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ICT・EducationNo.16 > p13〜p17

中学校の情報教育実践例
中学校における情報教育の実践
堺市立金岡南中学校 浦 嘉太郎
1.はじめに

 中学校における情報教育のねらいや目標については,「情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議」の最終報告より読み取ることができる。その具体的な展開として「中学校については,技術・家庭科の技術領域において,コンピュータの基本的な構成と操作,コンピュータの利用など情報に関する基礎的内容を必修とし,発展的内容は,生徒の興味・関心等に応じて選択的に履修させることとしている。」とされている。

 その背景については,「生きる力」という言葉で有名な,第15期中央教育審議会「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第1次答申)」で述べられており,再びここで論じるまでもないが,私たちを取り巻くメディア環境の変化が挙げられる。特に,インターネットに代表されるネットワーク環境はここ数年で大きく進歩・発展し,私たちの生活と密接な関係を持つまでになった。そして,メディアの多様化は,児童生徒の生活に大きな影響を与えるようになった。

 このような急激な変化に教育現場が対応できるように,政府や文部科学省は,バーチャルエージェンシーやミレニアムプロジェクトなど学校の情報化と情報教育の重要性を強調し,積極的に取り組む姿勢を見せている。そして,今年度より完全実施された学習指導要領では,技術・家庭科は内容において大きく再構成された。これまでは,全11領域から構成されていたものが「技術」と「家庭」の2つの分野に分かれ,さらに技術分野では現行の6領域から「技術とものづくり」と「情報とコンピュータ」の2つに集約され,「情報基礎」領域は大きく拡大し,選択から必修となった。

 筆者は,技術・家庭科において,移行措置期間より今年度の完全実施に向けて,3年間を見通した全体的な指導計画を立て,実践を行ってきた。

 ここでは,特に「情報とコンピュータ」における実践と経過を報告する。

2.これまでの取り組み
 本市では,平成5年度の中学校学習指導要領の改訂に伴い,平成4・5年度に市内全40校に21台のコンピュータが設置された。この旧システムはネットワークや入・出力装置に重点が置かれたもので,クライアント・サーバー型のLANを機軸に構成され,ネットワーク環境は最新のものと比べ機能的に遜色ないものであった。これを利用して,授業中のクラス内での情報交換から,クラスを越え,さらに学年内や学校全体へと徐々に生徒の情報交換の範囲を拡大させてきた。

 この学習の中で,自らが情報の提供者となり,情報を発信することの意義やその影響についても体験することができた。コンピュータを通しての情報交換においてどのようなことに留意する必要があるか,また,結果として問題が起こった場合は,その原因や解決方法なども体験的に学習することができた。

 平成8年度には,コンピュータ室に独自にインターネット環境を構築し,学校間の通信を学習活動に取り入れた。相手校の特徴や生徒会の取り組みの状況などについて,事前に教師間で情報を交換し,トラブル時には即座に両校で対応できることを確認した上で,情報交換が開始された。

 内容は,まず自己紹介や学校の紹介など「他校生徒への自分たちの紹介」が中心となった。発言は予想以上に活発であったが,他校での生徒会の取り組みや規則,先生方の紹介に注目が集まり,自校のことしか知らない生徒が他校ではどんなことが行われているのかを知りたがっていることが明らかとなった。これは予想されたことであるが,教育的効果が期待できる半面,学校間のトラブルなど新たな課題が生まれてきた。学校間交流には,事前の準備とそれに至るまでのネチケットに関する系統的な学習をしっかり行った上で,注意深く進める必要があるということが再確認された。

 その後,昨年度7月には42台の新しいシステムに入れ替わり,技術・家庭科の全国大会では,これまでの実践の流れのもと,本格的に複数校を結んだ学校間交流を試みた。
3.実践デザインと考察
 「情報とコンピュータ」でのカリキュラムを編成する上で現実的な課題となるのは,以下の3点に集約された。

[1] 本市においては,コンピュータの導入時期の関係で,平成12年度入学の1年生からは小学校でのコンピュータを使った学習が定着していると推測される。しかし,具体的にどのような学習がいつの段階で行われたかは,この分野での小中間の連携が行われておらず,未知である。また,これまでの「情報基礎」領域で学習していた「コンピュータの基本操作」に関する部分は,中学校でどの程度学習内容に含める必要があるのかも重要であり,今後の小中間の連携による実態把握が急がれる。

[2] 学習内容については,中学校に入学してくる生徒たちの実態に合わせ,これまでの「情報基礎」領域を再考する必要がある。また,「情報とコンピュータ」における評価の観点について分析・検討する必要がある。

[3] 年間指導計画の立案において,「情報とコンピュータ」を考えた場合,ある学年に集中させるほうがよいのか,あるいは全学年を通して学習したほうがよいのかを,今後の実践を通して検討していく必要がある。

 そして,上記[1]については,小学校においてコンピュータやソフトウェアの基本操作は学習していると仮定し,[2]と[3]については,これまでの実践の考察から,インターネットを含めたネットワーク環境での学習活動を中心に,B(1)〜(4)の指導計画を立てる。その中で,ネチケットに関する学習を系統的に位置付けていく。また,履修時期についても,生徒の実態や発達段階を考慮し,ある学年に集中して学習するより,全学年において技術・家庭科のねらいや目標に合わせた学習を行うことが望ましいと考え,以下のような指導計画を立てた。

3年間を見通した本校での指導計画【技術分野】
A 技術とものづくり B 情報とコンピュータ


1年生

技術分野

・A(1)生活や産業の中で果たしている役割
・A(2)製作品の設計
・A(3)製作品に使用する工具や機器の使用方法
 及びそれらによる加工技術
・A(4)機器の仕組み及び保守
・B(1)生活や社会の中で果たしている役割
・B(2)コンピュータの基本的な構成と機能
・B(3)コンピュータの利用
・B(4)情報通信とネットワーク


2年生
技術分野

・A(1)生活や産業の中で果たしている役割
・A(2)製作品の設計
・A(3)製作品に使用する工具や機器の使用方法
 及びそれらによる加工技術
・A(4)機器の仕組み及び保守
・A(5)エネルギー変換を利用した製作品の製作
・B(3)コンピュータの利用
・B(4)情報通信とネットワーク
・B(5)マルチメディアの活用


3年生
技術分野

・B(4)情報通信とネットワーク
・B(5)マルチメディアの活用


 [1]と[2]は,学習内容に関することである。4月当初,1年生に対し調査した結果,生徒たち(本校校区内小学校2校)はすでに小学校でコンピュータを使った学習を経験してきており,機器の名称,コンピュータやソフトウェアの基本操作は理解していた。しかし,各小学校間・クラス間での学習内容の違いにより,マウスの持ち方やタイピングの方法などに生徒たちの理解が異なる部分もあり,再度学習することで一層定着した。また,文字入力の方法では,かな入力を行ってきた生徒が多かったが,中学校でのプログラム学習を考慮し,ローマ字入力へ移行したが問題はなかった。

 「B(2)コンピュータの基本的な構成と機能」と「B(3)コンピュータの利用」の一部については,これまで「情報基礎」で学習していた時間数と比べると大幅に学習時間が短縮された(従来:6〜8時間,今年度:3〜4時間)。このような状況で,1年生の学習内容は,従来の「情報基礎」領域の学習内容を再考し,機器の名称やソフトウェアの基本操作に多くの時間を充てずに,より実践的で体験的な活動を重視した内容を考えた。

 指導内容はB(1)〜(4)であるが,これからのコンピュータ利用はネットワーク環境が中心になり,情報通信機器としてのコンピュータ利用となる。つまり,B(1)〜(4)の学習内容は,常にB(4)の内容をふまえた学習活動となるように進めていく必要があると考える。その根底には「実践的・体験的な活動を通して情報リテラシーを育成する」という目標もあり,ネチケットに関する学習もその中に位置付けていく。これは,これまでの実践の流れとも一致する。

 情報通信ネットワークの普及に伴い,人間関係の希薄化,生活体験・自然体験の不足の招来,心身の健康に対する様々な影響,また,ネットワーク犯罪,個人情報の流出によるプライバシーの侵害,著作権の侵害など,多くの問題点が指摘され,社会問題にも発展している。その解決策には,技術的な側面からのアプローチも考えられるが,根本的な解決のためには,義務教育段階でネットワークに関する適切な学習を行い,情報社会に参画する態度を育てていくことが重要であると考える。つまり,コンピュータと人間の対話ではなく,「ネットワークの先には人がいる」,すなわち人間の心へのアプローチを考える必要がある。また,携帯電話やPHSなどの携帯端末が急速に普及している点も考慮し,ネットワーク社会のルールやモラルを習得できるように,以下の考えで実践を行った。

 インターネットを使っての情報交換としては,チャットやインスタントメッセージも存在するが,電子メールが一般的である。

 しかし電子メールの場合,基本的に一対一のコミュニケーションとなる。ネットワーク社会でのルール的なことから,コミュニケーションの方法まで,指導項目はネチケットを含め多岐にわたり,その指導は単発的な学習内容では定着せず,各発達段階に合わせた系統的な履修計画が必要となる。これらの目標を実現するため,今回はインターネットでの学習を系統的に進めることが可能なソフトウェアを導入し,「会議室・掲示板」⇒「電子メール」と授業を展開した。つまり,集団の範囲を徐々に拡大しつつ,ネチケットに関する指導項目を体験的かつ系統的に学習し,最終的には「個人」と「個人」の対話へ続くようにした。

 会議室・掲示板は,発言内容が参加者全員にすべて公開されているため,生徒自身があらかじめそれを意識して発言する必要があり,その結果情報リテラシー定着に向けた取り組みが可能になる。

 ネットワーク社会の功罪についても同時に学習を進め,特に1年生段階においては電子メールのしくみやパスワードのつけ方,運用方法などを体験的に学習できるようにした。

 電子メールの指導においては,全校生徒にメールアカウントを発行し,全員が個々に自分のメールボックスをパスワードで管理した。指導においては「メールチェック」の機能を有効に使うことにより多くの学習活動が実現した。

中学1年生 ワークシートより一部抜粋
電子メール(E-Mail)の書き方
宛先 ⇒ 相手のメールアドレス
件名 ⇒ 本文の内容がすぐにわかるもの。
あまり長く書かない。
[1]はじめのあいさつ
本文 ⇒ [2]内容
[3]おわりのあいさつ
*内容を書くときに注意すること。
・本文は簡単にわかりやすく書く。
・余計な文字をつけすぎない。
・内容に責任をもつ。
・初めてメールを出す場合は自己紹介を書く。
・相手の顔が見えないので,誤解がないように書く。
・プライベートなことは書かない。
・出す前に何回も見直す。
・横の文字数は30字以内で書く。
・言葉づかいに気をつける。

 [3]の履修時期については,B(3)は1・2年生で,B(4)は1・2・3年生で履修するように計画した(指導計画参照)。

 今回1年生の前期17.5時間で,B(1)〜(2)のすべての指導項目とB(3)〜(4)の指導項目で1年生段階の指導項目を合わせた学習活動を行った。

 また,B(3)〜(4)に関しては,下記のように,その学習内容を各学年の発達段階に合わせて指導計画を立て,今年度移行期での取り組みにおいて,現2年生・3年生で実践を行った。

B(3)での1年生時における指導事項・評価の観点
・ソフトウェア(ワープロ)の基本操作
・ソフトウェア(ワープロ)の発展的操作
B(3)での2年生時における指導事項・評価の観点
・ソフトウェア(表計算)の基本操作
・電子画像の基本
・電子画像の処理
・電子画像と文字による表現
B(4)での1年生時における指導事項・評価の観点
・ネットワーク社会の構成
・ネットワーク社会の功罪
・パスワードのつけ方に関する具体的な実習
・掲示板による意見交換
・情報伝達の方法
・電子メールの仕組みと使い方
・電子メールによる意見交換(校内)
・インターネットのしくみ
(ネチケットに関する学習内容を含む。)
B(4)での2年生時における指導事項・評価の観点
・情報の判断   ・情報発信の目的
・情報伝達の方法と安全
・Webページの閲覧
・Webページによる情報の収集
・検索エンジンによる情報収集
・電子メールによる意見交換(校内・校外)
・インターネットのしくみ
・情報と自己責任
(ネチケットに関する学習内容を含む。)
B(4)での3年生時における指導事項・評価の観点

・情報発信の目的
・リンク構造と情報
・インターネットのしくみ
・情報発信と安全
・電子メールによる意見交換(校内・校外)
・情報化社会と自己責任
・ネットワーク社会の功罪
(ネチケットに関する学習内容を含む。)


 これら実践の結果,下記【意識変化の把握】から,同じ指導項目でも学習後の意識変化について学年ごとの微妙な違いを読み取ることができ,発達段階にあわせ指導項目を定めることが大切であり,また同じ指導項目でも毎学年学習することにより定着度が上がる指導項目もあると思われ,それらの継続的な学習活動により技術分野における目標の達成を目指すものであると考える。

【意識変化の把握】
会議室を使っての公開制記述形式で実施
「ネットワークを使って顔の見えない人と文字だけでコミュニケーションをとる場合,
どのような点に気をつけなければならないと思うか?」等の質問を学習前と学習後に実施。


 Webページを使った学習については,「信用してもよい情報」,「疑わしい情報」など,情報判断に関する基本的な事前指導が必要となる。情報発信・情報受信そのものを会議室や掲示板で体験し,情報の先に存在する人の気持ちや立場を十分理解し,常に「違いを認め合う」ことが大切であるという意識が定着した後の履修が望ましいと考えた。そこで,今回1年生段階では,インターネットのしくみを説明する際の簡単な閲覧にとどめ,Webページを使った情報収集・情報発信は行わなかった。つまり,1年生における前期17.5時間では,その指導は時間的に難しいと判断した。しかし,今後小学校での学習活動におけるコンピュータ利用形態の変化により履修時期は流動的であると考える。

 「情報とコンピュータ」における評価の観点については,「理解」「体験」「実践」の3段階に区分し,観点別評価を中心とし,実践においては他人の意見から自分の考えをより良い方向に変えていく力を掲示板・電子メール交換の際のメールチェックを参考に自己評価を含め評価した。
4.おわりに
 今後,中学校に入学してくる生徒は,ほぼ100%に近い確率でコンピュータを使った学習をすでに小学校で経験してくる。これまでの「情報基礎」領域で履修していた「コンピュータやソフトウェアに関する基本的操作」に関わる部分においては履修時間を大幅に短縮することができる。そして,中学校におけるそれらの基本的操作に関わる学習は履修後の定着度も高くなってくる。

 つまり,中学校において「コンピュータやソフトウェアの操作法を学習する上でのワープロやお絵かきソフトでの単発的な授業」の学習に多くの時間を費やす必要はなくなる。一方,ネチケットなどの学習内容では,各学年の発達段階に合わせて繰り返し学習しなければならない内容もある。

 そして,それらを実践する中で学習時間との関係から,「履修内容の厳選」,つまり「情報とコンピュータ」における基礎・基本事項の厳選という課題も生まれてきた。

 今後,「情報とコンピュータ」では,各学年・各指導事項に合わせ「小学校でコンピュータを使った学習を経験してきた生徒たちに,技術・家庭科においてどのような題材を設定し学習を進めていくのか」が課題となり,情報教育において小学校と高等学校の間に学習の空洞化を引き起こさないよう,生徒の実態に合わせた指導目標の分析・評価基準の策定・履修内容の厳選・指導法の工夫など,さらに実践を重ねていかなくてはならない。
兵庫教育大学大学院・成田研究室在籍中
【参考・引用】
学校における情報教育の実態等に関する調査結果
 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/13/09/010911.htm
情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進などに関する調査研究協力者会議
 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/002/
21世紀を展望した我が国の教育の在り方について 中央教育審議会 第一次答申
 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/12/chuuou/toushin/960701.htm
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