ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.29 > p18〜p21

総合実習実践事例
楽々「総合実習」のすすめ
−まねてみることやってみること−
長野県岡谷南高等学校 宮島正明
miyachi@po17.lcv.ne.jp
1.はじめに
 教科「情報」がスタートして3年が経ちました。本校では平成15年から1学年2単位で始め3年目になりました。授業形態は40人を1人で私を含め2名の教諭で授業を担当しています。なお,平成17年度より情報Aから情報Bに変更し,3年の選択として情報Cを開講しています。当初はAで始めたのですが,変更理由は内容が本校生にはやや易しすぎたためです(本質的にはあまり変わらないと思いますが)。
 さて,教科「情報」で総合実習は,その醍醐味が味わえる学習活動の1つだと思っています。今年で3年目の総合実習になりますが,普段私が授業で心がけていることや内容の紹介をさせていただきます。読者のみなさまに何かのきっかけになれば幸いです。
2.まねてみること やってみること
 まず,本校の授業形態は45分7時間二学期制で,学年は普通科5クラス英語科1クラスの編成になっています。1年の情報Bは2単位を同じ曜日に入るように時間割を組んでもらってあり,1日に集中して授業できます。
 私が日頃実践する際に心がけていることは,以下の通りです。

(1)授業の年間計画を立てる
 一般には教科書の目次を参考にして実施時間数を設定することが多いのですが,3年間実施してみて,教科「情報」では「教科書どおり」の順番ではうまくいかないことが多いように思えます。例えば,文化祭前には著作権の学習をしたり,総合実習で調べ学習をする前にはWeb検索の実習に取り組んだり,シミュレーション実習の前にExcelの実習に取り組んだりといった具合に,教える側が目次の配列を組み替えて計画を立てる必要があります。教科書を作成していただいた諸先生方には申し訳ないと思いますが,この方法が年間計画の立て方だと思っています。つまり,教える我々がタイムリーにやりたいことをやりたいときにという具合に指導内容を統合・再配列し,学校の実情を考慮し指導計画を作成することを心がけています。まるで我々教える側の「情報の処理能力」を試されているようにも思えてきます。しかし実際には,細部にわたって計画を立てると大変なので,年間のアウトラインのみを決めて後は授業時数を考慮し,授業をしながら修正・変更しています。教科書の内容を初めからすべて網羅することは,時間的にも無理です。大切なのは,各先生方が「何を生徒に教えたいのか」をはっきりさせておくことです。

(2)「まねてみること やってみること」
 「どんな実習をやろうか?」ゼロから作り出すのは大変です。そこで,私はさまざまな授業実践を調べ,それをどうすれば自分の授業で実践できるかを考えています。全国の先生方のさまざまな実践事例は,本誌を含めいろいろな書籍に掲載されており,Webページにも公開されています。それら貴重な実践例を「本校で取り組むならこうやって実践しよう」と考え「実際にやってみる」ようにしています。そのままできる事例もありますが自校のインフラ環境や生徒の実情,授業の進度状況に応じて適宜アレンジしています。実際に授業に使ってうまくいかないときは,生徒と一緒に考えて実習しています。「誰かのまねばかり」というご批判をいただくことは「想定内」です。他校の先生方の実践例は「アイデアの1つ」であって,そのまま使ったのではうまくいかないのは当然だと思っています。「実践例」という食材をいかに自分なりに調理し,おいしい「実習」にするかが情報の教員の教材研究の1つだと思います(ときには「レンジでチン」でもいいと思いますが)。
3.Producerを使った作品制作
 さて,総合実習は1年の情報Bと3年選択の情報Cでそれぞれ実施しています。ここでは,3年選択の情報Cで行った「自分史の作成」の紹介をします。この実習は,教科書に載っていた実習を指導書を参考に計画を立てました。なお,生徒は1年次に全員「情報A」を履修済みです。

(1)実習の準備とこの実習の目的
 情報Cの教科書では「ディジタルアーティストになろう。1分間アニメーション作成」となっていますが,動画編集ソフトは価格も高く,操作も一般に手間がかかり,授業で扱うにはやや難しさを感じていました。そこで,「PowerPoint 2003」のアドインソフトとしてマイクロソフト社から無償で提供されている「Microsoft Producer for Power-Point 2003」を使用することにしました(日本文教出版発行のIT-Literacyに使用方法の載った「Producer編」があります。)なお,Producerはマイクロソフト社のサイトからダウンロードできます。※注1私も初めて使ったのですが,ソフトのイメージは「e-learning」の教材のようなもので,すぐに慣れます。私が作った作品例を見せ,完成品のイメージを持たせてから実習のガイダンスに入りました。ProducerはPowerPointのスライドと動画や画像,音声を統合でき,最終的にWebページとして作品を仕上げることができます。動画編集ソフトの代わりとして,このソフトを生徒機すべてにインストールし,実習の準備は完了です。
 この実習の目的は,以下の3つです。
(ア)スライド・画像・音声・動画を統合し,自分が今まで生きてきた道のりを「自分史」としてまとめよう。
(イ)今日までの自分を振り返り,今の自分を表現しよう。そのためにも,自分が生まれた頃のことを「家族」に聞こう。
(ウ)その時何が流行っていたかを調べよう。
 「自分史」を考える際に,自分を知ることが大切になります。ただ時系列でスライドを作るのでは「自分」が表現できません。「今の自分」の根底には過去の体験の積み重ねがあり,どこかで「感銘を受けた思い出の出来事」があるはずです。過去の出来事を調べるのに,「家族」に自分のことを聞いてみることが大切な作業の1つになります。また,心理テストもいくつか実施し,「自分」をより意識してもらうことも大切な作業になります。これらの作業に多くの時間を費やし,「わたしはわたし」をキーワードに実習をスタートしました。
 ここまで説明をした後で,全員に出欠表を兼ねた「スケジュール管理シート」を配布しました。総合実習の全体像を全員で共有するため,総合実習の全時間の作業予定を全員で記入しました。このシートは,時間数と計画各時間の実績を書く簡単なもので,毎時間終了時に回収し,検印した後,次の時間の最初に配布します。このシートを使うことで,作業の進捗状況が把握できます。計画通りに作業が進んでいるかどうか生徒自身も意識でき,教員もそれに応じて助言しやすくなります。

(2)心理テスト(自分を見つめる)
 この実習では,いくつかの心理テストを行いました。先にも述べたとおり,「自分史」を作成するには「自分」をより知ることが大切になります。そこで,2つの心理テストを行いました。どんな心理テストでも良いと思いますが,私は教科書指導書にある心理テストを行いました。初めは生徒も半信半疑で行っていましたが,結果の分析を発表すると予想外にあたっている生徒が多かったようで,意外に盛り上がりました。心理テストで数値化できる項目については,Excelで集計してグラフを書かせました。心理テストを行ったことで,生徒が素直に自分を見つめるきっかけとなったようです。

(3)自分史とメディアとの関わり
 自分の生い立ちとその当時よく遊んだおもちゃやよく見たテレビ番組,流行っていたもの,思い出に残っているものなどを0才から現在まで用紙に記入させました。「自分史」とは自分の歴史で,その時々において少なからずメディアの影響も受けています。自分の歴史を振り返る際に,自分とメディアの関連を考えることは大変有意義な作業です。この実習は個人実習ですが,メディアとの関わりを考える際にはグループで自由に雑談させました。同じ年代の生徒達なので,共通の話題も多くにぎやかにやっていました。また,幼少の頃の出来事については家で家族に聞くように指示しました。家族と話をする良い機会にもなるのではないかという生活指導的な意味合いもありましたが,家族と会話したことで自分が家族の深い愛情のもとで生まれ育てられているのだということを聞かされ感動したという生徒もいて,自分自身を見つめる姿勢に変化が現れてきました。自分を飾らず,隠さず,素直に表現する生徒が多くなってきました。ここまでの作業はプリントに書き込む作業が中心で,ほとんどコンピュータを使っていません。

(4)自分史の中の「マイベスト」
 0才から現在までの自分史のメディアとの関わりの一覧表が出来上がったら,その中から今の自分を形成している一番の要因となっている事柄,つまり,一番影響を受けているもの(マイベスト)を選定しました。それを中心に,PowerPointのスライドを作成させました。

(5)ストーリーボードの作成
 PowerPointに入力しても良かったのですが,そうするとその操作に気を取られてしまうので,あえて「紙」にデッサンさせました。あわせてナレーションを入れるようにしました。録音原稿はスライドのデッサンにメモ書きしておくように指示し,使いたい写真もメモ書きさせました。これらの内容を記載した「紙」を「ストーリーボート」と呼んで,A4で1枚作成させました。

(6)アイデアの発表・共有「中間発表」
 書き上がった「ストーリーボード」に記載した内容には,生徒個人のアイデアが詰まっています。全員の前で発表することで生徒は自分の作品をより明確に意識し,他人の発表を聞いてそのアイデアを自分の作品に取り込みます。これが「中間発表」の目的です。実際には生徒のストーリーボードをスキャナーで読み込み,それを生徒全員のパソコン画面に表示し,生徒には「30秒」で概要を発表させました。40人で1時間近くかかりました。プロジェクターで投影しても良いが,OHPなどの投影器具が手軽でいいと思います。

(7)スライドの作成
 スライドは写真や音声で補足説明できるため,シンプルに作成するように指示しました。3〜4時間程度で終わらせるように指示しました。なお,Producerで取り込むと後で修正は難しいので,終わらない生徒には放課後を使って作成させました。

(8)ナレーションの録音 画像の取り込み
 ナレーションの録音にはサウンドレコーダーを使用しました。1フレーズごと録音し保存する作業を繰り返しました。恥ずかしがる生徒も多くいましたが,隣の生徒と一緒に録音すると恥ずかしがらずに録音ができたようです。放課後に録音する生徒もいました。なお,ビデオ撮影する生徒はいませんでした。生徒に聞くと,録画するのが恥ずかしいとのことで,今後は録画するための別室を用意するなど工夫をしたいと思います。
 写真は,スキャナーで読み込みました。

(9)Producerの作業
 操作方法は10分程度,一斉に講習しました。生徒たちは使いながらすぐに操作方法を覚えてしまいました。スライドと音声写真の切り替えるタイミング(タイムライン)の同期に手間がかかりますが,2時間ほどで作業が終了し,最後に「発行」しWebページにして完成しました。作品は予め作成しておいた共有フォルダに保存させました。
4.発表と評価
 発表は完成した作品を全員で閲覧する方法で行いました。Webの形なのでページにリンクさせて1時間閲覧させました。発表方法はほかにグループで1作品選ばせて,班ごとに全体発表する方法も考えましたが,時間の都合でできませんでした。次回は班ごとに発表する方法を試したいです。
 評価は紙の評価シートに「自己評価」を記入させ,その後日文の「RubricChart」を使用して入力させました。生徒の総合実習の評価は,すべての活動を総合的に判断して行いました。なお,この実習に使った時間は以下の通りです。
5.最後に総合実習について考えること
 ○計画表作成(1時間)○心理テスト(2時間)○心理テストの分析・まとめ(1〜2時間)○自分史とメディアの関わり(2〜3時間)○マイ ベスト選定(2時間)○ストーリーボード作成(2時間)○中間発表(1時間)○スライド作成・音声録音(3〜4時間)○Producerによる統合(2時間)○発表・評価(1時間) 計17〜20時間

 総合実習は,教科「情報」の特色を最も良く表している教材です。本校では1年生で「国内旅行企画」の総合実習も行っていますが,総合実習のテーマは「総合的な学習の時間」と連動させたりすることで更なる可能性・発展性があります。難しい内容に取り組む必要はありません。生徒が問題意識をもって取り組める内容をこちらで考えてあげればよいと思います。例えば「文化祭での学校案内用のスライド作成」「学校生活を有意義にするために…学校改造計画」など,取り組みたい内容はいっぱいあります。「まとまった時間が取れない」「生徒の能力的な問題でなかなかできない」などで総合実習をやっていない学校もあるようですが,我々教員が「楽しく総合実習する」という意識さえ持てば,短時間の細切れでもできます。内容によっては「実習の前半」「実習の後半」のように分けて行い,間に関連する講義や実習を挟むこともできます。創意と工夫,先生方の意欲で,どんな実習も「総合実習」になります。どうか先生方も一人で悩まず,全国の同士と連絡を取り合い,悩み事を共有し,お互いにがんばって生徒と一緒に「総合実習」を楽しみましょう。
 なお,実習でつかった各種シートをご希望の方は,メールにてご連絡ください。
注1 http://www.microsoft.com/japan/office/powerpoint/producer/ prodinfo/obtain.mspx
[参考文献]○情報 教授資料【総合実習編】○教科「情報」実習へのフライト(ともに日本文教出版)
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る