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ICT・EducationNo.39 > p6〜p9

情報科テキスト活用事例
私は情報Bの授業をこのように実施した(2)
─情報Bの中核をなす第2章の授業実践とその工夫─
岐阜県立大垣北高等学校 高納 成幸
p80296@gifu-net.ed.jp
1.はじめに
 日本文教出版の教科書「新・情報B」の第2章と第3章には,情報Bの中心となる教材,すなわち「コンピュータによる情報の表現と処理」および「コンピュータの活用と問題のモデル化」の内容が豊富な図表とともに掲載されている。本稿では,第2章の授業実践とその工夫を報告する。
 教科書と実習ノートを中心に授業は進めるが,いくつかの新たなツールや手段を用いて生徒の理解を深める工夫をした。今回は,このうちの次の3つについて報告する。
【1】知識や技能を身につけさせるためのCAI活用授業の実施
【2】生徒が自分のペースで授業内容や課題に取り組めるLMSを利用した授業の実施
【3】生徒が自分の思考を表現することができるための思考マップの作成
 すべての授業でこれらの手法を用いたのではなく,効果的であると考えられる単元で利用した。
2.コンピュータにおける数値の取り扱い
 コンピュータによる数値の取り扱いを学習する前に,2進法や16進法の基礎知識,2進法による負の数や小数の取り扱いに習熟しておくことが必要である。この内容は,第2章すべてに関わっているため,生徒には十分に理解させて,利用できるようにしたい。そのためには,生徒自身に考えさせ理解させることが大切である。
 2進法・16進法についての扱いは,教科書に十分な内容が掲載されているが,さらに効果的な学習を目指して,CAIを活用した授業を計画した。
 CAI作成ソフトウェア「e-L倶楽部」(※注1)を用いて「2進法・16進法の基礎」のCAI教材を作成し,生徒の個別学習を実施した。
 2進法については,多くの生徒が初めて学ぶ内容であり,理解度にも大きな差が出る内容でもあるからである。

(1)目的

【1】2進法と16進法の基礎的な事項を生徒に自ら学ばせる。
【2】生徒の主体性に任せる学習を経験させる。

図1 CAIのメニュー画面
▲図1 CAIのメニュー画面

(2)期待される学習効果

【1】生徒の理解度に応じた学習ができる。
【2】理解の進まない生徒に対して個人指導ができる。
【3】学習履歴を調べることで個人の進捗状況や理解度を把握することができる。

(3)内容

【1】2進法と10進法の相互変換
【2】16進法と2進法の相互変換
【3】16進法と10進法の相互変換
【4】2進法の加算
【5】16進法の加算
 上記5つの内容について説明と問題を出題し,それに答えることによって,2進法・16進法の基本的な扱い方を理解させる。

図2 2進法の説明画面
▲図2 2進法の説明画面

(4)結果

 以下の8問のテストを行った結果は次の通りである。

  設問 正答率
1 10進法の48を2進法で表しなさい。 84.4%
2 2進法の101101を10進法で表しなさい。 84.4%
3 2進法の11010101を16進法で表しなさい。 73.3%
4 16進法の9Cを2進法で表しなさい。 68.9%
5 10進法の455を16進法で表しなさい。 60.0%
6 16進法のE5を10進法で表しなさい。 37.8%
7 2進法の加算101101+111011を2進法で答えなさい。 84.4%
8 16進法の加算3C+A8を16進法で答えなさい。 71.1%

 CAIを活用することにより,昨年度より正答率は10%程度上昇した。

(5)評価

 生徒の自由記述によるアンケートでは,次の4点に集約される。
【1】自分のペースで学習できるので,やりやすい。
【2】説明と練習問題が適当に配置してあるのでわかりやすい。
【3】普段と違った授業形態なので楽しくできた。
【4】自分で進めていかなければならないので,わからなくなると何ともならない。
 例年通常の授業形態で1時間分の授業が,CAIを利用して実施でき,その結果も従来以上の結果が出ていると感じられる。
 CAIを実施して効果が見込める内容については大いに活用する意義はある。
3.コンピュータにおける色と画像の表現
 授業は導入として,光の3原色を混ぜて色をつくる加法混色の話から始める。実際に赤,緑,青の光を混ぜてどのような色ができるのかを,実物を用いて説明する。生徒は知識としては知っているが,見るのは初めてという場合が多い。
 次に,階調や解像度の内容に入る。教科書にはわかりやすい図や表が随所に配置され,使いやすい。実習ノートも役立つ。さらに効果的な学習を進めるために,LMS(Learning Management System)を利用することを考えた。無料で利用できるシステムが多くあるが,その中でもいろいろな機能を備えたMoodleを使うこととした。

図3 3台のスライド映写機で光を混ぜる
▲図3 3台のスライド映写機で光を混ぜる

(1)Moodle利用の目的

 生徒が自分自身で学習を進めることができる。わからないところは教科書を参照したり,インターネットで調べたりすることで,自学自習の態度を養うことができる。また,教師は他の生徒の学習状況を気にすることなく生徒の質問に答えることができる。従来の一斉授業では,一人の生徒が質問することによって授業が中断することがあったからである。また,学習記録が残るため生徒は安易な態度で学習に取り組むことが少なくなった。

(2)授業の方法

 LinuxのサーバにAMP(Apache MySQL PHP)環境を作成し,Moodleをインストールする。事前に教科書に沿った学習用コンテンツを作成してMoodleにアップロードする。授業前には,本時の学習目標と,教科書・実習ノートの使用ページ,MoodleのURLなどをホワイトボードに書いておく。生徒は,コンピュータ室に入ってくるとコンピュータを起動してMoodleを立ち上げる。

図4 Moodleの画面
▲図4 Moodleの画面

 授業中は,教師用コンピュータの画面をプロジェクタからスクリーンに投影して,全体に説明することもできる。

図5 Moodleの学習用コンテンツ
▲図5 Moodleの学習用コンテンツ

 Moodleでは,学習内容に関する説明のほかに,課題や小テストなどが実施できるように準備されている。生徒は,自分のペースでこれらを学習していく。Moodleのさまざまな機能を利用することによって,生徒はいろいろな学習内容を学ぶと同時にスキルを身につけることもできる。

(3)内容

【例】ラスタ画像ファイルのデータ量の計算
 ラスタ画像とはピクセルとよばれる小さな点が集まってつくられる。一つのピクセルには,色のRGBデータが割り当てられ,このデータを記録するためのバイト数と画像の総ピクセル数の積を求めることによってラスタ画像ファイルのデータ量の計算ができることを説明し,練習問題を行う。

(4)思考を表現し,学習をまとめる思考マップ

 授業の中で,中心となる学習内容は生徒にしっかり学んでほしい。そのために,授業の終わりに今日の内容をもう一度まとめる時間を設けている。
 ここで利用するのが,思考マップという図表である。今回の授業では,「ラスタ画像ファイルのデータ量の計算ができること」をまとめるためにこの図表を生徒自身に作成させた。
 まず,生徒には図6のような例示をした。書き方にいくつかの約束を導入し,生徒が自分の思考を表現しやすいように考えた。

図6 思考マップの例
▲図6 思考マップの例
4.可逆圧縮の例
 教科書の「データの表現の工夫」の項目では,最も簡単な可逆圧縮の例としてランレングス圧縮の手順を学習する。
 教科書を参考にランレングス圧縮について説明し,生徒には実習ノートの問題を解答させる。この例題は,生徒に簡単な圧縮のしくみを理解させるのに適切なものである。ビットマップのデータを,白のドットを0,黒のドットを1として0の個数と1の個数に置き換えて一つの表という別のデータで表現する。次に,表は0と1が順番にでてくるので,それらの個数のみを記録してまた別のデータとして表現する。一つおきに1が出てくるのでこれを省略してデータを表現する。このとき,すべての表現は互いに可逆であることを確認させる。つまり元のデータに戻すことができることを実際にやらせてみる。
 その後,授業のまとめとして生徒が行った実習問題が図7である。ほとんどの生徒が正解に行き着いた。
 実習問題の裏面は,ランレングス圧縮の学習をまとめる思考マップを書き込むようになっている。生徒は解答が終わり次第この図表作成に取り組む。図8は,生徒が書き込んだものである。

図7 ランレングス圧縮の実習
▲図7 ランレングス圧縮の実習

図8 生徒が書いた思考マップ
▲図8 生徒が書いた思考マップ
5.まとめ
 今回の報告は,授業におけるメディアの活用や生徒の理解を深めるための工夫を中心に行った。生徒の学習への取り組みがより主体的になるように試みたが,これらの方法が常に有効であるとは限らない。学習目標に対してどんな方法が生徒により効果的であるかを今後も考えていきたい。
 次回は,第3章と総合実習について報告する。
注1:e-L倶楽部 http://e-lclub.com/
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