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ICT・EducationNo.29 > p14〜p17

教育実践例
ハンズ・オン・ロボットを取り入れた「情報B」の授業実践
−女子高等学校における「梵天丸」を使用した総合実習型授業−
学習院女子中・高等科 原 健太郎
kentaro.hara@gakushuin.ac.jp
1.はじめに
 この報告は,著者の大学院修士課程の研究である『普通教科「情報」におけるハンズ・オン・ロボットを活用した授業開発−「情報B」における「梵天丸」プロジェクト開発−』の実践報告である。この研究は,情報Bにおける「技術の進展に左右されない基本的な考え方や方法を科学的に理解させ習得させること※注1」の授業開発である。この研究を通して,コンピュータに「機械を操作する機械※注2」という概念を持たせるという考え方について検討を行った。そこで,「機械を操作する機械」という概念を身につけることを通して,「コンピュータの仕組みと働き」を理解させる授業開発について検討した。そして,「ハンズ・オン・ロボット」を使用し普通教科「情報B」の指導を行う提案を行った。
 このようなロボットに着目した理由は,学習指導要領の,「コンピュータや模型などを使った学習を取り入れるようにする」,「ソフトウェアやプログラミング言語を用い,実習を中心に扱うようにする」,「動作を確認できるような学習を取り入れるようにする」という文言からである。
 「ハンズ・オン・ロボット」についての一般的な定義はないが,論文において「コンピュータの機能を持った,手に取って触れることができる自律型ロボット」と定義した。そこで,ハンズ・オン・ロボットの1つである「梵天丸」という市販のロボットを使用した授業開発を行った。今回は,この開発した授業の実践を紹介する。なお,本授業は,「コンピュータの仕組みと働き」だけでなく,他分野との連携も考え,総合実習型の授業として開発した。
2.授業実践概要
 本校では,第2学年に「情報B」と「情報C」を設置し,理系選択者は「情報B」,文系選択者は「情報C」を履修する。本実践は「情報B」で第1学期・第2学期を使用して行った。なお,指導者2名によるTT形式で指導を行った。教科書は日本文教出版「情報B」(日文情報048)を使用した。本授業実践では,教科書の第4章「総合実習」の形式を基調として,梵天丸を使用した「梵天丸プロジェクト」を実施し,教科書の内容について広く網羅した。
3.「梵天丸」について
 梵天丸は,「メカトロで遊ぶ会」が開発した入門用ロボットで,平成18年1月現在,本体は5,250円,本体にプログラムを転送するケーブルは2,625円で販売されている。このようなロボットは他にも販売されている。梵天丸はそのようなロボットに比べ機能が少なかったり,構造としての自由度が低かったりという短所はあるが,本実践で使用する分には十分な機能を持っており,特に安価である。
 著者の研究においては,以下の理由により,梵天丸をハンズ・オン・ロボットと定義した。
(1)コンピュータとしての機能
梵天丸は,入力機能として,2個の赤外線センサと1個のフォトトランジスタを,記憶・演算・制御機能として,マイクロコントローラを,出力機能として,モータとタイヤを備えている。
(2)手に取って触れる
梵天丸は,長さ15cm,幅13cm,高さ7cmのロボットで,大きさは「ミニ四駆」程度のものである。
(3)自律型ロボット
「梵天丸」は組み込まれたプログラムによって自分で自分の行為を規制し,規則に従って行動する。

▲自律型ロボット「梵天丸」

 また,梵天丸の制御はプログラミングによって行う。そのプログラミング言語はひらがなを用いて,小学生にでも扱えるように作られており,学習指導要領に示されている「プログラム言語の習得が目的とならない」指導が可能である。このプログラムを開発する環境では,プログラムが機械語に変換されている画面が現れ,コンピュータによる処理を実感することが可能である。

▲機械語で表されたプログラム
4.梵天丸プロジェクト
 今回は平成17年度の実践を報告する。授業は週1回2時間連続授業で行った。1班3人の協同作業で,班は籤によって決めた。籤で決めた理由は,このような活動が得意な生徒や,そうでない生徒が班によって偏ってしまうと,活動に偏りが出ると判断したためである。また,3人で構成した理由は,平成16年度の授業では1班4人で活動を行わせたが,2人ずつに分かれてしまい,協同作業にならなかったためである。また,梵天丸本体に関して,搭載されているマイクロコントローラをPIC16f628AからPIC16f628/20Pに差し替えて使用した。なお,毎回の授業において,ポートフォリオを基調とした報告書の提出を行わせた。
 次に,プロジェクトの流れと内容について説明する。

(1)本体の組み立て(2時間)
 梵天丸は,本体板・基盤・モータ部から成り立ち,それらを組み立てる活動させた。この段階において,「コンピュータの構造」について実体験を通して学習することを目的とした。実際に自分たちで梵天丸というコンピュータの1つを組み立てることで,コンピュータの物理的な構造と接することができるようになっている。
 本体の組み立てを行うことで,コンピュータの五大機能(入力機能・記憶機能・演算機能・制御機能・出力機能)について,生徒たちの目の前にあるコンピュータと対応付けて学習させた。
 なお,本授業では実践できなかったが,テレビのリモコンを分解することなどを授業に盛り込むことができたならば,コンピュータとしてのリモコンを梵天丸の基盤と対応させて考えさせることもできる。この分野においては,いわゆる「社会の情報化」について生徒たちに考えさせた。

▲組立作業風景

(2)テスト走行(6時間)
 この段階で,梵天丸のプログラミングを行い,プログラムの基本である「構造」・「条件分岐」・「繰り返し」について学習させた。また,実際にプログラムを組む中で,入力装置であるセンサの仕組みについても学習させることができた。生徒にセンサ技術について考察させ,センサに使用されている物や使われ方についてレポートを提出させた。その際に,普段使用している携帯電話が梵天丸の仕組みと同じだということにほぼ全ての生徒が気付き,身のまわりにいろいろな形でコンピュータがあるということを理解した。
 また,このセンサは半固定抵抗を用いて調節する必要がある。これにより,アナログデータに対するコンピュータの不得意な作業について体験的に学ばせた。また,コンピュータの処理におけるアナログとディジタルについても考えさせた。梵天丸のプログラムソフトは「まきもの」を機械語にコンパイルする際に,実際に機械語を画面に表示する。このことにより,コンピュータ内部の処理としてコンピュータがすぐに分かる形である機械語へと変換していることがすぐに見ることができる。これにより,コンピュータの処理について学習させた。

▲テスト走行風景

(3)「梵天丸コンテスト」に向けての制作(10時間)
 先の活動を通し,梵天丸の基本動作について学習した上で,梵天丸にある目的の動作をさせることを発表する「梵天丸コンテスト」の発表会に向けて活動させた。それらの活動は主に3つの活動から成り立っている。
1)評価項目決定
2)プログラミング
3)装飾
 以下,それぞれの活動について説明する。

1)評価項目決定
 このようなプロジェクト学習においては,自己評価と生徒間相互評価が重要である。そこで,生徒たちには「梵天丸コンテスト」での発表にむけて制作を行う上で,このような生徒間相互評価の項目を決定させ,その上でプログラミング,装飾の活動を行わせた。生徒たちは,この評価項目でよい評価が得られるように制作した。
 この評価項目は各班の班長に会議を行わせ,自主的に決定させたものである。なお,その評価項目は以下のとおりである。
・ストーリー性
・工夫のある動き
・正確な動き
・装飾(あまり華美でない)
・オリジナリティー

▲評価項目を相談した黒板

2)プログラミング
 テスト走行においてプログラムの基本について学んだ上で,生徒間相互評価の項目にもとづいて,「梵天丸コンテスト」で発表する内容を決定し,これらの活動を行う。このようなプログラム作成を通して,「コンピュータは機械を操作する機械である」という概念を持たせた。そして,この活動を通して,プログラムのデバッグを行い,試行錯誤の活動を行わせた。なお,梵天丸をプログラムするソフトウェアでは,「まきもの」言語を機械語に変換していることを観察することができる。これにより,コンピュータによるプログラムの実行の流れについて観察させた。また,「梵天丸コンテスト」で発表する内容を考え,プログラムする際に,どのような動きにし,どのようなプログラムを組むのかを考える必要がある。その際に「流れ図」について学習させた。

3)装飾
 梵天丸の目的の動作に沿った装飾を行わせた。この活動は生徒の間で「情報の共有化」を促すことが目的である。ただ装飾をするだけでは単なる美術の授業になってしまうが,プログラムに沿って装飾を作ったり,装飾にあったプログラムを作成したりするためには,生徒の間での「情報の共有化」がとても重要なものとなる。

(4)「梵天丸コンテスト」発表会(2時間)
 ここまでの活動で作り上げたものを最終的に発表させた。この発表会では,生徒たちに発表内容を考えさせ,制作において苦労した点や,制作物の見どころなどを発表させた。そして,発表の中でプログラミングされた梵天丸を実際に動作させた。発表について,生徒が決定した評価項目に従い,生徒間で評価を行わせた。なお,次のホームページ作成に向けて写真・ビデオ撮影を行った。

(5)ホームページ制作(18時間)
 ホームページ制作については,2学期すべての18時間と大幅な時間を費やした。これは,著作権やネットワーク,コンピュータにおける画像の処理など多くの内容を含んでいるからである。このホームページは,班ごとに制作した梵天丸について発表させた。「梵天丸コンテスト」の際に撮影した写真,ビデオなどをそのまま載せるのではなく,適切に編集することなどの活動を通して,コンピュータにおける情報の表現なども学習させた。また,ホームページを制作する上での著作権への配慮の必要性や,「見やすいホームページ」にするためにはどのようにすればよいかといったことについて考えさせた。

▲ホームページ制作風景
5.アンケート
 授業終了後に生徒に対してアンケートを実施した。結果から,授業に対する関心度として,本授業では生徒の反応もよく,「ロボットを取り入れた授業が楽しかった」と答えた生徒は69.7%であり,生徒の関心も高かったことが示された。女子教育においてもロボットを使用した授業は生徒の関心を高めることができたといえるだろう。コンピュータに対する理解度として,「梵天丸がコンピュータの仕組みを理解するのに役立った」と答えた生徒は47.0%であった。また,「授業全体を通して,コンピュータの仕組みについてよく分かった」と答えた生徒は74.2%であった。これにより,本授業を改善することで,ハンズ・オン・ロボットはコンピュータの仕組みを理解する上でより効果的なものであると推測できる。コンピュータ内部の処理に対する理解度として,「プログラムが機械語に変換されていることがよく分かった」と答えた生徒は92.4%であり,特にこの質問に対して「とてもそう思う」と答えた生徒は,全体の65.2%という結果が出た。これにより,梵天丸を使用することは,コンピュータの内部の処理について,実感を持ちながら学習することが可能であると言える。最後に,「コンピュータは機械を操作する機械である」という概念に対する理解度として,「プログラムがロボットに書き込まれた実感があった」と答えた生徒は86.4%であり,ハンズ・オン・ロボットを用いた普通教科「情報B」の指導は,「コンピュータの仕組みと働き」について理解する上でとても効果があることが示された。
6.おわりに
 本実践は女子高等学校におけるものであり,ロボットを使用した授業というのはあまり受け入れられないと推測していた。ロボットを使用することや,ソフトウェアの使用方法の授業だと思っていた生徒には多少抵抗はあったようだが,最終的には「楽しかった」という反応であり,女子高でも実践が可能であるということが示された。
 また本授業では,教科書の単元を広く網羅することができた。なお,日本文教出版「情報B」(日文情報048)について,全項は網羅できていないが,全節を網羅することができている。
 なお,この授業案は未熟であり,改善の余地を多く持っていると考えている。多くの先生方にいろいろ御指導いただければ幸いである。
注1 高等学校学習指導要領解説情報編(2000), p.45
注2 佐伯胖「コンピュータと教育」(1986), p.7
注3 http://toro.inrof.org/
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