ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.25 > p25〜p28

海外との交流事例
法政付属三校の新たな国際交流
−「カリフォルニア夏期英語&IT研修(通称EIT)」を実施して−
法政大学第一中・高等学校 小林邦久
1.はじめに
 法政大学には,サンフランシスコ空港の近くにアメリカ研究所という大学生のアメリカ留学基点となる施設があり,その研究所と法政大学の九段IT研究センターを結んでビデオ会議システムの構築や運用などを行っていた。これは大学生のために遠隔講義などの目的で使用しているが,付属三校との緊密な連携による共同事業として始めた高校生向けのプログラムが,このカリフォルニア夏期英語&IT研修(通称EIT)である。

 実際に付属三校(法政大学第一高等学校・法政大学第二高等学校・法政大学女子高等学校)の校長を通して話しが降りてきたのが一昨年の10月で,三校の担当者が下見で交流先の高校を探し,カリフォルニア州立大学ヘイワード校(CSUH)で語学プログラムの打合せとIT関係の授業の検討,大学内の施設(寮)の視察など,夏休みに行う三週間のプログラムと事前研修の内容を検討した。

 中でもこのプログラムのメインになる,ビデオ会議システムの活用は,現地校との交流及び研修成果の発表会(英語で行うプレゼンテーション)に使用することにした。

 昨年行った事前研修から実施までのビデオ会議システムの活用や,E-mail・WebページなどのITの役割を通して,このプログラムを紹介したいと思う。
2.ビデオ会議システムを通した交流
 サンフランシスコ・ベイエリアの高校はどこもITは進んでいるが,お互いの交流メリットがないとなかなか話が進まない。そこで,日本語の授業をもっており,アメリカ研究所にも近いMills HighSchoolと交流の話を進めた。

 ここに勤めておられる宗田先生(日本語の授業を担当)とE-mailやビデオ会議システムを用いて打ち合わせを行った。お互いの言語を学ぶというコンセプトのもとに,例えば「自分の趣味」というテーマであれば,法政の生徒は英語で自分の趣味を説明し,それに対してMillsの生徒は英語で質問をして英語で答える。次に,Millsの生徒は日本語で自分の趣味を説明し,それに対して法政の生徒が日本語で質問をして日本語で答えるというように,お互いの言語で会話する時間を決めて行うのである。初めはとまどいもあったが,お互いに刺激のある不思議な空間となった。

 また,このビデオカンファレンスは月に1回程度の実施であったが,自己紹介のビデオをお互いに作って交換したり,メーリングリストを作ったりして事前の交流を深めていった。

法政一高のコンピュータ室とアメリカ研究所
▲法政一高のコンピュータ室とアメリカ研究所

 E-mailも英語と日本語(ローマ字打ち)の両方で書いてお互いにやり取りすることで,かなり語学の勉強になった。

現地で初めて会っても前からの友だちのように
▲現地で初めて会っても前からの友だちのように

 現地では2泊ほどのホームステイをMills高校の生徒たちの家にお願いしたが,3週間の研修期間中に時々遊びに来てくれたり,最終日の成果発表会も見に来てくれたりした。現地での交流は,時間的にはわずかだったが,このビデオ会議システムでカンファレンスを行っていたために,長年付き合ってきた友だちのようにすぐに打ち解けることができた,期待以上の効果があったといえる。
3.IT研修とWebページ作り
 ビデオ会議システムを通して語学の交流を行う一方で,このプログラムの特徴であるIT関係の事前研修も進めた。ノートパソコンを参加者全員に配布して,アメリカ研究所に置いたEIT専用サーバにE-mailとWebページのアカウントを用意してもらった。このパソコンはOSからすべて英語版なので操作もすべて英語で行うが,この操作指導は付属三校の情報に携わっている教員があたった。もちろんMills高校の生徒とのメールやり取りもこのパソコンで行った。

 また,Webページの発行についても同様で,日本語が使えないためすべて英語でページを作り,アップロードした。しかし,E-mailアカウントの設定やWebページの発行など,英語で行うことは大変だったが,これを苦に思う者はいなかった。

 現地でのWebページ作りやE-mailのやり取りも夜遅くまで頑張っていた。これもMills高校の生徒との交流が目的にあったからだと思う。現在でもMills高校とE-mailのやり取りをしてWebページの更新をしている生徒もいる。夏の3週間のプログラムが終わっても交流は続いているのである。

参加生徒が作ったWebページの一部
▲参加生徒が作ったWebページの一部

 Webページの内容は,現地でレポートができたり日本との比較ができたりするようなテーマを一人ひとりが立て,最終日の英語でプレゼンテーションを行う成果発表会にもつながるように考えて取り組ませた。常にディジタルカメラを片手にフィールドトリップやホームステイ先などで得た情報を元に作り込んでいった。

自分で絵を描いたユニークなページもある
▲自分で絵を描いたユニークなページもある

 Webページアドレスは,日本で待っている親も知っているので,研修の様子が手に取るようにわかるという点でも役に立っていた。

英語のプレゼンテーションテーマのひとつ
▲英語のプレゼンテーションテーマのひとつ

 現地で行ったIT講義もアメリカ人講師により,英語でインターネットの仕組みなどを学び,パソコンの組み立てなども行った。

 このIT講義は限られた時間の中ではあったが,語学の勉強と生徒の刺激になった。この他に週2回ほど行ったフィールドトリップでも,ITに興味を持てる様な博物館(Computer History Museum)などを見学した。

IT講義−パソコンの組み立て
▲IT講義−パソコンの組み立て
4.CSUHの語学研修と成果発表会
 こうしてITを通して英語を学んできた研修もいよいよその成果を発表する時が来た。これまでに積み上げてきたものが大きいだけに,生徒たちも意気揚々とこの日に臨んでいた。

 語学研修では,成果発表でプレゼンテーションができるように,必要な英語表現を楽しく学べるシラバスを作って一歩一歩進めてくれた。このように目標を持って進めてくれたので生徒たちには大好評であり,今まで日本で経験したことのない授業だと言っていた。

プレゼンテーションの練習風景
▲プレゼンテーションの練習風景

 最終日が近づくと,生徒が作ったWebページと発表用のパワーポイントのスライドを見ながら練習を繰り返し行い,発表に備えてくれた。

 いよいよ発表の本番というとき,Mills高校の生徒たちも見に来てくれて,彼らも緊張を隠せない様子であった。さらにビデオ会議システムの向こうでは付属三校の校長を始め,EIT関係者や親が見つめている。あとから彼らに聞くと,何度も練習したにもかかわらずかなり緊張したといっていた。しかし,各自のプレゼンテーションを行う前に来てくれているMills高校の生徒を親に紹介するというコーナーを設けたので,ここで少しは和やかになり,逆に親が少し緊張していた。これもビデオ会議システムのなせる技であると思う。

プレゼンテーション前の紹介コーナー
▲プレゼンテーション前の紹介コーナー

プレゼンテーション本番を見守る現地スタッフ
▲プレゼンテーション本番を見守る現地スタッフ

 高校生にとって,英語でプレゼンテーションをするという機会はそう滅多にあるものではなく,彼らにとってすごく貴重な経験であったといえる。

 こうした大きな目標は,Webページ作りやプレゼンテーション作りを通して英語を勉強するきっかけにもなり,達成感も得たのではないかと思う。

法政大学九段ITセンターで見つめる親たち
▲法政大学九段ITセンターで見つめる親たち
5.語学やITの意欲的な上達とは
 この研修を通して感じたことは,ITの発展が距離や時間をどんどん縮めていること,コミュニケーションの形が変わりつつあることである。現にビデオ会議システムを使うとカリフォルニアにいながら日本にいる様な錯覚さえ感じた。

 しかし,コミュニケーションの基本はやはりFace to Faceであり,彼らもE-mailよりビデオカンファレンスを楽しみにしており,ビデオカンファレンスよりも実際に会うことを楽しみにしていた。ITはコミュニケーションの手段に過ぎないとはいっても,もしもE-mailやビデオ会議システムが無ければ,ここまでのコミュニケーションは実現できなかったと思う。英語の学習と同様にITの学習もこの研修では重要な要素のひとつであることは確かである。

 つまり,今回学ばなければならない英語とITがあり,その向こうにコミュニケーションの対象であるMills高校の生徒たちがいてくれる。そしてITを通して伝える手段が英語でなければならないとき,その環境が学ぶ意欲につながり,英語やITは道具としてコミュニケーションを支えていく。しかし,その不充分さを感じたとき,さらに学んでいく意欲につながる,といった良い循環が彼らを成長させたと実感できる。

 彼らの半数は,研修参加前にはパソコンやITに苦手意識を持っていたが,交流の手段としてのITやビデオ会議システム,コミュニケーションの道具としてのパソコン,そして研修成果を発表する手段としてのWebページやパワーポイントを使い学ぶうちに,様々な達成感を持ったという感想が多かった。もちろんMills高校の生徒がいてくれたことが,彼らの意欲を大きく引き出したことは間違いない。そして,ITの研修はその陰の立て役者として,語学の飛躍的な上達にもつながっていたと思う。
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