ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.25 > p12〜p15

教育実践例
生徒の授業評価に基づく授業改善
−視聴覚室内LANを活用した授業と授業評価システムの活用−
東京都立小笠原高等学校 柿原正見
kaki_pp@hotmail.com
1.はじめに
 本校は東京から南南東に約1000km離れた大小30余りの島々からなる小笠原諸島の父島に位置している。島の全人口は約2000人弱でそのため,生徒数も39人と小規模校である。

 本校でも,都区内の高校と同じように一人ひとりの生徒に質の高い教育を提供することが必要である。そのため今年度,生徒による授業評価を全教科で実施し,その結果を受け,改善を図る取り組みを行っている。

 また,本校では3年生対象の選択授業で情報基礎を設定している。受講者は6名で,アットホームな環境で授業を進めている。小規模校であっても生徒達は高等学校卒業後多岐に亘る進路を希望しており,こういった状況を踏まえ本講座では1学期,2学期と社会に出て役に立つ内容(基本的なアプリケーションの使い方の定着)に重点を置き,情報基礎の授業を進めてきた。

 一般的に学校で行われているアンケートの形態は“アンケート用紙を生徒に配り”,“記入させ”,“回収し”,“集計する”という流れである。本校もこの形態をとっているが,この形態のデメリットとしては“集計作業が大変である”,“即座にアンケート結果を見ることができない”こと等があげられる。

 次に情報基礎の授業で使用する視聴覚室の環境であるが,良いとは言えず,授業を行う際生徒達の画面を教師が把握しにくい。その結果,実習を伴う本授業では,生徒達は時折授業の速度に不満を感じていることが,アンケートを実施することで分かった。
2.生徒の授業評価に基づく授業改善のアプローチ方法
 生徒の授業評価に基づく授業改善のアプローチ方法を図1に記述する。今回は紙を媒体とするアンケート集計方法ではなく,コンピュータを活用し,アンケート集計システムを利用することで事務作業の削減,そして即座にデータを把握し,次回に活用することを目的とした。


(1)アンケート集計方法のメリット・デメリット
図1:改善点抽出の流れ
▲図1:改善点抽出の流れ


 本授業で行うアンケート集計方法のメリットとデメリットについて以下に示すが,この他にも様々なことが予想されるだろう。

【メリット】
・即座に集計を行うことができる。
・即座にデータ結果を見ることができる。
・一度システムを構築してしまえば様々な用途に利用することが可能である。

【デメリット】
・LANに繋がったネットワーク環境が必要である。
・システム構築のためプログラムを組む必要がある。
・教員のパソコンの技能が求められる。


(2)アンケート集計システムの構築に必要な技術
 以下に,システムを構築するのに必要な技術を示す
・ネットワークに繋がった環境
・データを集計するパソコンへのa-pacheと呼ばれるWebサーバのインストール
・データを集計するパソコンへのPerlのインストール
・Perlによる集計プログラム
・生徒が入力する画面の作成
・集計したデータを分析するためのExcelを用いた分析シートの作成
3.過去3回の授業評価アンケート集計結果と分析
 生徒の授業評価に基づく授業改善を目的に,以下の項目についてアンケート項目内容を変えず,過去3回(6月1回,9月2回)アンケートを集計し,データを分析した。アンケート項目内容4番から12番は小笠原高等学校で生徒に対し全ての教科で実施しているアンケート内容と同じである。

 また,データの集計方法は生徒(6名)に対して,以下の項目で4段階評価(そう思う,だいたいそう思う,あまり思わない,全く思わない)で集計を行った。


(1)アンケート項目内容
 アンケートの項目内容を以下の表1に示す。
表1:アンケート項目内容
▲表1:アンケート項目内容


(2)アンケート入力方法
 アンケートはインターネットエクスプローラで開くことができるようにし,入力方法は当てはまる項目に対してチェックをするチェック方式を採用した。生徒の実態を考えると,このチェック方式は手間暇がかからず簡単にアンケートに答えることができるからである。入力画面を以下の図2に示す。

図2:アンケート入力画面
▲図2:アンケート入力画面


(3)アンケート集計方法
 アンケート項目毎に4段階評価(そう思う,だいたいそう思う,あまり思わない,まったく思わない)で集計した。そこで集計方法についてはそう思うに4点を,だいたいそう思うに3点を,あまりそう思わないに2点を,まったく思わないに1点を割り当て,アンケート項目ごとに平均値を棒グラフで表し,分析を行うことにした。


(4)アンケート集計結果グラフ
 図3に1回目から3回目までのアンケート項目ごとの結果を示す。

図3:アンケート集計結果
▲図3:アンケート集計結果


(5)アンケート集計結果グラフの分析
 図3からアンケート項目7「声量や話すスピードは適切である」は他の項目に比べると平均の値が1回目,2回目と極端に低く,全体を通して平均の値が低いことが際立つ。また,アンケート項目10「授業の開始終了時刻を守っている」は1回目,2回目,3回目と回数を重ねるごとに平均の値が下がっていることが分かる。

 加えて,アンケート項目ごとの相関関係を調べてみた結果,項目間の相関はないことが分かった。

 次に生徒に対してインタビュー調査を行った結果,アンケート項目7番に関しては生徒達は声量は問題ないが,話すスピードが速いと感じていることが分かった。以上の結果を踏まえると,生徒は状況の進み具合が早いと感じ,そのためデータ平均が低くなっていることが予想される。この原因としては,本校の視聴覚室の環境を考えてみると,階段教室となっており,教師は授業中生徒の進み具合を把握しにくい環境がある。またアンケート項目10に関しては,授業終了5分ぐらい前からアンケートを記入させていたため,授業終了時刻が少し延びてしまっていた現状がある。そのため1回目,2回目,3回目とデータ平均が低くなってしまったことが考えられる。
4.授業改善の方向性
 本授業ではアンケート項目7とアンケート項目10に着目し,アンケート項目7の改善策としては,授業形態がTT(ティームティーチング)であることを利用し改善を試みた。その改善手段としては,生徒の進み具合を教師一人が生徒の後ろ側から観察・補助し,すべての生徒が遅れることなく,同じ作業をしている状態を作り出すように試みる。またアンケート項目10に関しては終了時刻を守ることで改善を試みた。今回はアンケート項目ごとの相関がなかったが,相関がある場合は相関を考慮し,最も有効な改善策を打ち立てる方がよいだろう。
5.本授業の評価方法
 授業が終了する8分ぐらい前に生徒に同じアンケート項目のアンケートを入力させる。授業終了後アンケート項目7番とアンケート項目10番に関して平均値の比較を行う。平均値が高くなっていれば,本授業で行った改善策が有効である可能性が考えられる。また,平均値が低くなっていれば,他の原因を追及する必要があると考える。
6.授業の内容
 今回の授業の内容としては,画像の合成を取り扱った。アプリケーションとしてはAdobe社のPhotoshopを用いた。授業で用いるアプリケーションは生徒の今後の進路を考えると国際標準となっているソフトを主に用いている。

図4:授業中の生徒の様子
▲図4:授業中の生徒の様子


図5:生徒作品
▲図5:生徒作品


 また,授業中,生徒は,テーマが画像の合成ということもあって,集中し,楽しそうに取り組んでいた。
7.授業の評価
 授業で改善を試みた後のアンケートの集計結果を以下の図6に示す。

 今回,アンケート項目7「声量や話すスピードは適切である」とアンケート項目10「授業の開始終了時刻を守っている」という2つの項目について生徒の評価を高めるために,改善策を行った。

 しかしながら,授業の最後にアンケートを実施してみた結果,生徒の評価はアンケート項目7に関しては,前回よりも低くなっており,アンケート項目10に関しては,前回と同じであった。

 アンケート項目10に関しては,終了時刻を守るつもりであったが,どうしても最後にアンケートを入力させるという作業を行わせてしまうと,終了時間がのびでしまう。そのため今回も終了時刻を守ることができなかったことが原因と考えられる。また,アンケート項目7に関しては,この授業ではTTを活用し生徒の進捗をきちんと把握することに重点を置いたが,多くの人が授業を見に来られていたため,説明をする際の話すスピードがいつの間にか速くなっていたのかもしれない。

 今後は,この項目を改善するためにさらに授業改善を行っていく必要がある。

図6:アンケート集計結果
▲図6:アンケート集計結果
8.おわりに
 本授業で提案した視聴覚室内LANを活用したアンケート集計方法とそれに基づく授業改善は,普段学校で多く行われている座学の授業,体育等の活動を伴う授業ではリアルタイムに利用することができず,LANに繋がった環境が必要である。そのため今後は即座にアンケート結果を教師が受け,授業を改善していくより良い方法がないか探求していく必要がある。

 また,授業の改善方法についても原因を追求し,適切な対策をとる必要がある。そのため,何が要因となって生徒の評価が低くなっているのか把握できるアンケート項目内容の検討が今後は必要であると考える。また,本校は全校39名の小規模校であるため,生徒の授業評価を行っても母体数が少なく,一人ひとりが結果に及ぼす影響が非常に強い。しかしながら,ある程度の生徒数がいる学校ではアンケートの信憑性は非常に高くなると考えられる。

 今回の生徒の授業評価を活かした授業改善は,結果としては良い結果が出なかったが,今後も引き続き授業改善を行い,少ないながらも一人ひとりの生徒にとって質の高い授業を提供できるよう努めて行きたい。
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る