世界をつくろう」~ひらめきシート・カードを活用して~(第4学年)
鹿児島県錦江町立田代小学校 尾前智子

1.題材名

トロトロ、カチコチ・ワールド「○○○の世界をつくろう」

2.学年

第4学年

3.分野

立体に表す・鑑賞する

4.時間数

6時間

5.準備物

児童: 身辺材、タオルや布、絵の具、接着剤など
教師: 液体粘土、板ダンボール、自然材、ペットボトル、身辺材、ひらめきシート・ひらめきカード(「10.指導の手立てと児童の様子」を参照)など

6.題材設定の理由

 本題材は、布や身辺材を組み合わせた形を液体粘土で固め、組み合わせた形から想像した世界を立体に表す創造活動である。液体粘土は石膏のように固まるが、乾燥が遅いため児童にも扱いやすい。また、絵の具を溶かし込んだり、乾燥後に着色することもできるので、表現の可能性が広がる材料である。さらに、立体に表現することで、高さ・幅・量・塊など多様な側面から捉えながら空間を楽しむよさがあり、児童の多様な創造性を引き出すことができる。
 そこで、本題材では液体粘土の特徴を生かし、液体粘土に浸した布と身辺材を組み合わせながら、感じたことや想像したこと、見たことから、表したいことを見付けたり、考えたりしながら、自分の思いを表現することをねらいとしている。また、児童の発想を促すために、導入時にはアニメーションや映画の一場面などの画像を鑑賞する活動を取り入れたり、表現活動中に活動が止まってしまっている児童には、材料と触れ合う時間をつくったり、「ひらめきシート」や「ひらめきカード」を活用したりして、児童の思いが十分に発揮できるようにした。

7.題材の目標

【知識及び技能】

  •  布を固めた形から想像を広げて表すときの感覚や行為を通して、形の感じ、色の感じ、それらの組合せによる感じなどが分かる。
  •  液体粘土や身近な材料を適切に扱うとともに、前学年までの材料や用具についての経験を生かし、手や体全体を十分に働かせ、表したいことに合わせて表し方を工夫して表す。

【思考力、判断力、表現力等】

  •  布の形を変えたりいろいろな向きから見たりして、感じたこと、想像したことから、表したいことを見付け、形や色、材料の特徴などを生かしながら、どのように表すかについて考える。
  •  布を固めた形や身近な材料を組み合わせてできた作品の造形的なよさや面白さ、表したいこと、いろいろな表し方などについて、感じ取ったり考えたりし、自分の見方や感じ方を広げる。

【学びに向かう力、人間性等】

  • 進んで布を固めた形から想像を広げて表す活動に取り組み、つくりだす喜びを味わうとともに、形や色などに関わり楽しく豊かな生活を創造しようとする。

8.題材の評価規準

【知識・技能】

  •  布を固めた形から想像を広げて表すときの感覚や行為を通して、形の感じ、色の感じ、それらの組合せによる感じなどが分かっている。
  •  液体粘土や身近な材料を適切に扱うとともに、前学年までの材料や用具についての経験を生かし、手や体全体を十分に働かせ、表したいことに合わせて表し方を工夫して表している。

【思考・判断・表現】

  •  形の感じ、色の感じ、それらの組合せによる感じなどを基に、自分のイメージをもちながら、布を固めた形から想像を広げて表したいことを見付け、形や色、材料などを生かしながら、どのように表すかについて考えている。
  •  形の感じ、色の感じ、それらの組合せによる感じなどを基に、自分のイメージをもちながら、自分たちの作品などの造形的なよさや面白さ、表したいこと、いろいろな表し方などについて、感じ取ったり考えたりし、自分の見方や感じ方を広げている。

【主体的に学習に取り組む態度】

  • つくりだす喜びを味わい進んで布を固めた形から想像を広げて表す学習活動に取り組もうとしている。

9.指導計画(全6時間)

液体粘土の特徴を生かして、布や身辺材を使って立体に表す。(1/6、2/6)(90分)
表現しようとしている「○○○の世界」を発表し、中間鑑賞を通して、自他の作品の表現を造形的な視点で捉えてよさや面白さを見付ける。さらに、思いをより造形的に実現するために着色したり、必要な身辺材を組み合わせたりして、工夫を加える。(3/6、4/6)(90分)
表現したい「○○○の世界」を完成させる。また、作品鑑賞を通して、自他の表現のよさや面白さに気付き、自分の思いを造形的に表すよさを味わう。(5/6、6/6)(90分)

10.指導の手立てと児童の様子

①第1次(1/6、2/6)

ア 知識や経験を引き出す導入
 導入では、題材名の「ワールド」に着目させ、児童は、どんな世界を表現したいかを考えた。児童がこれまでそれぞれ獲得している知識や経験を引き出したり、広げたりするために、世界遺産やアニメーション、映画の一場面などの画像を鑑賞することにした。実際の風景だけでなく、アニメーションや映画の非現実的な画像を取り入れたことにより、児童は、「ワールド」が現実にある景色の再現を目指すものではなく、自分なりの世界を創造していくという活動のイメージをつかむことができた。

イ 発想の元となる構造物の製作
 導入で自分が表現したい「ワールド」をある程度イメージできた児童と、まだ思いを強くもてていない児童が混在している状態で、作品の原型を製作した。児童は、予め様々な形に切断されたダンボールの板を選び、その上に身辺材を組み合わせ、それを芯材にして、液体粘土に浸した布を掛けるなどして製作した。児童は、新たな材料体験を楽しみながら、布の大きさやしわの感じなどから、意図的だったり、偶然できたりした形をいろいろな方向から見て、想像を膨らませて表現活動への意欲を高めていた。このようにしてできた形を元に発想し、思いを明確にしていく児童の様子が多く見られた。

②第2次(3/6、4/6)

ウ イメージマップの活用
 第1次から1週間後の第2次では、液体粘土が固まり、それぞれの作品の原型と対話することから始まった。原型から表したい世界を発想し、思いを広げるために、イメージマップを活用した。児童は、自分の思いを中心にして、思い付いた事柄や形、色、イメージなどを自由に連想して書いていた。連想することにより、児童それぞれの物語や場面の設定ができていく様子が見られた。

エ 中間鑑賞
 原型とイメージマップを元に、グループでそれぞれが考えていることを伝え合う中間鑑賞を行った。友人が着目した造形的な視点や、それによる考えを聞き、感想を伝え合う中で、互いに新たな気付きや共感を得ることができていた。

オ 思いと表現との関係性を問う発問
 児童は、表現する中で形や色を感覚的に選択し、その意味については、深く考えていないことがある。そのため、児童に自分の思いを造形的に実現していくために、形や色を選択していることに気付かせることが重要になる。そこで、活動への児童の思いに共感し、表現を認めながら、思いと表現との関係性を認識しているか形成的に評価し、その思いと表現との関係性を問う発問を繰り返していくことを指導の中心とした。それにより、児童は、自らの表現を造形的な視点で捉え、思いと表現を関連付けて意味付けしながら活動に取り組むことができた。

③第3次(5/6、6/6)

カ 新たな発想につながる材料コーナー
 「共有材料コーナー」と、様々な形の発泡スチロール片や麻紐、自然材の小枝など児童が思い付かないような材質や形の材料を「こんなのもあるよコーナー」として設置した。児童は、自分で準備してきた身辺材を使いながらも、時折材料コーナーを覗いては材料を持ち帰り、様々な組合せを試して活動を進めていた。

共有材料コーナー「こんなのもあるよ」コーナー

キ 「ひらめきシート」と「ひらめきカード」の活用
 活動が止まってしまった児童に発想を促す手立てとして、「ひらめきシート」と「ひらめきカード」を作成した。ひらめきシートは各グループに1枚ずつ準備し、いつでも参考にできるようにした。それにより、児童が自発的に発想の手掛かりを探ることができる。「ひらめきカード」は、ひらめきシートをカードにしたものである。カードは、教師が持っていて、児童がどうしてもアイデアが浮かばず困ったときに、1枚ずつ引かせ、カードに書かれている言葉に従って考えてみるよう伝えた。児童はその視点をきっかけにして新たに発想し、思いを基にしてアイデアを広げていた。新たな視点によって生み出された表現のよさや面白さを感じ、自分なりに意味付けや価値付けをして、喜ぶ顔も見られた。

「ひらめきシート」…「ひらめきスイッチ大全」(知的創造研究会,2018,日本経済新聞出版)を参考に、図画工作科の活動内容に適した言葉を考え、筆者が作成したもの。

ひらめきシート
※クリック or タップでPDFが開きます。

「組み合わせてみよう」のひらめきカードを見ながら考えている様子。

ク 作品鑑賞
 作品が完成し、全体で作品鑑賞を行った。活動の中心となっていた思いや、思考したこと、言語活動の記述などを残してきたワークシートと作品を並べて置き、造形的な視点に着目しながら鑑賞活動をした。自分の感想を友人のワークシートに残し、自分の表現のよさも、たくさんの友人に見付けてもらうことにより、自らの創造性の発揮を実感し、表現するよさを味わっている様子が見られた。

11.実践を終えて

 児童の表現は、教師の想定をはるかに越えてそれぞれに広がり展開していった。「思ってもみなかった面白い作品ができた。」と喜ぶ顔が見られることがなによりも嬉しい。
 本実践では、活動が止まってしまった児童への手立てとして、「ひらめきシート」と「ひらめきカード」の活用を試みた。「ひらめきシート」と「ひらめきカード」を活用した児童は、31人中11名だった。そのうち、ひらめきのきっかけになったという児童は10人おり、「とりあえずやってみる」ことで、創造性を発揮させたり、思いとつなげたりすることに効果的であったという児童の様子が見られた。「ひらめきのきっかけにならなかった」と回答した児童は、使ってはみたものの、自分の作品との対話により、既に思いを表現することができていたことによる回答だった。これらのことより、「ひらめきシート」や「ひらめきカード」を使って、「とりあえずやってみる」ことは、発想を促すために効果的であることが分かった。一方、「とりあえず」だけの行為では、児童にとって意味のある表現はできず、思いをもって材料に関わりながら自分なりの工夫を加えた表現活動に、それぞれの価値を創造していくことが重要であることも分かった。
 したがって、「ひらめきシート」や「ひらめきカード」を初めから使って製作しようとしたり、活動全般を通して活用したりするのではなく、「思い」を大切にして、自ら思考し表現することを促した上で、思いがけない見方を提案するツールとして活用することが望ましいと言える。また、多様な視点で自らの表現を捉える見方や考え方は経験として身に付き、その後の表現活動や生活の中で生かされていくものだと考える。