ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.34 > p10〜p13

教育実践例
外部への影響を気にせず生徒が思う存分情報発信のトレーニングができる環境のイントラでの構築
京都女子高等学校 成瀬 浩健
naruse@h.kyojo-j-h.ed.jp
1.はじめに
 教科「情報」がスタートして5年目になりました。しかし,どの学校も「情報」科を担当する先生は少人数で,学校内に教科のことを相談できる人はほとんどいないのではないでしょうか。僕も同じで,4年前は何をどう教えていいのか確信が持てず,いろいろな研修会やシンポジウムに参加しました。そこでは講師の先生から学ぶだけでなく,その場で出会った先生方からもいろいろなネタを頂くことができました。その頂いたネタを自分の学校でより効果的になるようアレンジして,何とか今までやってくることができました。
 良いものは,共有し合うことでより良いものに発展します。僕のちっぽけな実践も,皆さんのお役に立つかもしれないと思い,教材ネタを紹介してくださった先生方に感謝し,頂いたアイデアなどを自分なりに再構成したものを紹介したいと思います。
2.以前からやりたかったこと
(1)WBT(E-learning)
 先生が教えたことを生徒が覚えるといったスタイルの学びでなく,生徒が自ら求めて知識を得ていくスタイルをつくりたい。そのための,Webブラウザを使ったインタラクティブな学習環境の構築。しかし,これは僕には技術・知識でハードルが高いようです。
 以前,大阪の仲間の先生達と工夫し合って,エクセルの参照を使って生徒の活動履歴などを集約する方法を考えました。詳しくは,Nichibun.netの教科「情報」メールのバックナンバー ※注1を参照してください。この方法では生徒がエクセルのデータを上書き保存しないと集計結果を回収できないので,生徒の活動がリアルタイムで反映されるわけではありません。

(2)チャット
 大阪の府立高校の先生に紹介して頂いて,生徒に好評だった「なりきりチャット」。あらかじめこちらから生徒一人一人にチャットルームでの名前とその人の人柄,チャットルームのアドレスをメール(フリーソフトのMatoMailerを使うと便利)などで伝えておきます。
 この実習をするために個人的に複数のプロバイダのサイトに可能な数だけ設置していましたが,これだと外部からたまたま見つけて人が紛れ込んでくる可能性があります。
 完全に外部と遮断し,自分のクラスメイトしか参加していない状態なのに,教師の設定した架空の人物が本当に参加しているような気分になってくる,という環境を構築したいと考えました。
3.新たにやりたくなったこと
(1)ブログ
 Webページ作成の授業は,4年前から実施していました。Webページ作成ソフトを購入していないので,初年度はワードを使って,翌年からメモ帳でタグを打って作成させました。しかし,スクリプトやスタイルシート等,どんどん複雑化する技術に限られた授業時間内では対応しきれません。そんなときある先生から,HTMLタグを教えるのでなくWebページでどんな情報をどんな形で発信するのかを教えるのがこの教科の内容であり,そのためにはWeb作成よりブログの方が適している,との提案に共感し早速実行してみました。

(2)別の学校との合同メーリングリスト実習
 インターネットの魅力のひとつに,離れたところを結びつけることがあると思います。このことを実感してもらいたくて,仕組んだ実習です。学校にいながら他校生徒と合同の実習をすることで,インターネットという世界の広がりを感じてもらいます。
4.牛丼買ってみませんか
 牛丼,といっても食べるワケではありません。有名なパソコンショップさんで売られているOSの入っていないパソコンのことです。
 パソコン本体が6万円程,モニタやキーボードなどは設置場所の問題もあるのでCPU切替機(1万円未満で買えます)を準備すれば,あとはすべて無料,オープンソースの活用で揃ってしまいます。
 僕の場合は,PCの自作体験を兼ねて,パーツを買って組み立ててみました。

(1)自作PCの購入・組み立て
 パーツは大阪の日本橋で購入しました。ショップを数軒見て回りましたが初心者には何をどう組み合わせて買うのがいいのかわかりにくかったです。最後に入った店では,PCの用途に応じて基本的な組み合わせ例が表示されていたので,自作PC初心者でも安心して購入できました。生徒がアップしてくるデータサイズが大きくても大丈夫なように,そのセットを基本にして,ハードディスクの容量を増やした組み合わせにしました。
 教育実習期間中だったので,実習生にPCの組み立てを体験させておきたくて手伝ってもらいました。自作PCの雑誌を見ながらやれば,意外と簡単です。

組み立て
▲組み立て

(2)OSインストール
 OSはLinuxを選びました。Linuxには多くのディストリビューションが存在しますが,僕の場合,日本語環境を意識して作られているVine Linuxにしました。
 Linuxの雑誌についている付録のCDを使ってインストールするのが簡単です。しかし,希望するディストリビューションのCDを含む雑誌がタイミングよく売られているとは限りません。一般的な方法は,Linuxのそれぞれのディストリビューションのサイト※注2からイメージファイルをダウンロードし,インストールCDを作ります。ダウンロードするファイルは「Vine41-i386.iso」なんて名前のファイルです。
 ダウンロードしたファイルをCD-Rに焼くのですが,そのままCD-Rにコピーしたのではインストールできません。B'sRecorderなどのライティングソフトを使ってダウンロードしたイメージファイルをインストールCDに変換してください。

(3)Webサーバ構築
 Vine Linuxの場合だと,最初からApacheが組み込まれているため,難しい設定はありません。WebminというGUIでグラフィカルに作業できます。
 OSのインストールが済めば,インタラクティブなページ作りが可能になるようPHP※注3やPerl※注4のインストールも行っておきましょう。
 さらに,今後は必須となるデータベースもインストールしましょう。MySQL※注5がオープンソースで定評なようです。

(4)サーバをDNSへ登録
 ネットワーク内で活用するためには,そのネットワーク内のDNSにこのサーバを登録しておかねばなりません。
 また,イントラでのみ利用できる設定ですから,Webサーバなどは外部から接続できない設定にすることを忘れないで下さい。
5.イントラでの「情報道場」!
 構築したいサービスをオープンソースで探してサーバにインストールしていきます。
 今回のサーバ構築の第1の目的はブログ初心者が何を書き込んでしまっても社会に迷惑を掛けない,学校内でしか閲覧できないブログサイトの構築です。
 2つ目の目的が,長年考えていた生徒の活動履歴がすぐに反映されるE-learningの構築です。これは,moodleの導入で簡単に実現に近づきました。今後,Flashなどの動画コンテンツとリンクしたインタラクティブなものに発展させようと企てています。
 今まで,E-learningのサイトを作ろうとしても,Accessなどのデータベースの理解が十分でなく二の足を踏んでいましたが,moodleではシステム構築にデータベースの詳細な理解を必要としません。

(1)moodleで著作権クイズ
 授業の進度の関係で,まずmoodleのインストールに挑戦しました。9月から来る5人の教育実習生にも夏休みの最後に学校に来てもらい,教材準備としてmoodleで「オンライン著作権クイズ」を作ってもらいました。
 出題の順番をランダムにすることもできるので,生徒たちは一人一人違った問題が用意されているように感じたようで好評でした。
 定期考査の前には,テストに向けた模擬問題も実施することができます。
 moodleで何ができるかを知るにはこちら※注6,moodleをダウンロードするにはこちら※注7,をご覧下さい。

moodleの小テストの画面
▲moodleの小テストの画面

(2)nucleusでブログサイト
 実は,上記moodleにはバージョン1.6からブログ作成ツールがあるようなのですが,選択したOS VineLinux3.2が,データベースMySQLの4.1に未対応のためmoodle1.6はインストールできませんでした。
 別途,オープンソースのブログとして日本語でのインターフェイスの整っているものを探してnucleus※注8を選びました。
 nucleusそのものは日本語ではないのですが,オープンソースの魅力で,協力者が日本語のインターフェイスなどのプラグインを作成し公開してくれているので,それを使います。

nucleusで作ったブログの画面
▲nucleusで作ったブログの画面

(3)チャットルーム
 Webサーバを設置することで,ネットワーク内でしかアクセスすることのできないチャットルームを作ることができました。このチャットルームで,インターネットの影の部分の学習として「なりきりチャット」を実施しました。インターネットの匿名性を自ら体験することで学んでもらいます。
 この実施に関しては,ファイルのインストール方法などを記録した「実行セット」を作りました。ご連絡いただければデータをお送りします。

(4)fmlでメーリングリスト
 高校3年生の選択授業で「アジアの不思議ローカル版」※注9に取り組んでいます。このプロジェクトをML版にして大人数での実施を試行してみました。
 東京の明星高校と2校165人の生徒をミックスしたグループを25個作り,メディアによって伝えられたステレオタイプな地域の紹介でなく,お互いの地域の本当の姿をメーリングリストを用いて相互に伝え合います。この教材で,メーリングリストのしくみを体験して理解してもらいました。また,知らない相手に自分達の地域のことなどを伝える,というコミュニケーション方法を考える機会にもしました。
 今年度は,宮城,東京,京都,沖縄の4校合同でこのメーリングリスト実習をやってみようと企んでいます。サーバが持ちこたえるか不安もありますが,インターネットの活用で生徒に夢を与える授業になればと願っています。
6.さいごに
 みなさんから紹介して頂いたアイデアばかりで授業をしていますが,僕の授業の中で唯一の自分で思いついたネタ「10本似顔絵」を紹介します。
 1年間の最初の授業で,「情報」科は「パソコン」の授業でないことを印象づけるために行っています。
 作業は簡単,隣の席の人と向かい合って似顔絵を書く,ただし条件は10本以内の直線のみで描くこと。こんな無謀な条件がつくと,絵が得意かどうかは関係なくなるようで,絵に自信のない生徒も嫌がりません。
 生徒達の作業が1段落ついたときに「隣の人の豊かな表情の中から,10本の直線だけを選びだして表すのは難しいよね。情報を人に伝える(通信する)ときは,何らかの制限が加えられます。その制限の中で,少しでも正確に相手に情報を伝えるためには工夫が必要になるよね。この教科ではそのようなことを学んでいくのです。」と実習の意図を解説します。
 深く興味を示す生徒がいた場合には,情報のデジタル化の話にまで発展できます。

生徒の作品例
▲生徒の作品例

 来年の春,是非お試しください。
 今年度は,この実習と「カンブリアンゲーム」を最初の授業で実施しました。生徒の感想を読んでみると,「カンブリア紀の生物の進化のように「絵」の情報が爆発的に発展し広がっていく様子をうわさ話が広がっていく様と重ね合わせてイメージすることができた。」など,ゲームを通して「これから情報を伝達することを学んでいくんだ」ということを感じてもらえたようです。
7.おまけ
 なりきりチャットを教えて頂いた先生から便利グッズとして「空中マウス」を紹介して頂いたのですが,現在は製造中止で,BUFFALOから「空間マウス」※注10が発売されています。
 でも,これはちょっと高価です。そこで,安くても似た効果が期待できそうなものを見つけたので買ってみました。「ごろ寝リターンズ」※注11という製品で,USBの延長ケーブルをつなぐことによって,生徒の間近で説明しながらマウス操作ができます。値段がお手軽なのがうれしいです。
注1 http://www.nichibun.net/backnumber/series/jyouhou3/index.php
注2 Vineの場合はhttp://www.vinelinux.org/
注3 http://www.php.gr.jp/
注4 Vineの場合組み込まれています。
注5 http://www.mysql.gr.jp/
注6 http://docs.moodle.org/ja/
注7 http://moodle.org/
注8 http://japan.nucleuscms.org/
注9 http://www.mell.jp/C2-ain.html
注10 http://buffalo.jp/products/catalog/item/b/bomu-w24a/index.html
注11 http://www.sigma-apo.co.jp/front/products/detail/SGM2
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