ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.41 > p30〜p31

プロジェクト学習へのアプローチ
著作権をどう教えるか─5
「著作権の現場から…権利処理の実際」
今回のポイント
 社会の第一線で著作権に関わるお仕事をされている方をゲストに迎えてインタビュー形式でお話をうかがうシリーズの最終回です。今回は,出版関係の権利処理がご専門の大貫恵理子さんにお話をうかがいました。
今回のゲスト
大貫恵理子(おおぬきえりこ)さん
著作権教育フォーラム代表
大学院卒業後,NHKソフトウエア(現:NHKエンタープライズ)で放送番組の権利処理を担当。ハイビジョン放送の実用化やNHKアーカイブスの稼動に伴う権利処理などに携わる。主な権利処理番組に「名曲アルバム」,「日本映像の20世紀」,「地球大紀行」など。その後,(株)徳間書店に入社。過去のアニメーション映画の契約書の整理や,アニメ映画の共同制作契約の処理など,主として契約関係の書類作成を担当。主な担当作品に,「銀河英雄伝説」, 「サムライチャンプルー」, 「紺碧の艦隊」, 「電脳コイル」,「大正野球娘。」など。また, NPO著作権教育フォーラムの代表者として,学生・生徒などに対する著作権教育にも力を尽くしている。
著作権教育フォーラムブログ
http://cef.sblo.jp/
  大貫恵理子(おおぬきえりこ)さん
—出版社において,どのような契約の処理をするのですか。
 「まず著者とは,作品ごとに出版契約をします。これは,印刷媒体の出版物の独占的許諾権の取決めです。雑誌などの場合は,図版や写真の借用に当たって「著作物利用契約(申請書)」等があります。私の場合はさらに,小説などをアニメ化やキャラクターの商品化など二次的利用をする場合の契約が関わってきます。」
—そんな契約書の作成は大変ですか。
 「出版社は私企業ですから,自社に有利な契約を求めます。一方,著者(著作者)の権利(著作権)は排他的な許諾権なので,条件提示だけでなく,ただNoということもできます。以後の問題発生のリスクや独占禁止法に抵触する可能性を回避し,双方が納得できる契約書にするための調整は大変かも知れません。」
—例えば,原作者との契約だと,どのような処理がありますか。
 「先述の出版社の他,原作を二次的利用する場合には,原作者に代わって出版社が二次的利用の交渉を行う契約を結びます。原作の二次的利用をする場合は,ドラマ化とかキャラクター商品化などの使用形態に応じて,それぞれ「原作使用許諾」契約をします。一つの契約書にまとめることもできますが,条件や文言で双方の板挟みになることが多く,契約書作成者のつらいところです。」
—他にはどんな処理をされますか,何か具体例を教えてください。
 「例えば,かつて製作したアニメをネットで流す場合,その当時は「公衆送信」という概念はありませんから,著者と出版社は,原作の公衆送信使用について契約(確認)をしなくてはなりません。電子出版なども,今はあらかじめ契約書に盛り込んでいますが,少し前まで,別途協議していました。著作物の利用は原則利用方法と媒体を定めて契約しますので,それ以外の利用と媒体の場合は改めて著作者と交渉します。丁度,昔のテレビドラマをDVDにする場合,原則すべての出演者の権利処理をするのと同じです。」
—実際には,著者や出演者にはどの程度の金額が支払われますか。
 「契約ですので,双方の合意があれば料率や金額の設定は自由です。また,著者や出演者(タレント事務所)などは,権利者団体に所属していることが多いですから,権利者団体の規定に従うことも多いです。例えば,ドラマのDVD化の場合,文藝家協会規定なら,著者には「定価×1.75%×製造本数分」の金額が支払われます。出演者も同様,定価の数パーセントを出演者で分配するのが一般的です。」
—ところで,著作権教育ではどのような取り組みをなさっていますか。
 「私は仕事のかたわら,NPO著作権教育フォーラムで著作権の啓蒙活動に取り組んでいます。一例として,生徒に実際に映像作品を製作させ,自身が著作権者となるワークショップを展開しています。相手に伝えたいこと(自分の思想感情)を映像媒体として,音楽や写真など他者の著作物の力を借りて表現する。その過程で発生する権利処理の方法を教え,生徒自身が交渉し,申請し権利者の許諾を得るものです。このような取り組みを通じて,自分の作品を通じて利用者の立場と著作者の立場双方から著作権について考えるきっかけを提供できればと思っています。」
—最後に,高校生に考えてほしいと思われることをお聞かせください。
 「自分の方法で表現すること,を考えて欲しいと思います。先程のワークショップ作品はどれも長いエンドロールです。自分が表現者(著作者)になったとき,表現する苦しさや楽しさ,相手に伝えることの喜びに気付き,他者の力が自分の表現力を高めることを知ったから,その感謝と配慮を表したんですね。これは,著作権法の根幹に通じると思います。文化は一人でつくりあげられるものではありません。長い歴史と多くの人の関わりと積み重ねによってつくりあげられてきているものです。そして著作権法の目的は,文化の発展です。自分で考え,表現することを怠らなければ,著作物の無断利用や,自分の作品のように偽称することはないでしょう。考えることをなくして,安易に著作権を無視することは問題だと思います。」
—どうもありがとうございました。
授業での展開事例
目的:著作権者の立場で著作権について考える。
展開:例えば,自分自身で映像作品を制作して発信する立場になると想定して,著作権の処理について考えさせる。

この実習で利用するサンプルデータ(Microsoft Officeファイル)は,こちらからダウンロードしてください。
ワークシート1
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