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ICT・EducationNo.41 > p25〜p27

教育実践例
情報デザインの要素を取り入れた「課題研究」の実践例
─スパゲティをどこまで伸ばせる?─
神奈川県立海洋科学高等学校  若林 庸夫
tsuneo-wakabayashi@pen-kanagawa.ed.jp
1.はじめに
 本校は平成20年4月に単位制の海洋科学科に学科改編し,校名を三崎水産高等学校から海洋科学高等学校に改めて開校した。以前の4学科(漁業生産科,食品産業科,水産工学科,情報通信科)体制とは異なり,ほとんどの専門科目が選択科目であるため,「学び」の軸を見失う危険性がある。そこで,教育課程の枢軸として「課題研究」を2年次に1単位,3年次に3単位設定し,本校での学びの「幹」としている。
 2年次の「課題研究」(1単位)では,課題の見つけ方や研究の方法などのメタ学習を,主としてグループワークを中心に進めるように計画している。グループワークでは,いろいろな情報を「見える」形にする『情報デザイン』の基本的要素のひとつである「情報伝達やコミュニケーションの要件及び手法」が効果的であると考えて,指導計画に取り入れた。
2.2年次「課題研究」の計画
 次のようなグループワークを通して,課題を見つける「視点」を養い,研究を進める方法を体験的に学ぶ。

1.課題研究への導入
 「スパゲティをどこまで伸ばせる!」と題してスパゲティカンチレバーを行い,この科目の目的を説明する。
2.情報を読み解く
 図書室や新聞・ニュースなどから情報を収集し,読み解かせる。
3.意見や発想をまとめる
 集めた情報をもとに各自の意見や発想を出し合い,まとめさせる。
4.体験学習
 視野を広げるために,夏季休業中に校外での施設見学・インターンシップ・ボランティア活動などからいずれかを行うことを義務付け,そのための計画と準備,体験の発表を行う。
5.課題発見・問題解決
 短時間で行える実験(例:PaperTower,Egg Dropなど)を行い,問題解決のサイクル(やってみる→振り返る→気付く→考える→改善する)を体験的に学ぶ。
6.3年次のテーマ探し
3.スパゲティをどこまで伸ばせる?
 新年度が始まった4月早々に,「課題研究」の導入としてスパゲティカンチレバー(Spaghetti Cantilever)を実施したので,その実践を紹介する。

(1)スパゲティカンチレバー

 茹でていないスパゲティをテーブルの端からつないで片持ち梁にし,その水平距離を競う(図1)。

図1 スパゲティカンチレバー
▲図1 スパゲティカンチレバー

(2)この単元のねらい

 カンチレバー(片持ち梁)は,本来は材料力学の基本問題だが,ここでは力学の定量的な検討を行うことを目的としていない。
 スパゲティは自重で下方向にたわんだり,バランスが悪いと根元で折れたりするが,「どのようにすればスパゲティを水平方向に長く伸ばせるか」を次のステップで実施する。
  • グループで検討する。
  • 実際にやってみる。
  • どうすればもっと記録が伸びるかをグループで検討する。
  • 改善策をやってみる。
  • 1〜4を各自で振り返る。
  • 各自の振返りをグループとしてまとめる。
 ある課題を解決する上で,「こうすればうまくできる」と思っていたことが予想に反していたときに,グループで協力して新しい発想を取り入れたり,別の視点で課題を見てみたり,各自の意見をまとめたりする必要が出てくる。
 楽しそうな活動の中で研究の要素である【予測,実験,検証,再実験】を体験し,振返りを行うことによって学びにつなげることをねらいとしている。
4.実践
目標 スパゲティカンチレバーの作製を通して「こうやったらうまくできるだろう」という所期の予想と結果のギャップから課題に気付き,改善する過程で,「予測」「実行」「検証」「改良」のサイクルの大切さに気付き,研究を進める手順を概観できるようにする。
時間 活動 ルール 用意する教材
1 I.トライアル
  • グループ分け
  • ルールの説明
  • 実行
  • 計測と記録
  • 4人で1チームを編成する。
  • 机に貼りつけたストローにスパゲティを差込み,マスキングテープでスパゲティをつないで伸ばす。
  • 各チームにわたすマスキングテープは50センチとする。
  • スパゲティはストローの内側以外には触れてはならない。
  • 制限時間は15分。
  • スパゲティ:150グラム程度
  • マスキングテープ:1巻
  • ストロー:1本(タピオカ用)
  • ルール説明書
  • 作業シート(図2)
  • 振返りシート1(図3)
  • 振返りシート2
  • 個人まとめ(各自)
  • 巻尺
2 II.コンテスト
  • 作戦
  • 実行
  • 計測と記録
  • 各自で振返り
3 III.リフレクション
  • 振返りの班まとめ
  • 振返りの個人まとめ
(1)トライアル

 ルール説明の後,トライアルを行った。各班に記録係を1名決め,作業シート(図2)にどんな手順で進めたかを記録させる。

図2 作業シート
▲図2 作業シート

図3 振返りシート1
▲図3 振返りシート1

 テーブルに貼り付けたストローにスパゲティを差し込んでつないでゆく(図4)。

図4 スパゲティをつなげる
▲図4 スパゲティをつなげる

 トライアルの日に,すでに補強を考え始めた班もある(図5)

図5 補強の工夫
▲図5 補強の工夫

 制限時間の15分でトライアルを終え,計測を行った。この班の水平距離は50センチだった(図6)。しかし,計測を始めるときにスパゲティの自重で折れてしまう班もあった。

図6 トライアル
▲図6 トライアル

(2)コンテスト

 1週間後にコンテストを行った。トライアルの作業シートを各班に返却し,作戦をメモさせた。

図7 コンテスト
▲図7 コンテスト

 図7の写真は図6と同じ班のものである。記録は70.3センチで,トライアルよりも20センチ以上伸ばした。反対に,トライアルよりも短い記録となった班もあった。
 コンテストを行った後,各班の生徒は各自の振返りを付箋紙1枚に1項目,何枚でも気付いたこと(他班の良い点/失敗,自班の良い点/失敗)を書き,「振返りシート1」に貼る(図8)。

図8 振返りシート2
▲図8 振返りシート2

 1単位設定の科目なので,時間に追われ,他班の様子を観察する余裕はなかったようだが,しっかり書けている生徒もいる。

    他班の良い点

  • パスタの途中に柱となるパスタを差し込む方法。
  • 6班の最後の1本は良かった。
  • 他班の失敗

  • ひたすらにつなげていく方法。
  • パスタが重みに耐えられていなかった。
  • 自班の良い点

  • 途中で柱を組み込んだこと。
  • 最後の悪あがきが良かったと思う。距離がかせげた。
  • 前回の失敗を工夫して変えたところ。
  • 自班の失敗

  • 無計画に進めたところ。
  • 上のパスタ集は邪魔だった。重くなるだけでテープの無駄。
▲振返りシートの内容
5.リフレクション
(1)はじめから「班で振返ろう」だと,雑談に終わってしまう可能性があるので,各自が書いた振返りの付箋紙を持ち寄って,類似した意見を集め,振返りシート2に班としてのまとめを行う。
(2)トライアルとコンテストの記録,各自の気付いた点などを個人まとめに記入し,提出する。
6.おわりに
 今回はこの原稿の提出後にリフレクションを行うので,その紹介ができないが,体験を主として行うこのような授業では,リフレクションが最も大切だと考えている。
 「スパゲティを使って面白いことをやった」というだけで終わっては,学習として定着しないからである。
 「スパゲティを何センチ伸ばしたか」を問うのではなく,頭に描いた「考え」や「やり方」を形に表す上で,生徒同士の相互関係の中で互いに協力して「どうすればうまくできるか,失敗がどこにあったのか,それをどのように改善した結果,記録が伸びたのか」に気付き,そのプロセスから得た「知」をグループで共有することが今回の単元の目的である。
 日常生活では身近だが教材としては意外なスパゲティに対する親近性と新規性,一見して簡単そうな課題が予想に反してうまくできないというギャップ,グループで協力しなければ記録を伸ばせない状況の設定,このように計画することで楽しみながらも目的に沿って取り組むことができた。
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