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ICT・EducationNo.37 > p11〜p16

教科「情報」テキスト活用事例
「情報A」の授業を通して主体的・自主的に学ぶ姿勢を育てよう!
─教科書の内容を自ら調べ・深め・理解する授業展開例─
長野県伊那弥生が丘高等学校 原 信子
hara312@peace.ocn.ne.jp
1.はじめに
 近年の情報通信技術の発展は,目覚しいものがあります。次々に新しい情報通信機器やソフトウェアが開発され,それに合わせてコミュニケーションの方法やルール,新しい作業手順や方法がどんどん変化してきました。学校でどんなに最新の知識や技術を学んだとしても,社会に出てすぐに,それだけでは対応しきれなくなることを私たちは経験から学んでいます。
 このような高度情報通信社会で,よりよく生活し,また,正確・迅速に情報を処理するために,常に情報通信技術やネット社会のルールを学んでいくことが必要です。すると,学校では,単なるソフトウェアの操作方法やタイピング技術を教えるのではなく,「自ら調べ,学ぶ姿勢」を涵養することが先決となります。
 このような視点から,日本文教出版「新・情報A」教科書(以下,「教科書」)を眺めた時,生徒が,その内容を発展させて・課題を持ち・自ら学んで行けるような配慮が至る所にされていることに気づきます。
 本校では,1年生6クラス240名の「情報A」の授業の中で,教科書に示された問題や課題に対して,生徒が必要な情報を集めて,それを自分なりに判断・整理して,さらに情報発信することができるような授業展開を構成しました。
2.具体的な授業展開
(1)インターネットの概念を形成する
 まず,今日の高度情報通信社会の背景にあるインターネットの概念から授業をスタートします。
 コンピュータ室での1クラス40名の授業です。
○デジタルノートの活用
 図1のようなワードファイル(これをデジタルノートと呼ぶことにします。)を用意し,共有フォルダに置きます。生徒は共有フォルダからファイルを自分のフォルダにダウンロードします。

図1 デジタルノートの一部
▲図1 デジタルノートの一部

 *1は,『新・情報A 教授資料ディジタルデータ編』(以下,「指導書ディジタルデータ編」)HTML教科書122ページにリンクしています。生徒はデジタルノートを開き,HTML教科書へのリンクをクリックして,教科書122ページの画面をディスプレイに表示させます。このページを参照しながら,デジタルノートの空欄に適語を入力し完成させます。自ら調べ課題を解決していく学習の第一歩がスタートしました。
 *2は,「情報機器と情報社会のしくみ素材集(※注1)」のWebサイトにリンクしています。
 このサイトには,以下のような記述があります。

注:このサイトは,文部科学省が実施した平成13年度「教育用コンテンツ開発事業」により,「情報機器と情報社会のしくみ」開発委員会により制作されました。
 画像の著作権は原則として文部科学省にあります。中学校,高等学校などにおいて教育目的の利用が認められています。例えば,先生が授業に利用したり,生徒が発表に利用したり,さらに,一部の素材については提供された画像を再加工することも認められています。

 ここで,生徒はWebページを活用して,必要な情報を集め,知識を得ることを体験することになります。

図2 デジタルノートの一部
▲図2 デジタルノートの一部

 *3は,「IT用語辞典e-words(※注2)」のWebサイトへリンクしています。
 Webページに出てくる知らない語句を調べられるように,デジタルノートの各頁に,「e-words」のサイトへのリンクをはっておきます。英語の学習で未知の単語は英和辞典を引くように,情報の学習ではIT用語辞典によって,言葉の意味を調べる習慣を形成します。
 以上のような授業の流れの中で,生徒は教科書120〜125ページ「情報通信技術の歴史としくみ」の内容を,自ら情報収集することによって深め,自分の知識として定着させていきます。

(2)身近なネットワークや情報機器の学習
○教科書から「Try」学習を深める
 教科書には,「Try」のコーナーがあります。このコーナーを大切に扱うことで,学習内容をさらに充実させることができます。
 例えば,15ページのTryを見てみます。

●学校にあるコンピュータや周辺機器と下の図を見比べながら,その名前とはたらきを確認しよう。

 これをデジタルノートで,次のように扱います。

図3 デジタルノートの一部
▲図3 デジタルノートの一部

 *4は,指導書ディジタルデータ編HTML教科書14ページにリンクしています。
 *5と*6は,指導書ディジタルデータ編PPTスライド集にリンクしています。
 *7は,「情報機器と情報社会のしくみ素材集」にリンクしています。
 生徒は,デジタルノートにはられたリンクをたどることで,*4〜*7のようなさまざまな資料にアクセスして,Tryに示された課題を自主的・主体的に解決していきます。デジタルノートには,生徒が調べた内容を整理しやすいように,テンプレートを用意しておきます。

(3)指導書ディジタルデータ編の活用
 指導書ディジタルデータ編に収録されている教科書の画像を,デジタルノートに添付することにより,生徒が課題を視覚的にとらえ,生徒の興味・関心を引き出すように工夫しました。
 例えば,「身の回りの情報機器や情報ネットワーク」の学習で,教科書127ページの図「携帯電話の活用」の画像を,指導書ディジタルデータ編からコピーし,デジタルノートにペーストして,携帯電話の様々な機能を書き出させます。

図4 教科書127ページの図「携帯電話の活用」
▲図4 教科書127ページの図「携帯電話の活用」

図5 携帯電話の様々な機能を書き出したデジタルノート
▲図5 携帯電話の様々な機能を書き出したデジタルノート

 生徒は,書き出した様々な機能から,さらに学習内容を発展させます。
1.「おサイフケータイ」の機能から,電子マネーの種類やしくみを学習する。
2.GPSの機能から,携帯電話と通信衛星との関係について学習する。
3.携帯電話で撮影した写真から,JPEG画像について学習する。
4.音楽のダウンロードから,音楽データの著作権の学習につなげる。
5.バーコードの読み取り機能から三次元バーコードの学習につなげる。
6.携帯サイトで見られる交通情報から,交通管制システムの学習につなげる。 7.天気予報の検索から,気象衛星の学習につなげる。
 このように,教科書の1つの図から,多岐にわたる学習項目を生徒は自主的に発展させて学んでいくことができます。

(4)HTMLの基本知識とともに学ぶデジタルデータの活用と情報モラル
 電子商取引や予約システムなど,情報社会を支える情報システムは,HTMLによるWebページなくしては語れません。
 そこで,Webページを実際に作ることにより(教科書108〜118ページ),以下のことに関する知識と技術を身につけます。
・HTMLの基礎知識
・画像や音のデジタル化や圧縮
・Webサイトの著作権
・ユーザーアクセシビリティ
 教科書92ページの「光の3原色」について,「RGB3色の配合の割合をデジタルデータ(16進法)で表現する。」ことを理解させます。ExcelVBAを使って,RGBを配合し,これを16進法で表現し背景色を設定とします。

図6 生徒の作った「学校周辺の案内」Webページの一部
▲図6 生徒の作った「学校周辺の案内」Webページの一部

 また,携帯電話で撮影したJPEG画像を入れることで,教科書93ページの画像の圧縮やファイル形式の知識を,Webページを作りながら習得させます。

(5)情報モラルの課題をプレゼンテーション
 教科書の各ページの左右端に,用語が解説されています。

図7 指導書ディジタルデータ編HTML教科書32ページ
▲図7 指導書ディジタルデータ編HTML教科書32ページ

 ここに解説された語句に関する項目を,生徒一人一人にテーマとして与え(表1参照),生徒はこれに関して情報を集め,整理・編集し,パワーポイントのスライドにまとめてプレゼンテーションをします。

  テーマ項目 教科書p
1 インターネット社会の光と影 126
2 情報の働きと性質 50
3 情報の信頼性 51
4 個人情報とは 76
5 個人情報の流失と保護 77
6 知的財産と知的財産権 78
7 著作物と著作権 79
8 著作権の尊重 79
9 知的財産の正しい利用 81
10 プライバシーガイドライン 76,77
11 情報社会の新しい文化 136,137
12 学習環境の変化 134.135
13 医療・福祉・公共サービスの変化 135
14 ビジネスの変化 129
15 生活スタイルの変化 134
16 携帯電話の普及による生活の変化 127
17 健康面への影響 126
18 コンピュータや情報通信技術の悪用による影響 37
19 コンピュータや情報通信技術の悪用による影響 126
20 インターネットビジネス 129,130,131
21 電子メールの活用 34
22 電子メールのマナー 36,37
23 電子メールの内容 35
24 メーリングリスト 34
25 Webページの構成 110
26 Webページの活用 46〜49
27 情報の信憑性 50
28 発信する情報への責任 72,74
29 受信者への配慮 73,75
30 ネット上でのコミュニケーション 72
31 メールの形式 34
32 セキュリティとは 38
33 認証とパスワード 17
34 電子メールとWEBのセキュリティ 38,39
35 暗号とセキュリティ 39
36 不正アクセス 38
37 コンピュータウイルス 38
▲表1 プレゼンテーションのテーマと教科書との対比表

 生徒から敬遠されがちな情報モラルに関する項目をテーマとして与えることにより,生徒の興味・関心を高めます。また,生徒が自ら解説することにより,座学で教えるときには得られない主体的な姿勢を導くことができました。
 ここでは,単にプレゼンテーション学習だけでなく以下の学習目標の達成もねらいました。
・関連サイトの検索と活用による情報活用・編集力の育成
・フリー素材を活用したデザインの工夫
・主体的・自主的な学習の実践
・情報検索による問題解決
・人の話を聞く態度や,情報を聞き取り,発信者の意図を読み取る力の育成
・基本的な情報リテラシーの育成
 例えば,教科書38ページの「コンピュータウイルス」について,生徒は下のようにパワーポイントのスライドにまとめました。

図8 生徒が作成したスライド

図8 生徒が作成したスライド

図8 生徒が作成したスライド
▲図8 生徒が作成したスライド
3.おわりに
 教科書に盛り込まれた多くの情報をたった2単位時間の授業で消化していくことは,頭を悩ませるところです。
・「情報の収集」「問題解決」の実習を通して「情報通信技術の歴史としくみ」「情報社会の現状と進展」の知識を得る。
・「Webページ作成」の実習を通して,「情報の発信と留意点」「デジタルデータの知識と活用」「著作権等の情報モラル」の知識を習得させる。
・「プレゼンテーション実習」の中で「情報モラル・ネット社会での留意点」を学ぶ。
 このように,いくつかの学習項目を並行・統合して授業展開することにより,学習内容を網羅しました。
 表2の学習項目と教科書の内容との対応表をご参照ください。

本校の学習内容 日本文教出版教科書
学習内容 実習内容 節(配当時間) 学習目標
4 情報通信ネットワーク社会の現状
●通信手段の変化
●インターネットの進歩
WORDによるノートの作成 4 情報を読み解こう 第1節
情報通信技術の歴史としくみ
(3時間)
●情報機器や情報通信技術の発達の歴史を理解する。
●情報機器や情報通信技術が機能する仕組みを理解する。
コンピュータのしくみ 1 情報を理解しよう 第2節
基本的な知識と技術を身につけよう
(5〜7時間)
●実習で活用するコンピュータの基本操作を習得する。
●実習で活用するソフトウェアの基本操作を習得する。
5 ●OSの役割
6 ネットワークのしくみ
●TCP/IP
●インターネット
●身近なネットワーク
第3節
ネットワークで情報を共有しよう
(5〜6時間)
●ネットワークを有効に活用して情報を共有する方法を習得する。
●ネットワークを活用する際に注意すべきことを理解する。
7
8
Webページによる情報発信
●HTMLの基本
●画像のデジタル化
●音のデジタル化
●情報検索
●著作権
Webページの作成
HTMLの理解
色の表現
デジタル画像の理解
音のデジタル化
デザインとユーザーアクセシビリティ
2 情報を活かそう 第1節
情報を集めよう
(5〜7時間)
●いろいろな情報源とその特徴を理解し,効果的な検索方法を習得する。
●誤った情報があることや,さまざまな立場からの情報があることを理解する。
第3節
情報を発信しよう
(8〜10時間)
●情報を発信し,相手に効果的に伝えるための手順や方法を習得する。
●情報を発信するにあたって注意すべきことや守るべきルールやマナーを理解する。
3 情報を表現しよう 第1節
ディジタルデータを活用しよう
(6〜8時間)
●ディジタルデータの特徴を理解する。
●さまざまな情報のディジタル化の方法を習得する。
第2節
情報を統合しよう
(10〜12時間)
●さまざまな形態の情報を統合する技術を習得する。
●自分の思いを伝えるための表現やデザインの方法を習得する。
9 情報社会を生きるための知識とマナー プレゼンテーション
資料の作成
情報の検索
発表
4 情報を読み解こう 第2節
情報社会とわたしたち
(3時間)
●生活や社会のさまざまな場面で情報技術がどのように機能しているか理解する。
●情報化の進展が私たちの生活に与える影響を理解する。
10 ●情報化社会の特徴
●著作権・知的財産権
●情報通信ネットワーク社会
●生活の変化
●情報発信のマナー
●電子メール
●セキュリティ対策
11 第3節
情報社会の未来に向けて
(3〜4時間)
●情報化の進展による社会のさまざまな変化を理解する。
●情報化の進展によって生じる新たな課題を理解し,情報活用能力を高めることの重要性を理解する。
12
1 表計算ソフトによる数値の処理 Excelによる実習 2 情報を活かそう 第2節
情報を分析しよう
(6〜8時間)
●表計算ソフトウェアを活用した数値データの集計を習得する。
●グラフ機能やデータベース機能を活用して,数値データの分析方法を習得する。
2 表計算ソフトの関数の利用による効率化 問題解決の課題を解く 1 情報を理解しよう 第1節
問題解決の手順を知ろう
(2時間)
●生活の中でのさまざまな問題を発見する。
●問題解決にいろいろな手順と方法があることを理解する。
3 表計算ソフトのデータベース機能
▲表2 情報Aの学習内容と教科書との対比
注1:http://kayoo.org/home/mext/joho-kiki/
注2:http://e-words.jp/
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