ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.29 > p22〜p25

中学校の情報教育実践例
必要な情報を言葉で伝え合うゲーム
−ピクチャーゲームで養うコミュニケーション能力−
東京都大田区立蒲田中学校 平川恒美
1.中学校国語科での「話すこと・ 聞くこと」と情報教育との接点
 現行の中学校学習指導要領での中学校国語科の目標は,次の通りである。

 国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力や想像力を養い言語感覚を豊かにし,国語に対する認識を深め国語を尊重する態度を育てる。

 目標は前段と後段の二つに大きく分けられるが,特に前段の記述が「情報の伝達」という点で,情報科との関連が認められる。「学習指導要領(平成10年12月)解説−国語編−」(平成11年9月 文部省)では,目標の前段を次の通り解説している。「言語の教育としての立場を重視して,国語による表現力と理解力の育成,伝え合う力の向上を図ることが中学校国語科の最も基本的なねらいであることを明確にしている。」また,今回の改訂で新たに加えられた「伝え合う力」を次のように定義している。「適切に表現する能力と正確に理解する能力とを基盤に,人と人との関係の中で,互いの立場や考え方を尊重しながら言葉によって伝え合う力のことである。」

 国語科では自分の考えを相手に伝え,理解・判断などを促すコミュニケーションを,主に言葉という記号を用いて行う。送り手が記号化した情報を,受け手が自分のできる情報に復号する過程に,学習活動が計画できる。ここでは国語科の「話す習活動が計画できる。ここでは国語科の「話すこと・聞くこと」の領域で,言葉を相互交流する中に絵や記号を介在させた実践を報告するものとする。
2.「話すこと・聞くこと」で付けたい力
 言葉で考えや気持ちを伝える力が落ちてきている現状は,加速的な感がある。中学校の日常の現場において,このことは年を追うごとに実感させられることである。国語科の授業で基本を取り立てて言葉の力を付けていく必要があるのは教科の責任であり,急務である。日々の生活の中で「話すこと聞くこと」の能力が高まっていくのではないかという意見に対して出された回答が,学習指導要領での領域としての「話すこと・聞くこと」の設置である。国語科の授業の中で,取り立てて指導する必要性があることが示されている。「話すこと・聞くこと」の能力は,原稿を読み上げるといった文字言語の音声化ではなく,音声言語の学習を計画して育成する必要がある。音声としての言葉で伝えることとそれを受け止めることが相互に交流することで能力が高まっていくのである。
 ここでは,情報を図形に求め,不十分な部分を交流しながら確認していく力を高める授業として計画した。形式はいわゆる「同じ絵探し」と「図形伝達」を活用した。これらには先行実践として,多くの事例がある。村松賢一氏は「小中学生の対話能力の実態調査とその考察」(「相互交流能力を育てる『説明・発表』学習への挑戦』2004 9明治図書 村松賢一・花田修一・若林富雄編著)の中で,二匹のペンギンの絵で「同じ絵探し」と,円形・三角形からなる図形で「図形伝達」を一対一の対話形式で行う調査を実施している。また,筆者自身も「正確な『説明』と正確さを求める『質問』」(「音声コミュニケーションの教材開発・授業開発」第4巻中学校編 20008 明治図書 高橋俊三編著)の中でピクチャーゲームを活用したコミュニケーションを実践している。どちらも不十分な情報を,話し手と聞き手が補い合い,伝え合う中で整理して共有していく形式である。情報の伝達は,言葉を介在するうちに,変質して伝わりがちであり,全てを伝えることは不可能である。しかし,一方的に話すだけでなく,双方向的に話し合うことで実像に近いものをを確かめ合うことができるのではないか。これをもとに,指導事項を一つにして授業を展開した。
3.指導目標の焦点化
 相手の話を吟味して聞き,不足している部分を確認し合う。
 指導時間は1時間である。「話すこと・聞くこと」の中でつけたい力を上記のものとして限定した。抽象的な内容でなく,情報を図形に求め,学習の目標の獲得・達成がはっきり自覚できるものである。
4. 授業の実際
(1)本時の目標・学習内容を確認する。
 「今日の目標は〜です。言葉だけで絵・図形の内容を説明する二つのゲームをします。プリントで説明します(配布)。どちらも決められたルールを必ず守ること。ルールは3つあります(下を説明)。」
(2)第一のゲームの内容を説明する。
 「一つ目のゲームです。言葉で説明するのと同じ絵をワークシートから選びなさい。説明は二回行います。一回目の説明では,聞き手は話し手に質問はできません。反応してもいけません。三十秒はできません。反応してもいけません。三十秒で説明します。二回目の説明では聞き手はどんどん質問して話し手に説明してもらいましょう。二分間で行います。」
(3)全体へ「同じ絵」の説明をする。
 「一回目です。まずクレヨンが3本あります。そのうちの曲線が引かれて一本につながっています(以下略)。」
 話し手「二回目です。まずクレヨンが3本あります。いいですか。」聞き手「3本のうち曲線がつながっているのはどれですか。」話し手「一番左です。」(展開例 以下略)話し手「正解は○番です。質問ができるとわかりやすいですね。」
(4)一対一の「同じ絵探し」を指示する。
 「二人組で『同じ絵探し』をします。話し手と聞き手の役割を決めなさい。話し手は後の席から背中に向けて話しなさい。初めから聞き手が質問をしてかまいません。時間は一分間です。」(終了後)「話し手は正解を発表しなさい。情報を確認し合えましたか。」
(5)第二のゲーム(ピクチャーゲーム)の説明をする。
 「二つ目のゲームは『ピクチャーゲーム』です。話し手は言葉だけで絵を説明します。聞き手は絵を再現してください。一回目は質問なしで上段に描きます。二回目は質問に答えて交流して描きます。」
(6)一対一の「ピクチャーゲーム」を指示する。
 「話し手と聞き手の役割を決めなさい。話し手は絵が描いてあるシートを取りに来なさい。話し手は後の席から背中に向けて話しなさい。一回目での聞き手は反応も質問もしてはいけません。聞き取った絵は下の段の枠に描きます。時間は一分間です。」
 「二回目の聞き手は質問して答えながら進めます。時間は三分間です。」
 「二回目が終わったら配布した絵を見せて二人で確認しなさい。一回目の絵とと比較すること」
(7)話し手と聞き手の役を入れ替え,別の絵でピクチャーゲームを行う。
 「役を交替しなさい。話し手の人は絵を取りに来なさい。では一回目を始めなさい。」(以下略)
(8)自己評価表で学習を確認する。
「自己評価表を見て,学習を振り返りましょう。
5.指導上の注意・指導者の留意点(それぞれ授業の実際での対応)
(1)本時の目標・学習内容を確認する。
 目標を板書して音読させる。学習内容を説明する。
1.言葉だけで説明する。
2.ジェスチャー(身振り・手振り)などは厳禁とする。
3.課題となった図形や友達の図形をのぞかない。
(2)第一のゲームの内容を説明する。
・内容の説明では質問を受け付ける。
・ワークシートで説明。
・少しずつ違う絵が十六種類並ぶ一覧を示す。
・声を上げたり反応したりしてはいけないことを強調する。
(3)全体へ「同じ絵」の説明をする。
・授業者が「同じ絵探し」の一回目説明を全体に向けて三十秒で行う。
・聞き手は聞くだけ。質問は禁止。
・授業者が「同じ絵探し」の二回目説明・質疑応答を全体に向け二分以内で行う。
・時間を限定する。
・情報交流のメリットを確認する。
(4)一対一の「同じ絵探し」を指示する。
・別の同じ絵探しのワークシートを配布する。
・話し手には正解となる絵を配布。のぞかせないことを確認する。
・向き合わずに背中に向けて話させる。
・正解できたかが評価のポイントとなる。
・余裕があるときは話し手と聞き手を交替して再度行う。
(5)第二のゲーム(ピクチャーゲーム)の説明をする。
・ピクチャーゲームのワークシートを配布する。
・ワークシートは上下二段に図を描く枠を設定。質問なしでの一回目は上段に描く。

▲図の例

(6)一対一の「ピクチャーゲーム」を指示する。
・一方的な説明による聞き取りゲームとなる。
・無反応の話しにくさ,一方的な話の聞き取りにくさを感じさせる。
・話し手だけが分かるように隠させたり,絵が透けないように厚紙に貼るなど配慮する。ルールを改めて確認するとよい。
・衝立があれば利用するとよい。
・一対一の対話による情報の確かめ合いを行う。
・元の絵と比較して二枚の絵を確認する。

▲図の例

(7)話し手と聞き手の役を入れ替え,別の絵でピクチャーゲームを行う。
・互いの役割を交替して体験することで,学習内容がさらに深まる。
(8)自己評価表で学習を確認する。
・学習内容をまとめることで思考を整理する。ワークシートに記入する。
6 .授業の評価・考察
 同じ絵を探せたか,また,課題である図を描くことができたかで評価できよう。
 説明や聞き方が不十分な部分は,完成した絵に反映する。ある程度絵画的な素養が関係するが,ワークシートの振り返りの内容でも判断したい。
●実際に使用したワークシート例●

▲同じ絵探し ワークシート


▲生徒が絵の番号を選択した後,配布した正解図


▲ピクチャーゲーム ワークシート(1)


▲ピクチャーゲーム ワークシート(2)


▲ピクチャーゲーム ワークシート(3)


▲ピクチャーゲーム ワークシート(4)
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