ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.18 > p22〜p25

中学校の情報教育実践例
「ものづくり」と「情報」を融合した技術科授業の実践
〜カリキュラムのユニット化による発信型ものづくり授業への挑戦〜
富山県東砺波郡上平村立上平中学校 安達 渉
1.はじめに

 2002年実施の学習指導要領により,中学校技術・家庭科(技術分野)の学習内容が,「A技術とものづくり」と「B情報とコンピュータ」となり,技術分野において,情報教育に割かれる時間は,ほぼ50%となった。このことによって,技術科は,九カ年の義務教育の中で正規の授業時間中に情報教育を担当する教科としての意味合いがますます色濃くなってきている。

 しかし,多くの学校のカリキュラムでは,ものづくりと情報教育が独立して扱われ,依然として旧学習指導要領における「情報基礎領域」の多くの題材践がそうであったように,コンピュータの操作スキルを身に付けさせることだけをねらいとした,架空のデータを扱った授業が行われている。このことは,学習指導要領が示す「生活に即した技術・家庭科」という目標からすれば,バーチャルな面ばかりが目立ち,よい傾向にあるとは言えない。

 また,情報教育の目標(1.情報活用の実践力の育成 2.情報の科学的理解 3.情報社会に参画する態度の育成)を前提としたカリキュラムが求められるが,3学年間の「情報とコンピュータ」の学習内容にバランスよく位置づけられていない場合が多い。

 そこで,本稿で報告する実践では,「情報とコンピュータ」で扱う題材を「技術とものづくり」に求め,情報の収集・処理・生成・発信が,具体的な学習目標のもとで行われるよう工夫してきた。

2.カリキュラムのユニット化
 従来の技術分野のカリキュラムは,習得する技能を「領域」として35時間を基本として指導してきた。しかし,新学習指導要領による学習内容の厳選と必修教科の授業時数の削減によって,従来のような学習課程で授業を進めることは困難となってきた。そこで,入学冒頭で校内のコンピュータネットワークの習熟が必要な1年次の技術分野を40時間とし,家庭分野とのバランスを3学年間でとった時間配分とし,以下のような教科カリキュラムを立案し実施している。

ディジタル表現基礎…プレゼンテーションスキルの獲得
ディジタル表現応用…htmlで作品データベースを作成
ものづくり基礎Ⅰ…副題材製作で素材や工具に慣れる
ものづくり基礎Ⅱ…電気工作の基礎スキルを獲得する
ものづくり応用Ⅰ…「すき間家具の製作」
ものづくり応用Ⅱ…「プランタ菜園のWeb作業記録」
ものづくり応用Ⅲ…「ロボットコンテスト」

▲本校のカリキュラム試案

 「ものづくり基礎Ⅰ」では,簡単な木製品の製作を通して,工具の利用の基礎を学び,「ものづくり応用Ⅰ」の本製作につなげていく。それに続く「ディジタル表現応用」では,Web制作の題材を“ものづくりミュージアム”とし,製作活動と作品の評価を統合した学習内容とした。従って,中学生前期でのものづくりにかける時間は40時間となり,旧教育課程時よりも余裕をもって製作に取り組めるようになった。

 さらに,「ものづくり応用Ⅰ〜Ⅲ」では,「情報とコンピュータ」との融合題材として,より必然性のある場を設定し学習を進めている。学習の成果は,1年「ディジタル表現基礎」のプレゼンテーションや2年「ディジタル表現応用」のWebとして,校内イントラネットで公開している。

 このように,「ディジタル表現」と「ものづくり基礎」を学習の導入と評価に当てながら,本製作では,ものづくりにどっぷりと浸かって,十分に身体と五感を使った学習ができるようにしたことを「カリキュラムのユニット化」と名付けた。


▲ユニット化による学習内容の連携
3.実践の概要
(1)ディジタル表現基礎(プレゼンテーション基礎)

 入学して間もない1年生が学ぶ学習内容として,プレゼンテーションを取り上げている。同時期に実施される校外学習を題材とし,取材報告をプレゼンテーションする活動として位置づけた。小学校でのコンピュータに慣れ親しむ経験や「総合的な学習の時間」でのメディアの積極的な活用によって,文字入力の基礎やコンピュータの基本操作は,レディネスとして備わっているという立場で,おもにネットワークの利用とプレゼンテーションに関する知識と技術を体験から学ぶ学習過程を準備した。

校外学習のプレゼンテーション(生徒作品)
▲校外学習のプレゼンテーション(生徒作品)

 校外学習取材報告会という名称でプレゼンテーションの場を設定した。報告会は,コンピュータで作成した画面ばかりでなく,声量やアイコンタクトなどを評価の対象とし,総合的なプレゼンテーションの知識と技術を身に付ける機会としている。

(2)ものづくり応用Ⅰ(素材加工学習)

 生活に即した課題であることは「情報とコンピュータ」ばかりでなく,従来から技術・家庭科が扱ってきた「技術とものづくり」においても同様である。「ものづくり応用Ⅰ」では,自宅の隙間にフィットする家具の製作を課題とし,暮らしの中から製作に必要な条件や寸法を探索することを情報収集の場として位置づけた。学習活動は,自宅の勉強部屋や居間,台所などから普段利用されていないデッドスペースを探すことから始まる。「すき間」と呼べる空間は,家具と壁の間ばかりでなく,天井との空間であったり,机の下や出窓であったりする。最近では,DIYショップなどに定型の整理箱が市販されているが,それぞれの生活空間にジャストフィットするものは,市販品で得られない。それが,製作することの必然性につながる。

 作品は著しく縦長になったり,横長になったりする。最長部で1000mm以上の部品と向き合うことは,挑戦する心と成就感を味わわせるに十分である。そのため,一人あたりの板材を3000mmとし,他校では扱っていない大きな材料を設定した。

 また,収納効率をあげるために,木材以外の素材を積極的に導入することを推奨した。既製品との融合を実現することで,技能が生活へ転移することもねらいとした。

 この製作活動では,実際の暮らしの場を想定することから,情報収集の必然性が生まれ,作品という形で出力される家具を実際に使用することを評価と捉えると,情報活用能力を育成する一連の学習パターンが存在し,情報教育を意識したものづくりが成立する。

すき間家具の作品例
▲すき間家具の作品例

(3)ディジタル表現応用(htmlによるweb作成)

 ものづくり応用Ⅰで製作した作品や2年次の校外学習で体験したことをテーマとしたWebページ制作を通して情報の発信方法とモラルについて学ぶことを目的としている。

 Webの作成については,情報教育の目標の「情報の科学的な理解」を意識して,ワープロソフトのhtml形式での保存やWebページ作成ソフトを敢えて利用せず,エディタを利用してタグを記述しながら作成していく方法を選んだ。これには,面倒くさい体験をすることで,普段何気なく使っているソフトウェアの利便性や工夫に気づくことや,htmlのしくみを体験的に理解するというねらいがある。

 しかし,初めてWebページを作成する生徒にとって,負荷が大きすぎるという判断から,簡単なひな形を与えて,内容を書き換えながら,タグの役割を理解していくという方法を選択した。

 また,作品の評価は,従来のように完成時に行う構造やデザインの評価に留まらず,家族への取材を通して,家庭で利用したときの使いやすさや収まり具合などをレポートすることにした。

 また,学年全体のWebページをまとめたものを「ものづくりミュージアム」として,校内イントラネットから閲覧できるようにし,データの蓄積によってデータベースとしての機能を持たせるようにした。

すき間家具のレポートwebページ(生徒作品)
▲すき間家具のレポートwebページ(生徒作品)

(4)ものづくり応用Ⅱ(栽培学習)

 栽培記録をWebで公開していくことは,「ディジタル表現基礎」で実践している校外学習をテーマとしたプレゼンテーションとともに,1997年から実践している学習課題である。

 従来「栽培領域」は,耕地や管理の問題から,全国的に19%という低い履修率の学習内容であった。しかし,栽培する作物の情報を収集して,試行し,数ヶ月という短期間で結果を得られるということは,授業における情報の収集・処理・生成・発信のすべて可能とする題材として,多くの可能性を持っていると考える。「総合的な学習の時間」においても,栽培学習を取り入れる学校が多いことは,このことを裏付けている。

 「ものづくり応用Ⅱ」では,次の3段階に分けて学習を進めた。

1段階(栽培マニュアルの作成)
 ・生徒が自分で選択した作物について,情報収集しながら,Webでマニュアルを作成し公開する。
2段階(栽培体験と観察記録)
 ・実際の栽培を通して,ディジタルカメラで記録した画像を使ってWebによる観察記録うを公開する。
3段階(Webによるレポート作成)
 ・マニュアルページとこれまでの観察記録の蓄積から後輩向けの栽培マニュアルとしてまとめる。


 また,平成13年度からは,具体的な情報収集と1年次に体験した素材加工の技術を生かす場として,「1坪ガーデニング・プロジェクト」と題した栽培学習を導入した。栽培学習が,インターネットや製作学習と連携をもって,生徒が身につけたことを実際に試すことができるという点で,今後の継続の中でその学習効果を明らかにしていきたい。

栽培記録Web(生徒作品)
▲栽培記録Web(生徒作品)

漫画でわかりやすいマニュアルを作成(生徒作品)
▲漫画でわかりやすいマニュアルを作成(生徒作品)

一坪ガーデニングと紹介された毎日新聞のWeb
▲一坪ガーデニングと紹介された毎日新聞のWeb
 http://maiwill.mitaka.ed.tao.go.jp/hp/chu_ko/200110_12/1211.html
4.おわりに
 これまで生徒は,ものづくりをする技術の授業に飽きることはなかった。しかし,いつ使うかわからないアプリケーションソフトの機能を架空の資料で教え込まれる授業には,やがて飽きてしまうことが予想される。産業社会においてITがものづくりの重要部分を担っているように,必然性をもった情報活用が行われる授業こそが,中学校における情報教育の担い手として期待されている技術科の使命であると考える。
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