ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.29 > p26〜p29

海外の情報教育の現場から
フランスの高校とのテレビ会議
−語学教育と国際交流−
カリタス女子中学高等学校 山崎吉朗
yoshiro.yamazaki@nifty.com
 2005年よりフランスの高校とテレビ会議を行っている。その経緯や成果について報告する。
1.実施に至るまで
(1)テレビ会議以前
 本校の場合,まだインタ—ネットが普及する以前からコンピュータを利用した国際交流を行ってきた。一番最初は1992年で,フランスのビデオテックス(日本で普及しなかったNTTキャプテンシステムと同等)の「ミニテル」を利用し,イタリア,フランスの高校,日本の大学と「ミニテル」上で架空の物語を制作する試みを行ったのである(「ミニテルによる国際交流授業」1993,フランス語教育21号)。1992年での実験なので,もちろんテレビ会議ではなく,文字だけのやり取りであるが,その時点で運営に関して得た知見は,今でも生きている。次の4点である。
1.会議には進行役が必須
2.互いの学校を紹介する事前準備が必須
3.会議での発言内容の準備
4.教員レベルでの事前交流の必要性
 海外との接続は,接続するまでがたいへんなので,接続した感動で話題が展開するだろうと教員の方は思いがちだが,新規性というのはすぐに薄れてしまい,中身が伴わないと何も進行しないということを1992年の時点でよく理解できた。
 その後,今回の電子会議に至るまで,パソコン通信を使ったNHKの番組「ティーンズネットワーク」への参加(1994,1995年)の他,フランス,マルチニック,ニューカレドニアの学校とのビデオの交換,特産物の交換,生徒個人でのメールのやり取りを行い,デジタルでの交流,国際交流の経験は積み重ねてきた。

(2)テレビ会議の相手校
 今回報告するテレビ会議の相手校は,パリのラ・フォンテーヌ高校である。フランスでは珍しい中高一貫校で,日本語が中1からの選択科目に入っている。この高校との交流が始まったのは,「日仏高校交流ネットワーク“Colibri”(以下“Colibri”と記す)」のおかげである。“Colibri”は,2年前からフランス大使館と構築を進めている日仏の高校生の交換留学を促進する組織で,日本語を学習しているフランスの高校生,フランス語を学習している日本の高校生間の交流や留学を促進することを目的としている。この“Colibri”の組織のフランス側の責任者が,ラ・フォンテーヌ高校副校長ブイヨー氏で,2004年の9月に著者が訪問した際に,テレビ会議の提案をした。すると,同校にはちょうど2005年1月にはインターネット回線が引かれるので,そこで実施しようということになり,実現に至ったのである。

(3)使用システム
 Nice to meet youというソフトを使っている。運用に当たり,慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの協力を得て,同大学のサーバーを利用している。個人のやり取りではよく利用されているMessengerやNet Meetingよりも画像,音声等のレベルが高く,本校のFireWallもクリアーした。また,相手校も同大学のホームページからダウンロードした同じソフトを使うので,versionや,国による仕様の違いがなく,設定もサーバーのIPを指定するだけの簡単なものなので,メールのやり取りだけでフランス側での準備も問題なく進んだ。後述するように原因が解明されない「音声の遅延」の問題はあるが,導入としては便利なソフトであった。

(4)準備の会議(国内)
 フランスといきなりテレビ会議を行う前に,日本国内でのテレビ会議を行い,実施に際しての問題点を探った。テレビのフランス語講座の講師も務める慶應義塾大学の先生とテレビ会議を行ったのである。技術的には問題なく,映像,音声共に実用レベルのものであることが確認できたのだが,6クラスで行ったそれぞれ10分程度のテレビ会議で,次のようなことがわかった。
1.事前の準備をしていないと,生徒はほとんど話さない。
2.マイクの前以外では話すのだが,それが雑音となり,さらに会議を阻害する。
3.逆に,事前に準備させたクラスでは順調に進み,生徒の満足度も高い。
 生徒達自身が強く希望して実現したテレビ会議だったので,何も話さないというのは全く予想外であった。教員であれば雑談程度の,僅か10分程度のテレビ会議でも,あらかじめ準備をしておかないと何も発言がないということがわかった。個人で発言しなければいけないテレビ会議を進めるには,必ず事前の準備が必要なのである。

(5)準備の会議(フランスと)
 上記の経験をもとにフランスの高校と準備を進めた。まず,最初は,教員のみでNice to meet youが稼働するかどうか,問題点はないかどうかのチェックを行った。そこで,画像,音声共にクリアーなのだが,音声の遅延が国内で行っているよりなのだが,音声の遅延が国内で行っているより大きいということがはじめてわかり,相手の声が届かなくても発言は続けるなどの工夫をすることにした。また,この事前準備で,教員同士がテレビ会議場で対面したというのも意義があった。
2.テレビ会議報告
 4回実施した。毎回,日本側は10名,フランス側は20名以上の参加である。人数の違いは,フランス側は授業中なのだが,日本側は放課後になり,希望者の参加になるからである。8時間の時差があるので,日本時間の午後4時,フランス時間の朝8時に開始となる。第3回目の時だけが夏時間で時差が7時間で3時過ぎに始められたが,それでも放課後になってしまう。海外と行う場合の時差の問題の解決は難しい。

(1)第一回目
 2月14日に実施した。高校3年生同士である。
 国内での会議の反省を活かし,事前準備を入念に行った。技術面では,カメラテスト,マイクテストを一人一人で行った。パソコンの前に来て話すだけのように思えるのだが,実際にリハーサルをしてみると,生徒の順番とか,どのように座るとか,交代するときの人の動きとか,マイクとの距離とか,いきなりでは戸惑い,時間がかかるところがたくさんある。事前にできることはすべて行い,会議に臨んだ。
 内容については,テーマも決め,フランス側にも提案した。ちょうど2月14日だったので,バレンタイデーをテーマにした。グループで担当を決めて,レポートを事前に作成し,日本のバレンタインデーについて発表した。高校3年生らしく,実によくバレンタインデーの歴史を調べていたので,フランス側で見学していたフランスの文科省の方から,高く評価するメールを頂戴した。
 フランス側は事前の準備不足で本校のようにいかなかったが,ルールとして,日本側は,同じ内容をまず日本語で,次にフランス語で話し,フランス側はその逆ということに決めた。お互いがまず相手の言語で理解するようにし,その後,自分の言語で確認するというようにしたのである。
 技術的な問題としては,画像は写真1のように,十分見ることができ,向こうの音声は普通の会話ができるように届くのだが,こちらの音声が向こうにうまく届かず,対話は難しかった。結果的に,一方的に発言するのを聞くという場面が多かったが,やり取りがうまくいく時もあり,生徒の満足度は高かった。この遅延はフランス側の回線の問題だと思われるが今に至るまで改善されていない。

▲写真1(左がフランス,右が日本)

(2)第2回目
 実施から数日後に次の会議の依頼がきた。第一回目の会議を見学した先生から,中学3年生で実施したいという要望が来たのである。この回は急に決まったのと,実施したのが3月14日という本校の高校卒業式前日だったこともあり,あまり準備はできず,自己紹介中心になった。相変わらず,音声の遅延は改善されなかったが,はじめて同世代のフランス人と話した生徒が大半で,参加した生徒の満足度は高かった。

(3)第3回目
 6月14日に行った。第2回目と同じ生徒達で実施した。フランスと日本の「夏休み」は大きく違うだろうということで,話題は「夏休み」とした。日本に来たという生徒や,本校の夏の海外研修訪問地カナダに行ったことがあるという生徒もいて,テレビ会議としてはとても盛り上がった。ただ,やはり「遅延」の解消はなく,2度目の参加者となると,海外とのテレビ会議の新鮮味が薄れ,質の高いシステムでないと継続は難しいと感じられた。
3.新たな展開
 3回のテレビ会議で何れも遅延の解消が見られず,フランス側の回線状況を確認してもメールのやり取りでは限界があり,技術面では振り出しに戻り,新しいシステムの模索も視野に入れた。そこに新たな展開があった。昨年の10月末から3週間,フランス政府が日本の高校生8名をホームステイに招待し,本校生も1名選出され,さらに,引率教員として本校の教員に依頼があった。いつもかゆいところに手が届かないような状態で会議を行っていて,現地に本校教員が行ってこちらとやり取りするなど,まさに千載一遇のチャンスなので,出来る限りの実験を行った。後述するが,慶應義塾大学から300万以上もするPolycomというテレビ会議システムも借り,いろいろな実験を行った。実験の結果は悪いものも多かったのだが,今後の材料として貴重な資料となった。

(1)第4回目
 本校生が派遣されたのが,ちょうどテレビ会議の交流を続けているラ・フォンテーヌ高校だったので,本校生も助手となり,11月14日にテレビ会議を行った。本校は,派遣されている生徒と同じ高校2年生,向こうは授業の都合で中学3年生と1年生だった。相変わらず,音声の遅延は改善されなかったので,対話ではなく,こちらが事前に送っていた質問の答えを聞くという形に切り替えた。テレビ会議の場合,その場の状況に合わせて予定を変更して臨機応変に進めていくというやり方でないとうまくいかない。本校の引率教員が機転を利かせてやり方を変えたので,予定していた時間を有効に活用して会議を行うことができた。
 ところで,3週間とは言え,派遣している保護者の心配は大きい。折からパリで暴動があった時期なので,心配も大きかったと思われる。その点を本校の校長が考え,派遣された生徒のお母様をお呼びし,テレビ会議を行って頂いた。思わぬ所で我が子が無事に元気にいることが確認でき,また,たまたまその時は音声の遅延もなく,充分会話となり,感激して涙するという場面もあった。

(2)複数の学校での実験
 8名はそれぞれ,パリ,リヨン,ボルドー,バレンシエンヌの高校に1名ずつ派遣されており,滞在期間中に本校の引率教員が各校をまわった。その際,可能な限り,教員同士でのテレビ会議を行った。8時間の時差があるので,こちらは10時過ぎまで待機することもあったのだが,有意義な実験となった。Nice to meet youはラ・フォンテーヌ校以外でも同じ現象で,こちらの音声だけが大きく遅延した。また,そもそもFireWallを超えず,接続そのものができないところもあった。否定的ではあったが,一挙に複数の学校とのやり取りを重ねることができたのはたいへん価値があった。

(3)Polycomの利用実験
 もう一つの大きな実験は,Polycom(Polycom社)が使えるかどうかであった。大学レベルでは,音声,画質共に,パソコンでのテレビ会議とは全くレベルの違うPolycomが利用されている。慶應義塾大学,上智大学,早稲田大学などのテレビ会議の報告はいずれもこのPolycomによるものである。質の高いのは分かっていても,最低でも100万以上するPolycomは,高校では使えないと思っていた。しかし,最近になって,パソコンのwebカメラの形で利用できる6万円程度のViaVideo(Polycom社)の存在を知り,学校で購入して,Polycomとの接続実験に成功したところだった。そこで,引率教員にViaVideoを持たせ,本校の方は,慶應義塾大学から360万もするPolycomを借りて実験に臨んだ。問題はFireWallを超えるかどうだった。残念ながら,結果的には何れも成功しなかったが,否定的な実験結果にも関わらず,レベルの高いテレビ会議システムに対する各校の関心は高く,何れの学校も6万程度の価格で,高画質,高音質のテレビ会議が可能なのであれば学校の方で購入する方向で,技術的な解決を検討するということになった。その意味では実験は有効だったと言える。将来的には,Polycomを使った高品質のテレビ会議のやり取りができる可能性もありそうである。
4.あとがきにかえて
 ちょうどこの原稿を執筆している時期に,フランスから嬉しい贈り物が届いた。「フランスー日本,パートナーシップ精神France-Japon,l’espritpartenaire」という大使館や商工会議所が共同で発行しているオフィシャルマガジンにテレビ会議のことが写真入りで掲載された。翻訳しておく。
 「すでに,テレビ会議での交流がラ・フォンテーヌ高校とカリタス高校との間で実施された。この交流は大きな成功を収めたので,近いうちに別の学校がこのモデルに追随することは確実だ」
 また,3月には著者が松下教育研究財団の研究で渡仏するので,その際,少なくともラ・フォンテーヌ高校では,技術的な確認をしたいと考えている。また,ボルドーの高校では,別のMarratechというシステムを利用し,今度は著者がフランスにいて,本校とテレビ会議を行う予定である。また,何かの機会に報告できれば幸いである。
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