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ICT・EducationNo.29 > p10〜p13

教育実践例
高等学校「情報C」の指導環境
-限られた授業時間でどう教えるか-
聖学院大学政治経済学部コミュニティ政策学科 国分道雄
m_kokubun@seig.ac.jp
http://www.seig.ac.jp/
1.はじめに
 学校法人聖学院は,幼稚園・小学校から大学・大学院を有し,キリスト教精神に基づく人間教育を行っている。大学は埼玉県上尾市にあり,政治経済学部コミュニティ政策学科では,情報教職課程を設置している。
 中等教育機関としては,東京都北区のJR山手線駒込駅から徒歩5分の地に,男子校の聖学院中学校・高等学校(以下,聖学院中高)と,女子校の女子聖学院中学校・高等学校が隣接している。筆者は,大学の教員ではあるが,学校法人聖学院駒込キャンパス情報化推進委員長として,駒込にある幼・小・中高・法人本部の情報化にも関わっている。
 本稿では,聖学院中高における情報教育について述べる。
2.聖学院中高の環境
 聖学院中高は,1906年の創立で,本2006年に100周年を迎える。
 1999年に新校舎が完成し,丸6年が経過した。新校舎には,基幹に1Gbpsの光ファイバを通した校内LANを整備し,職員室・会議室・特別教室等には無線LANアクセスポイントを設置している。
 教員・職員には,一人一台ずつノートPCを配布し,4年毎に新しい機種に交換している。校内では,情報助手らにより教職員用のWebサーバ等が設置・整備されており,事務連絡・施設予約・情報共有等に活用している。
 入試・教務事務システムのLANは,セキュリティを考えて,校内LANとは物理的に切り離している。
 6名の教職員によりコンピュータ委員会が組織され,週1時間(本年度は土曜3時間目),情報環境の整備やセキュリティ対策について話し合いを行っている。
3.コンピュータルーム
 PC教室には,生徒用として46台のデスクトップ型Windows機が設置してあり,有線LANで接続している。
 PC教室内LANと校内LANは切り離されていて,二つのLANを繋ぐ形でWindows機を1台設置している。このWindows機では,HTTPプロキシサーバとして,BlackJumboDog※注1を動かしている。


▲LAN構成図

 生徒機からWeb閲覧を行う時は,このプロキシ経由となる。授業でWeb閲覧をさせたくない時には,BlackJumboDogを終了すればよい。また,PC教室内のWebサーバには,プロキシを経由せずに接続する設定にしているので,プロキシを終了していても閲覧できる。
 PC教室内には,生徒用メールサーバ(Pentium4 2.8GHz RAM256MBHDD160GB)も設置している。OSはLinux(Fedora Core)※注2で,PostfixとSquirrelMail※注3を使ってWebメール環境にしている。PC教室で,POPメールをOutlook等のメールソフトを設定して送受信するのでは,各生徒機にメール設定等が残ってしまうため,どの座席からでも設定なしで利用できるWebメールにした。OSも含めて,全て無償で利用できるソフトであり,たまたまOS無しのサーバ機を8千円で購入できたので,自分達でインストールして,非常に安価に環境を構築することができた。中1〜高3までの全生徒にメールアカウントを発行しているが,アカウントの設定もテキストファイルを流しこむことでできるようにしたので手間はかからなかった。


▲Webメールのログイン画面
4.高校1年「情報C」
 本校では,高校1年で「情報C」を履修させている。
 週1時間の授業と長期休暇中の集中講義で,2単位としている。三学期制なので,各学期の期末に計3回のペーパーテストを行い,その点数と提出物等を基に成績をつけている。
 約40名のクラスを,教員1名と情報助手1名の二人体制で指導している。

(1)何を教えるべきか
 生徒が,大学へ進学したり,社会に出たりした時には,ある程度,PC操作ができる必要がある。
 しかし,いくらPC操作が出来ても,情報社会の中で被害者や加害者になってしまっては困る。もっとも重要なのは「情報社会に参画する態度」の育成であろう。
 さらにニュースなどで話題になる事柄を正しく理解するためには,ある程度の基礎知識も必要である。そのため,PC実習だけではなく,座学も重視している。
 2003年度の「情報C」開始以来,本2005年度で3年目であるが,年々,入学生のPC操作スキルは上がっている。本年度入学生にアンケートを実施したところ,96%の家庭にPCがあり,2割以上の生徒が自分専用のPCを所有していた。
 しかし,生徒間のスキルの差は大きく,独学でプログラミング等をしている生徒がいる一方で,タイピングに時間がかかる生徒もいる。
 そのため,座学の内容に関連した実習を,毎回,行うようにしている。PC操作に不慣れな生徒は,毎時間の実習に取り組むことで,少しずつ操作に慣れていくことができる。既にPC操作が得意な生徒にも,毎時間の座学の内容を情報機器で処理することで,様々な課題を解決する方法を経験的に学んでいくことができる。

(2)週1時間の授業
 普段の週1時間の授業では,前半(約25分)は普通教室で座学を行い,後半はPC教室に移動して実習を行うようにしている。
 移動時間がかかってしまうが,最初からPC教室で座学を行うと,目の前にPCがあるため気が散ってしまう生徒も出てくる。座学中は電源を切っていて,実習を始める時に電源を入れさせる場合でも,全員が作業できる状態に揃うのに若干の時間がかかる。それなら,普通教室では座学,PC教室では実習と,それぞれに集中させた方が,かえって効率良く行える面もある。PC教室では,情報助手が時間節約のため生徒機の電源を入れた状態にして待機している。生徒はPC教室に移動してくると,Webメールで課題を確認して,実習にとりかかる。教員は,普通教室を最後に出る生徒と共にPC教室に移動する。メールだけではわかりにくい作業があるときには,既に作業を始めている生徒も中断させて,全体に説明することもある。
 実習内容は,授業前にメールで送信しておく。実習時間が短いので,なるべく短時間で完了する課題にしている。また,PCの得意な生徒のために,追加の課題もメールに記しておき,早く終わった場合は,それを行うようにさせている。
 苦手な生徒にもPC操作を身につけさせるには,基本的な操作を何度も反復して行う機会があることが望ましい。短い実習でも良いので,なるべく毎回触れさせることが大切である。

(3)集中講義
 時間のかかる実習は,集中講義で行うようにしている。
 夏休みの集中講義のテーマは,「画像のディジタル化」であった。2万円程度のデジカメを2人で1台使える台数用意してあり,撮影した画像を編集して作品を作らせている。
 12グラフィック編集ソフトは,Pict-Bear Second Edition※注4を使用している。フリーソフトであるため,生徒が自宅で作業の続きを行うことも容易である。レイヤー機能もあり,本格的な編集も行える。旧バージョンのPictBear1.74は,GIF形式が利用できなかったが,SecondEditionのRC5やNightly BuildはGIF形式での保存もできるため,保存形式による違いも体験させることができる。

▲PictBear Second Editionの画面

 冬休みの集中講義は,「音声のディジタル化」を行った。PC台数分のヘッドセットを用意してあり,各自がマイクで録音したり,ヘッドホンで音を確認したりできるようにしている。
 WAVE録音・波形編集には,YAーMAHAが無償で提供しているウェーブエディターTWE※注5を使用している。メニュー等の表示が全て英語だが,少し説明すれば生徒も特に戸惑わずに使うことができる。波形を拡大することができ,ディジタルで階段状になっている様子を見られるのも良い。
 CDからの取り込みやMP3圧縮も体験させている。中には既に自宅で行っている生徒もいるが,知らない生徒も多い。CD取り込みが簡単にできてしまうことを経験することで,だからこそ著作権を尊重する態度が必要なことを指導できる。


▲ウェーブエディターTWEの画面

 春休みの集中講義は,MicrosoftPowerPointを使って「プレゼンテーション」を行っている。
 グループ内での発表の後,評価を受けて修正等を行い,全員の前で発表をするようにしている。

(4) 実習課題の保存・提出
 実習課題は,FDやファイルサーバの個人フォルダに保存させている。
 FDも使用しているのは,PC操作に不慣れな生徒にも,目に見えるメディアに保存することで,保存場所を明確に意識できるようにするためである。
 課題の提出は,メールの添付やファイルサーバへの保存でも行うが,印刷物でも提出させるようにしている。
 これも,手に持てる形にすることで完成した実感を持たせたいことと,画面と印刷では見え方が違うこともあるので,印刷物を確認する経験をさせたいためである。
 その日の授業・実習の感想を,課題の最後に書くかメールで送信させるようにしている。一人一人の生徒がどのようなところに関心を持ち,どのようなところを難しく感じたのかを毎時間把握することができるため,授業の改善に有益である。

(5)問題集の利用
 授業では,日本文教出版の教科書準拠問題集も使用している。
 まず,入学式後のオリエンテーション期間に問題集を配布し,最初の「情報C」授業までの宿題とした。範囲は第1章第1節の部分で,教科書を見ながらの予習ということになる。高校生活のスタートと共に,自宅で予習する習慣をつけて欲しいという考えもあった。予習をしてから,最初の授業に臨むことで,「情報の授業で,どのようなことを学ぶのか」という心構えができていて,効果的だった。
 学期中も折に触れて,問題集を宿題に課した。週1時間の授業では扱えなかった内容を補うことができ,期末テスト対策にもなった。
5.放課後自由利用
 PC教室は,放課後に情報助手が常駐して開放している。
 高校1年生が授業の課題の続きで利用することも多いが,高校2,3年生が自らの課題解決のために利用することも多い。
 高校1年の授業で様々な課題の解決に情報機器が活用できることを体験しているため,高校2,3年になっても,様々なことに利用しようとしているようである。
 「情報C」スタートの翌年から,特に生徒会・委員会・部活等で中心的な役割を果たす高校2年生が,放課後のPC教室で,自分達で持ち込んだ課題を作業する姿をよく見かけるようになった。
 授業では,時間数が少ないこともあり,一つ一つの内容に深入りできないが,むしろ広く浅く経験することで,その後の視野が広がっているように感じられる。
 文化祭の直前も,展示用のアンケート集計・Tシャツのデザイン・宣伝用WebページとQRコードの作成等を行っている生徒達がいた。
 ただし,具体的な解決方法については授業で学習していない場合もあるため,常駐している情報助手からのアドバイスも必要になる。
 高校1年での授業を補うためには,このような高校2,3年での放課後の利用や適切な助言を受けられる体制も重要になる。
6.希望生徒向け講座
 授業外では,希望者を対象とした講座を放課後に開催している。授業では,スキル差があって,限られた時間の中では実施が難しかったことを,テーマ毎に希望生徒を募集して「放課後パソコン教室」という名称で行っている。
 例えば初心者向けには一学期に,
・タイピング&ワープロ入門
 中上級者向けのテーマとしては,
・パソコン組み立て
・アニメーション
・コンピュータプログラミング
・パソコン検定対策
等を行った。
7.おわりに
 新カリキュラムが始まって3年目になるが,本校では「情報C」の指導内容を毎年少しずつ変えている。生徒のスキルも年々向上しており,社会で話題になる内容の変化によって,授業で扱う具体例も見直す必要がある。おそらく,「情報」という科目は,今後も常に内容を見直していく必要がある科目なのであろう。
 「限られた授業時間で何を教えるか」ということも重要な問題である。そのためには,教員が「情報の授業を通して,生徒に何を伝え,何を身につけさせるべきか」を明確にしておく必要がある。
 学校の重要な存在意義は,卒業した生徒がより豊かな人生を歩むことができるように育てることであろう。その中で,情報科はどのように生徒を育てるべきか。決して,特定のアプリケーションの操作ができるようにするだけでは十分ではない。
 将来,生徒が社会に出た時に必要になることは,最低限,身につけさせておくべきである。その観点から,今の世の中を意識し,常に指導内容を見直していく必要があると考える。
注1 http://homepage2.nifty.com/spw/
注2 http://fedora.jp/
注3 http://www.squirrelmail.jp/
注4 http://sleipnir.pos.to/software/pbse/
注5 http://www.yamaha.co.jp/product/syndtm/dl/utility/twe/
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