ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.36

重要度が高まる情報教育と2科目編成の教科「情報」
関西大学総合情報学部 黒上 晴夫
1.次期学習指導要領のキーワード
 次期学習指導要領のキーワードは,「知識基盤社会」と「生きる力」といっていいだろう。「知識基盤社会」とは,「新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す」社会であり,その特徴として,(1)知識のグローバル化,(2)激しい競争と技術革新,(3)パラダイム転換のための幅広い知識と柔軟な思考力の必要性,(4)誰もが参画することの促進,などがあげられている。現代社会をこのようにとらえた中で,すべての子供に培うべき力が「生きる力」であると再確認したわけだが,それはOECDが言う「主要能力(キーコンピテンシー)」と軌を一にするものであるとされている。
 情報教育との関わりで言えば,知識基盤を形成するインフラストラクチャーがインターネットであり,そこで実現される知識や情報の相互参照性(ハイパーリンク)や,検索可能性を使いこなして,考え,判断し,発信するコンピテンシーが知識基盤社会における「生きる力」なのだと理解される。その意味で,情報教育は従来にもまして重く扱われているとみて差し支えない。
 実際,教科等を横断して改善すべき事項の1つに情報教育があげられ,「情報活用能力をはぐくむことは基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着とともに,発表,記録,要約,報告といった知識・技能を活用して行う言語活動の基盤となる」と記されており,情報モラルに関する指導も含めて,現行の指導要領に比べてかなり強調されている感を受ける。
2.科目編成の変更
 こうした中,高等学校の教科「情報」は,従来の3科目構成から,「社会と情報」「情報の科学」の2科目構成になる。前者はほぼ「情報C」を,後者は「情報B」を引き継ぐものとみられ,“情報活用の実践力”を中核においていた「情報A」が事実上なくなるのである。
 一方,中学校では,従来学校選択項目であった「マルチメディアの活用」・「プログラムと計測・制御」の基本的内容をすべての生徒に学習させるとされている。その背景には,高校進学段階での個人差の開きへの懸念があり,これはそれを解消するための措置である。これによって,一定程度の「情報活用能力」が保証された生徒の進学が見込まれるため,「情報A」の必要性が薄らぐという判断があると思われる。
3.期待される学習内容
 さて,そうなると「情報と社会」「情報の科学」における学習内容にはどのような変化が生じるのだろうか。まずは,学習内容の高度化があげられる。例えば,現在多くの高校で行われている自己紹介や学校紹介をテーマとしたプレゼンテーションを,中学校までに経験することが想定される。それは,「情報と社会」のプレゼンテーションで,社会学やコミュニケーション学などを背景とした高度なテーマが求められることを意味するのではないか。また,「情報の科学」でも,情報学や統計学とつながる高度な学習内容や,より高度で実用的なプログラミングが期待されるように思われる。
 もう一つ見逃せないのは,改善の具体的事項の「情報通信ネットワークやメディアの特性・役割を十分に理解し,安全に配慮し,情報を適切に活用できる能力をはぐくむ」という記述である。情報化社会においてメディアは極めて重要な機能をもつが,それを批判的にみて活用する能力,すなわちメディアリテラシーを授業内容に含む必要が生じてきそうだ。
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