ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.25 > p20〜p24

教科「情報」テキスト活用事例
CM研究の授業実践
東海大学付属浦安高等学校 遠藤 陵二 佐藤 修 田上 智之 寺田 耕司
osamu@urayasu.tokai.ed.jp
1.はじめに
 本校では,教科「情報」の必修化を2001年度から先行して実施,第1学年に必修科目「情報A」を置いている。本校の情報化計画の一つとして,5年を目処に,学習活動の中で求めがあれば,どの生徒でもビデオ編集ができることを目指しており,実習室の環境もその実現に備えた。第1段階として,3年生の各クラスの委員による卒業記念CD制作の活動を導入した。委員は志望者とし,コンテンツの自由度を制約することで,生徒,教員がともにより高いレベルの技能を修得することができた。そして4年目にあたる今年度,我々情報科は,以下に紹介するような,制作も含めた「CM研究」の指導にあたることができた。生徒による発表段階の授業は,昨年11月に本校を会場に開催された「教育改革キャラバン※注1」で一般の方々にも公開した。

 本校の情報科では,「情報A」の履修の成果をその後の様々な学習活動に活かし,さらにその中で実践力を培うよう,IT推進・情報管理室と協力して他教科との連携に努めている。また,2005年度からは,第3学年に選択科目として「情報B」の開講を予定している。
2.授業のねらい
 企画・準備・実施・集計・分析・発表をグループで進める中で,必要に応じて自ら情報機器の操作能力を修得し,協同作業することの大切さを学ぶことをねらいとした。

  なお,大阪府教育センターから図書館経由で専用光ファイバにてインターネットに常時接続できるようになっております。
3.授業展開
(1)事前課題
 夏休みの課題として,放映されているテレビCMの中から気になるCMを一つ取り上げ,登場人物の様子や場面,BGM,コピー,商品紹介の仕方,何気なく置かれているものの効果などから,そのCMがターゲットとしている世代を推測し,CMを印象付けるために,どのような工夫をしているかについて表にまとめさせ,予めCMに関心を向けさせておいた。



 夏休みが明けてからは,大まかには18ページの表のようなスケジュールで授業を進行させた。授業の時間内に収まり切らない作業については,放課後の時間帯を活用させることで調整を図った。本校では部活動に所属する生徒が多く,とりわけ運動部の生徒にとっては,1年生という立場を考慮すると,かなり厳しいことであったに違いない。

(2)テーマの選択
 以下の3つをテーマとして提示し,それぞれどのような活動をするのか具体的に説明した上で,自分が取り組みたいと思うテーマを選択させた。

<CM実態調査班>
24時間連続録画した民放局の映像を基に,CMの実態について生徒自身が分析・考察する。

①民法放送の録画(2時間ずつDVDに保存)
②調査データ(時間帯,商品名,スポンサー,出演タレント,ターゲットなど)の記録
③データ入力・統計処理
④関係統計データ(番組視聴率など)との比較など
⑤研究発表用のスライドの制作⑥発表

<CM好感度調査班>
生徒自身がアンケートを設計・実施し,CMの好感度について分析・考察する。
①アンケート方法(対象・項目・実施方法など)の検討
②アンケートの実施(配布・回収)
③データ入力・統計処理
④関係統計データ(タレントの好感度,音楽の好感度など)との比較など
⑤研究発表用のスライドの制作
⑥発表

<CM制作班>
調査に基づくコンセプトを持って,ノンリニア編集により,生徒自身がCMを制作する。
①商品の選択(現在販売されているがCMは放映されていない商品・サービスとする。啓蒙CMも可とする。)
②商品の分析(競合商品と差別化できる特徴,イメージ色など)
③調査(売上状況,消費者意識など)
④企画(ターゲット,コピー,絵コンテ,BGMなど)
⑤撮影・編集,研究発表用のスライドの制作
⑥発表

(2)班分け
 CM制作班は,教室を離れて撮影にあたるため,これらを監督する教員数の制約から2班を限度と考え,全クラスともCM実態調査班を3班,CM好感度調査班を3班,CM制作班を2班の計8班となるよう調整した。現状の本校において,すべての生徒にCM制作を経験させるには,テーマを2つ用意し,4班をCM制作,他の4班はもう一方のテーマ(例えば「少子化問題」)とし,終わったところで,これらテーマを交換するというような方法が考えられるが,時間的にはかなり厳しい。

(3)CM実態調査班
 録画した映像のCM部分,必要に応じて前後の番組も見て,時間帯,商品名,スポンサー名,業種・商品種別,スポットCM・番組CMの別,番組名,タレント名,技法,BGM,ターゲットの性別・世代を表に記録する。業種・商品種別,技法,ターゲットについては,こちらが用意したコード表にしたがって記録をする。ただし,ターゲットについては生徒が判断するのであるから,スポンサーやCM制作者が意図したものとずれている可能性はある。記録が終わったら,データをExcelシートに入力する。これらに要する作業量は膨大であるため,CM実態調査班の全員が二人ずつペアを組んで分担して作業にあたり,データ入力が終わったところで教員がシートを結合し,これを各班に配布して分析作業に入った。分析作業から発表用のスライドづくりまでの段階では,膨大なデータを前に手の付かない班もあって,そのようなときは,教員も班の中に入って,どのような傾向が表れるか一緒に予想するといったことを繰り返すことでどうにか動き始めた。

(4)CM好感度調査班
 アンケートは,数多くの様々な年齢層の人を対象に実施することが理想であったが,アンケートづくりとデータ入力の間で,アンケート用紙の配布から回収までを完了しなくてはならないという障壁があった。今年度の1年生の生徒数は1クラスあたり47名で,2クラスに実施すれば母集団を約百名とすることができる。そこで,どのクラスのどの班も,自分の所属するクラスを含め1年生2クラスを対象に実施することとした。CM好感度調査班は,最初のアンケートづくりの段階で,分析段階から発表用のスライドづくりの段階までをある程度見通さなくてはならないため,ただでさえ手が付きにくい。そこで,好感度調査の対象とするCMは,清涼飲料水,お菓子,化粧品,洗剤・石鹸・シャンプー,イメージCMの中から選ぶということに制約した。それでも,CMではなく商品の好感度調査に陥ってしまっている班もあるなど,CM実態調査班と同様,班の中に入って一緒に考えるといったことを繰り返すことが求められた。ただし,CM好感度調査班は,この段階ですでにある程度までの考察がなされているため,分析の作業は比較的スムースに進行した。

(5)CM制作班
 あくまで生徒オリジナルなものを制作させるため,テレビCMが放映されていない商品・サービスのCM,または啓蒙CMということに制約した。生徒のモチベーションを高くするには,プロの擬似体験をさせることが最も効果的であると考え,授教科「情報」テキスト活用事例?業としてありがちな学校,部活,建学祭(文化祭)などのCMは避けた。限られた時間の中で,ターゲットに対し如何にして,商品名,パッケージ(イメージ色)を記憶させ,商品の特徴を理解させ,かつ,購買行動を引き起こすことができるか徹底的に工夫させるため,時間は30秒とし,発表では制作のコンセプトについてのプレゼンテーションも義務付けた。撮影リハーサルは,実際にカメラを回して各人の役割を確認しておくことで,撮影本番の作業を円滑に進めるという目的の他に,小物の漏れがないかこの段階で確認しておくというねらいもある。映像編集の段階では,Premiereの基本操作を教えると,俄然,班の士気は高まりをみせ,様々な技術的指導も要求してきたが,卒業記念CD制作での指導経験を背景に,躊躇なく対応することができた。生徒もみるみるうちに操作法を吸収した。静止画の挿入ではPhotoshop,BGMの挿入ではiTunesを活用した。
4.生徒発表
 班の数はすべてのクラスを合わせると72班にも 及び,実に多種多様な分析・考察がなされ,いず れの発表も素晴らしいものであった。ここでは, 「教育改革キャラバン」で授業を公開した1組と5 組に絞り,その一部を紹介することにする。

(1)CM実態調査班
  1組8班では,前述の方法により,600件以上ものCMデータを分析し,以下のような結論を導き出した。

  「業種別度数の時間による変化」→「AV機器・家電のCMは深夜に多い(ターゲットは男性)」・「化粧品・トイレタリーのCMは一日を通じて多い(ターゲットは女性)」・「食品のCMは一日を通じて多い(ターゲットは男女)」→「「専業主婦(女性)は一日中家に居る」・「サラリーマン(男性)は帰宅後しかテレビを観ない」と発信者側が想定しているとすれば矛盾がない」→「時間によってターゲットを変えている」

  「出演タレントの時間による変化」→「日中は男性タレントが多い」・「夜は人気タレントが多い」・「深夜は女性タレントが多い」→「「女性をターゲットとしたCMには男性タレントを使う」・「男性をターゲットとしたCMには女性タレントを使う」傾向が顕著である」

  ターゲットの性別と出演タレントの性別との関係については,男性をターゲットとしたCMの具体例として「ジョージア」,女性をターゲットとしたCMの具体例として「ブルーダイヤ」のCMを見せ,これに前者の出演者である「佐藤江梨子・藤原紀香・矢田亜希子」と後者の出演者である「氷川きよし」の性別・世代別人気ランキングのデータも提示することで,自分達の考察に説得力を持たせていた。

(2)CM好感度調査班
1組4班では,前述の方法により,お菓子のCMについてのアンケートを実施し,以下のような結論を導き出した。

  「「フラボノ」のCMが嫌いだという生徒が圧倒的に多い」・「嫌いな理由として出演者をあげる生徒が圧倒的に多い」→「「ペ・ヨンジュン」はあんなに人気があるのになぜか」→「フラボノは口臭予防のガムで,今回アンケートの対象とした高校1年生はターゲットでない。」

  口臭を気にしている人の世代別の割合,「ぺ・ヨンジュン」に好感を抱いている人の世代別の割合をグラフで提示し,さらに「フラボノ」のCMも見せその特徴を解説することで,ターゲットは自分達世代ではなく大人であるとの自分達の見解に説得力を持たせていた。

(3)CM制作班
  5組1班は,「暴君ハバネロ激辛焼きそば(サンヨー食品)」のCMを制作した。

  この商品は,世界一辛いと言われる唐辛子「ハバネロ」を使用し,ただ辛いだけでなく「ウマ辛い」味わいをカップ焼そばで再現,辛みを調節できる「激烈パウダー」を添付することで,自分好みの味をつくる楽しさを加えたというもの。CMは,二人の高校生が地べたに座って焼きそばをつくるシーンから始まる(本校の日常にそのようなシーンはない)。「激烈パウダー」という掛け声に合わせ,激烈パウダーを加えて勢いよく掻き回す。思いっきり麺をすすると「辛まいう〜っ」,辛くて水を飲む。そこでチャイムが鳴り,ジャンケン。二人は走り出し(同時に「ポルノグラフィティ」の「無限」がBGMとして流れ始める),ジャンケンで負けた生徒が途中,容器をゴミ箱にシュート。次に噴水を飛び越え,一人は階段を駆け上がり,もう一人は地上から2階のHR 教室のベランダへジャンプ,HR中の教室に後の左右ドアから二人同時に飛び込むが,担任の先生から「アウト」の宣告を受けるというストーリー。最後はパッケージを前に押し出しながら「ハバネロ,ハバネロ」と連呼して終わる。あまりの出来栄えに一般の方々からも大歓声があがった。

5.相互評価
(1)プレゼンテーションの評価
 全員に赤色と青色の2種類の付箋紙を配っておき,発表を聞いた生徒は,「よい」と感じた点を「赤色」の付箋紙に,「工夫が必要」と感じた点を「青教科「情報」テキスト活用事例?色」の付箋紙に書き込み,カラー印刷して掲示されている発表スライドに貼り付けるという方法で実施した。

発表スライドに貼り付けられた付箋紙
▲発表スライドに貼り付けられた付箋紙

(2)CMの評価
 印象度(最初の数秒間で視聴者を画面に引き付け,最後まで飽きさせなかったか。また,CMを見終わった後,商品が強く印象に残ったか。),理解度(商品名が分かりやすいか。また記憶に残るか。商品の特徴が分かりやすく表現されているか。),好感度(表現・内容が商品中心でありながら,なおかつ興味・関心を引くか。理屈抜きに好きなCMか,気にいったか。),演出(音楽,効果音が効果的に使われているか。配役や小道具などに工夫があるか。撮影方法・編集方法などに工夫があるか。)の4項目について,評価シートに5段階評価するという方法で実施した。
6.おわりに
 生徒への配布資料の作成に際しては,「情報教授資料「総合実習編」(日本文教出版)」が大変参考になった。
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る