3.教科「情報」と科学リテラシー |
我が国の後期中等教育(中学校,高等学校など)においては,2003年度から教科「情報」が新設され,必修科目として実施されている。そして,文部省(現文部科学省)による高等学校学習指導要領では,「科学的な見方や考え方を養う」ということになっている(※注18)。つまり,「科学リテラシー」の一部としてこの科目を位置付けていることになる。したがって,適切な指導を行うためには,単にコンピュータのハードウェアに精通しているとか,特定のソフトウェアに習熟しているだけでは不十分であり,「科学」および「技術」に基づいた「科学リテラシー」の準備が必要だといえる。学校現場においては,生徒達にコンピュータの操作を教えるだけでなく「科学的理解」を促進するための工夫が望まれている。指導要領の解説によれば,科学的理解とは,「情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解と,情報を適切に扱ったり,自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解」となっているのである。そこで,科学的理解を構築するために教科「情報」ではどのような工夫が可能かを具体的に考えてみよう。ここでは,科学の芽として「ふしぎだと思う」という視点から検討する。
(1)ハードウェアの科学的理解
まず,最近の大学生や高校生が日常的に利用している情報機器として,携帯電話やテレビ受像機・ディジタル撮像機・携帯音楽再生機,さらにはプリンタや腕時計・電子辞書などがある。そして,これらの情報機器については,多くの場合にその機能が単純明快であり,それらの働きに対して,「ふしぎだと思う」機会は少ないのかもしれない。例えば,腕時計の場合,太陽電池によって駆動される電波制御の時計であれば,その表示方式がアナログ方式であれディジタル方式であれ,現在時刻を読み取る訓練は小学校の低学年で完了している。海外旅行をしたときに現地時間を表示する機能を使えるか否かが問題になるぐらいであろう。しかし,そこにはボタンが2〜3個装備されており,その適切な操作方法をマニュアルから読み取り,理解するにはその制御ソフトウェアについての素養が必要になる。
コンピュータは電子装置であり,データ入力部分は機械的道具を応用している。キーボードは典型的なスイッチの並びであり,その動作自体は,日常生活などでよく理解されている。スイッチをオンにすれば,該当する機器の電流が制御され,その反応が現象として確認できる。しかし,キートップに配置された英字の配列が国際規格ではQWERTY方式となっている理由を理解するには,適切な解説書(※注19)の助けが必要になる。この配列は手動タイプライタの時代に発明された方式ではあるが,当時の機械的な制約が原因となって高速タッチを妨げるような配列になっていたというデマなどに惑わされてはならない。
(2)ソフトウェアの科学的理解
一方,ソフトウェアの働きは「ふしぎ」の宝庫といえよう。自宅の机上にあるノートパソコンを使って,電子メールの送受信をしたり,インターネットブラウザを使って様々な検索をしたり,ワープロソフトを使ってレポートの原稿を作成し,プレゼンテーション用のファイルを作成したりするなど,色々な作業を同一のコンピュータで実行できるのである。
携帯電話のようにメール専用であるとか,ディジタルカメラのように撮影専用であれば,そこに専用のソフトウェアが実装されていて,ハードウェアを制御していること自体は理解しやすいためか,中学生や高校生などが,色々なボタン操作に習熟する早さには感心させられる。それらのソフトウェアを構築する仕組みをある程度まで理解しておくことが望まれるのであるが,その科学的理解が課題になっている。
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