ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.36 > p27〜30

情報化教員の卵を育てる
「情報科教育法」を通して学ばせたいこと
─筑波学院大学での実践から─
茨城県立鉾田第一高等学校 津賀宗充
tuga.munemitu@mail.ibk.ed.jp
1.はじめに
 私は本年度より,筑波学院大学において,「情報科教育法Ⅰ」(前期2単位)及び「情報科教育法Ⅱ」(後期2単位)を担当しています。本稿では,ここに至るまでの経緯について説明するとともに,最近の教育実習に対する思い,私の講義の内容について紹介したいと思います。
2.講義を担当するまでの経緯
 私は,2002年度末から情報コミュニケーション教育研究会茨城支部(ICTE茨城)のメンバーの一人として,茨城県内の情報科担当教員を中心とした約50名のメンバーと共に,教科「情報」のあり方について意見交換をしてきました。この活動に対してご理解をいただき,研修会場や研修機材の提供等でご協力をいただいている同大学垣花教授(ICTE茨城支部長)から2004年春にオファーをいただき,自分にとっても勉強になると思い,引き受けさせていただきました。
 同大学は,東京家政学院大学を設立母体として1990年に東京家政学院筑波短期大学として茨城県つくば市(当時は茨城県筑波郡桜村)に開学し,1996年に四年制大学化して東京家政学院筑波女子大学に名称変更され,2005年4月には共学化して筑波学院大学に名称変更されています。開学当初は短大情報処理科のみだったものが,現在は情報コミュニケーション学部の下に情報メディア学科と国際交流学科が設置されています。
3.筑波学院大学の教職課程
 同大学の教職課程は,情報メディア学科において高等学校教諭一種(情報),国際交流学科において中学校教諭一種(英語)及び高等学校教諭一種(英語)の免許取得が可能です。教職科目である「情報科教育法Ⅰ」及び「情報科教育法Ⅱ」は3年次学生を対象に開講しています。つまり,翌年度に教育実習が予定されていることから,より実践的な講義内容が求められ,情報教育全般に関する知識・理解の深化と高等学校情報科の授業展開のためのノウハウの提供を目的としています。
 この他に,高等学校教諭一種(情報)免許を取得するための教職科目として,「情報」に関する多くの専門科目と共に,「情報科教材研究Ⅰ」及び「情報科教材研究Ⅱ」,「情報教育概論」も開設されています。「情報科教材研究」は2,3年次を対象とし,教科書の記述内容の検討や教材開発を目的としています。「情報教育概論」は3年次を対象とし,高等学校情報科だけでなく,情報教育一般を概観することを目的としています。担当の垣花教授,高藤准教授(ICTE茨城スタッフ)と連携を密にし,内容を調整しながら講義を進めています。
 最近の情報科教員の採用状況を見ると,情報科以外に何らかの教科の免許を取得することを前提としている都道府県が多くなり,現状のカリキュラムでは公立高等学校情報科教員に合格することは難しいと言わざるを得ません。茨城県教育委員会も,2003年度から情報科教員を毎年採用していますが,他教科の免許を取得していることが条件になっています。学校規模が1学年4クラスから8クラスであり,そのほとんどが6クラス以下であることや,単位数の少なさや人事異動の難しさを考えると,この条件が緩和されることは望み薄でしょう。
 今年度の受講生は情報メディア学科情報システム・教育系の学生9名であり,ほとんどが地元出身の学生たちでした。
4.教育実習生から思うこと
 本校(鉾田第一高等学校)は,毎年20名弱の学生が教育実習を行っています。全て本校の卒業生であり,全教科の実習を受け入れていますが,私が2年間学校を留守にしていた関係もあり,今のところ情報科の実習生は受け入れていません。同一校での在職期間が短縮され,専任の教科担当がいない現状では,教育実習の受け入れにさえ困難を生じる場合もあります。担当者が承諾しても,異動や引継ぎの関係から,学校としては断ってしまうこともあります。情報科に限らず,単位数の少ない教科の宿命なのでしょう。
 私の講義を受講している9名の学生に関しても,地元の私立学校出身の学生1名と,公立学校出身の1名が受け入れを拒まれ,同大学系列の東京家政学院中学校・高等学校で教育実習を行うことになりました。最近,出身校以外の実習校での教育実習が検討されているようですが,本校のような地方の高校には教育実習生が集まらず,大学周辺の高校に偏ってしまう可能性が高いのではないでしょうか。高校側の負担や学生の経済的負担を考えると,解決しなくてはならない課題は多いと思います。
 また,ここ数年,教育実習に来る学生を見ていて感じるのは,基本的なスキル・意識の欠如です。確かに私が教育実習を行った十数年前も,指導教員の先生から「遊びに来たわけではない」とか「学生気分では困る」との小言を聞いてから始まりました。それでも,最低限の準備は必要と考え,出来る限りの教材研究は行い,徹夜してまで授業に望んだことを覚えています。しかし,今はそのような準備をする学生が少なくなってきています。彼らが優秀で,そのくらいの準備なら簡単に出来てしまうのかも知れません。でも,数学の問題演習の授業で,事前に問題を解いてくることさえしない学生が出現したときには,教員免許の持つ意味,教育実習のあり方そのものにも疑問を感じました。
 これに呼応するかのように,校内でも学生に担当させる授業は減少しています。実習期間中に学校行事を集中させることで,授業の機会そのものを減らしている事情もあります。仮に,模擬授業の中で何らかの失敗をし,その挽回を図ろうにも,その機会さえ与えられないことも考えられます。年間の総授業時間数が減少する中で実質的な授業時間を確保し,保護者からのクレームや教育実習終了後のフォローを考えると致し方ないことなのですが,これで本当に学生は授業をする力が身に付くのでしょうか。
5.講義の基本的な方針
 先に述べた講義の位置付け,学生の実態等を考慮し,4年次の教育実習で困らないために必要なスキルや意識の育成を目標として,その内容を考えました。
 私の講義は「失敗することは是」としています。また「失敗の場」としての講義と考えています。失敗をしても,その原因を明らかにし,次回へつなげることで彼らが成長できると信じています。これは,本校の授業(情報C)でも同じことであり,授業中におこる様々なトラブルや問題を授業のネタとして扱い,同じことを繰り返したりしなければ,生徒にはどんどん失敗することを勧めています。
 授業をする場合も,最初から上手く行く人はいません。何度も試行錯誤を繰り返し,自分なりの授業スタイルを構築するまでには長い時間を要します。学生は不安を感じながら教育実習に向かうわけですから,その不安を少しでも解消するために試行錯誤を繰り返す場として,この講義を捉えています。
 しかし,今の高校生・大学生は失敗することが出来ません。失敗することが怖いのでしょうか。失敗するくらいなら最初からやらない,という者までいます。そのため,講義ではある程度の厳しさを保ち,緊張感のある授業を目指しています。
 それぞれ不定期2コマ連続計7回の講義ですので,日常のやりとりやレポートの提出にはメールを活用しています。幸いに受講生が9名と少なく,何とか対応できています。
6.「情報科教育法Ⅰ」の実践
 「情報科教育法Ⅰ」は,「情報科の授業を知ること」を目的として計14コマ(2コマ連続×7回)の講義を行いました。
 他の教職科目と連携しているため,学生一人当たり2回の模擬授業を中心としています。
 受講している学生は2005年度入学生ですから,このコーナーに掲載された他の先生も指摘されているように,高校時代に情報科の授業を受講していない学生たちです。そのため,情報科の授業と言われてもなかなかそのイメージがつかめません。私の授業を見学してもらえればよいのですが,同大学から本校までは少し遠く,公共交通機関によるアクセスも十分ではないため,それも出来ません。そこで,とりあえず教科書をもとに自由に授業を考えてもらい,授業をすること,教えるということを体験してもらうことにしました。
 最初に,学習指導案の書き方や授業の構成方法等について説明し,主に教科書の座学に相当する内容を指定して,20分程度のミニ模擬授業をしてもらいました。きちんとした授業を考えてもらうということよりも,そのウォーミングアップの位置付けです。毎回2コマ連続3時間の講義ですので,1回に3名程度できます。学生のミニ模擬授業の後に講評の時間を設け,必ず良かった点を褒めてから,気になる点,改善点を指摘していきました。教育法だけに限定せず学校教育にまつわる様々なことを紹介し,来年の教育実習に向けての準備の場であることを確認しました。
 中には人前で話すことに苦労する学生もいるため,最初から多くのことを期待せず,純粋に人前で話すということ,人に教えるということを経験してもらいました。一度指摘したことを直ぐに修正できる学生ばかりではないので,繰り返し同じことを指摘したり,ちょっとした工夫を取り上げ素晴らしいと褒めたりしています。そつなく模擬授業をこなしていく学生がいる一方で,ひたすら教科書の内容を整理し板書していく学生,関連した多くの知識を紹介しようとしてまとめ切れない学生等,実際の授業としては疑問を感じるものも多かったのですが,教科書の内容をそのまま伝えるのではなく,自分なりに工夫をしながら教える内容を考える経験の積み重ねが大切であると考えています。
 学生に対する私のコメントは決して優しくありません。同大学は学生数が少ないこともあり,教員と学生との距離が近く,親身な指導を特色としています。大学全体のアットホームな雰囲気の中で,外部から来た者から辛辣なコメントを受けるにもかかわらず,講義に臨む学生の意識は高く,めげることなく取り組んでいます。
 2回目の模擬授業では相互評価も意識しました。他の学生の授業にコメントをつけるという作業は,評価する者にとっても,評価を受ける者にとっても,非常に勉強になります。私の授業でも,評定には反映させませんが,生徒同士の相互評価を大事にしており,最終的には本人に戻すことを心がけています。
 1回目の模擬授業では学習指導案の全体的な形式に注意して指導をした程度でしたが,2回目は学習指導案の各項目についても具体的に検討しています。やはり観点のとらえ方には苦労しているようです。彼らの課題がハッキリしましたので,後期の講義の中心テーマとしました。
7.「情報科教育法Ⅱ」の実践
 「情報科教育法Ⅱ」は,「情報科の授業ができること」を目的として,情報科教育法Ⅰの講義を踏まえ,もう一歩踏み込んで指導しています。
 最初に観点別評価について再確認をし,学習指導案を作る作業に入りました。この原稿を書いている10月20日時点では,情報Cの1つの単元に注目し,学習指導要領での位置づけを確認してから教育目標を考え,具体的な評価規準を考えています。この後,単元の授業計画,1コマ分の学習指導案を考えていきます。学生たちは前期の講義で学習指導案を作成した経験を有していますから,いかに安易に考えて作成していたのかを実感し,1つ1つの指摘にも納得し,ゆっくりと理解しているようです。
 講義の形式も,毎回の講義で宿題を課し,私の話は最小限にして,学生たちのグループワークを中心にしています。また,最後には,3回目の模擬授業も予定しています。
 また,茨城県は11月を教育月間と位置付け,教育に関する様々なイベントを開催しています。公立学校に関しても,学校ごとに学校公開日を設け,誰でも授業等を見学できることになっています。学生たちがお世話になる実習校でも授業が公開されているため,来年の教育実習の下見を兼ねて見学に行くように薦めています。
 さらに,10月13日(土)には,同大学においてJAPET主催情報教育対応教員研修全国セミナー「2007ソリューションセミナーfor エデュケーションin Tsukuba」が開催されました。情報教育全般について学ぶことができる機会であるため,参加するように勧めています。いずれも,参加者には小レポートを課し,成績をつける際には配慮することにしています。
8.最後に
 ここ数年,私たち教員の授業力の向上が叫ばれています。大学において講義を受けることも大切ですが,実践的な授業力は,現場で生徒とやり取りする中で,経験的に身に付けていくものだと思います。しかし,その第一歩である教育実習は,位置付けが曖昧である感は否めません。
 大学側も,高校側も,そして学生も大きな負担を課せられながら教育実習を実施しているわけですから,学生の授業力を磨くために,もう少し長く,そして実践的な教育実習の在り方が検討されるべきではないでしょうか。幸いに,最近は多くの工夫が見られるようです。このような工夫が一部の大学や高校にとどまらず,全国に広まってくれることを期待しています。
 私の講義は教育実習の準備という位置付けであり,実践的な授業力の育成という点から見ればかけ離れたものです。受講している学生たちも皆,先に述べた就職状況の難しさも相まって,進学や民間企業への就職を希望しています。高校生相手にものを教えるのは,教育実習が最後の経験になるのかもしれません。しかし,教育実習や私の講義を通して,社会とのかかわりや,人とのかかわりを学び,その面白さ,難しさを感じることができれば,どのような職業に就いたとしても,彼らにとって大きな支えになると信じ,私自身も試行錯誤を繰り返しながら,学生たちとの講義から多くのことを学んでいます。
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