ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.43 > p14〜p17

教科「情報」テキスト活用事例
「もっと知りたい」気持ちをはぐくむ副教材
─『情報最新トピック集 第2版 高校版』の活用─
東京都立東大和高等学校 佐藤 義弘
yoshi-sato@hi-ho.ne.jp
1.はじめに
 新しい学習指導要領も2009年3月9日に改訂・告示され,これからの情報科の姿が見えつつあるところにあると言えるでしょう。「情報A」にあたる内容は中学校に移行することになりますが,2単位の共通教科「情報」で扱う内容は今までどおり多岐にわたることになります。
 情報科が始まって7年となり,毎年入学する生徒のスキルなどは全体的には徐々に向上していると感じられますが,卒業した中学校の違いや家庭環境,生徒個人の趣味による情報科へのレディネスのバラツキが大きくなっているように感じます。これはスキル面だけではなく,情報に関わる知識事項についても同様です。
 授業を組み立てるときには,大部分の生徒が理解できる範囲で授業を構成することになります。もう少し深く説明すると面白い事柄などは,残念ながら踏み込めずに授業が進んでいくこともあります。ただでさえ扱う内容に対して少ない単位数ではやむを得ないことではないでしょうか。
 情報の授業で学ぶ事柄をすでに自分で学び理解している生徒や,学習内容に興味を持った生徒には物足りない授業となることもあるでしょう。
 先生方にとっても,これだけ幅広い「情報」の分野全体には得意・不得意があっても不思議ではありません。不得意な領域については日々研鑽されているとは思いますが,変化や進歩の激しい技術や社会の動向に合わせることもかなりの努力が必要です。教科書だけでは補いきれない部分があると考えておられる先生もいらっしゃるでしょう。
 情報を学ぶすべての生徒に役立ち,もっと学びたい生徒にも役立つものができないかと企画された副教材が『情報最新トピック集』(以下,『トピック集』)です。理科や社会科など他教科の資料集と同様に,教科書では足りない部分を補い,より深く学びたい生徒にも応える情報の資料集として企画されています。
 私はこの『トピック集』に企画から関わることができ,高校生にも十分理解でき,教科書より少し高度な内容まで取り入れた「もっと知りたい」気持ちをはぐくむ副教材になるように監修をさせてもらいました。
 本稿では,この『トピック集』の特長と,授業で活用する方法,その効果について紹介します。
2.『情報最新トピック集』の特長
(1)説明の補足と発展

 『トピック集』で取り上げているトピックは,教科書の目次を参考にして決めています。各社の教科書の索引を調べ,共通し取り上げられている項目の中からキーワードを選び,67トピックを精選しています。特定の教科書に準拠するのではなく,さまざまな教科書と組み合わせても役立つように作られています。そのため,授業でちょっと参照したい,説明を補足しておきたいような事柄がトピックとして掲載されています。
 各トピックは見開き構成になっていて,左ページは教科書に書かれているより少し詳しい内容を,右ページは場合によっては大学レベルの深い内容を,高校生でも読めるように取り上げています。
 それぞれのトピックはその方面に詳しいライターや記者の方に執筆してもらっています。最新の情報や技術動向を踏まえた記述と,図版を用いたわかりやすい説明は,日経パソコンなどでおなじみのものを高校生向けにしたものと考えていただくと良いでしょう。

『最新情報トピック集』の紙面
▲『最新情報トピック集』の紙面

(2)新しい技術やサービスへの対応

 インターネットを介して提供されるサービスは,毎年のように新しいものが登場し,流行を作っていくことがあります。近年ではmixiのようなSNSやYoutubeのような動画配信サイトなどが流行し,高校生でも利用できるようになっています。
 『トピック集』は2年に1度の改訂を予定しています。副教材には検定がないため,教科書より短期間で掲載することが可能です。たとえば,SSD(ソリッドステートディスク),ワンセグ,mixi,Youtube,ニコニコ動画といった新しい技術やサービスについての記述もあります。
 先生方にとっては生徒達が利用する新しいサービスについて説明や指導をするのに苦労されることもあると思いますが,『トピック集』には注意点を含め取り上げられています。
 現行の教科書については,今後改訂されない可能性もありますので,新しい技術やサービスについて取り上げることができるのは,副教材である『トピック集』だけかもしれません。

(3)具体的な企業名や商品名

 よりよい情報検索をするためには,GoogleやYahoo!の特徴などについて説明が必要ですが,教科書には掲載されていません。特定の企業名を教科書に載せることはできないからです。OS(オペレーションシステム)の説明でも,Mac OSやMicrosoft Windowsといった記載はありません。
 『トピック集』には,これらの企業名や商品名が掲載されており,具体的でわかりやすい説明ができます。MicrosoftやApple Computerは一つのトピックとして取り上げています。また,日本で大手のショッピングサイトとしてAmazonと楽天,インターネットサービスとしてYahoo!とGoogleを扱ったトピックもあり,教科書では扱えない身近な事象を読み解いています。デジタルオーディオプレーヤーのトピックではiPod nanoの構造を説明し,ユーザインターフェイスのトピックでは,Wiiリモコンなどをあげて,身近な機器にも目を向けさせ,理解を深めるようにしました。身近なIT企業や商品について理解することは,情報社会を考える上で役立つことでしょう。
3.授業での活用とその効果
(1)普段の授業で

 私は『トピック集』を,できるだけ普段の授業の中に取り入れるようにしています。高校時代の歴史の先生が資料集を活用して授業をされていた,あのイメージです。
 授業で補足しておきたいときに,「トピック集の○○ページに詳しく載っている」と伝えておくと,手軽に授業内容を深めることができます。
 私は授業で使うスライドに,教科書や『トピック集』の該当するページを示し,生徒の利用を促すよう心がけています。

教科書や『最新情報トピック集』のページを示したスライド
▲教科書や『最新情報トピック集』のページを示したスライド

 『トピック集』の内容を授業で案内するのは左ページが妥当だと思いますが,右ページには関連する踏み込んだ内容も載っていますので,興味のある生徒に読むきっかけを与えることにもなるでしょう。必履修の授業として扱うには難しい踏み込んだ内容に,興味のある生徒を触れさせることができれば,よりいっそう学ぶ意欲を高める可能性もあります。

(2)情報検索の授業で

 私は1学年で「情報A」を担当しています。情報検索も重要な授業内容であり,毎年工夫を重ねながら授業をおこなっています。
 1学期では「情報機器の発達とその仕組み」,3学期には「情報化の進展が生活に及ぼす影響」について,各自で検索させレポートなどにまとめさせる実習をおこなっています。情報検索ができない生徒はほとんどいませんが,検索キーワードが単語一つであるなど,まだまだ精度の高い検索ができるようになっていません。携帯電話の普及にともない,単なる意味調べのように情報検索を利用している実態も見受けられます。
 本来,教科「情報」で活用する情報検索は,検索を進めることによって内容の理解を深め,より深い内容にたどり着くことで学習効果を得ようとするものだと思います。生徒の様子を見ていると,単語一つで検索し,該当するWikipediaの内容を理解せずにそのまま書き写すようなケースもありました。電車の発車時刻や地図を調べる延長線上に,例えば「レポートのための」情報検索もあるかのようです。小・中学校を通して,「調べ学習」ではなく「見つけ学習」が身についてしまっているとも考えられます。
 Wikipediaは,信憑性の問題はあるものの,的確な内容も多々あります。Googleで一つの単語で検索すると,Wikipediaが1番目に表示されることも多くなりました。ただ,正確性を高めるために記述が詳細になった内容は,高校生が理解するには難解なものになっているとも考えられます。
 そこで,事前に検索しようとする事柄について,情報検索をさせる前に教科書や『トピック集』で調べさせることにしました。高校生にも理解できるような記述で見開きに情報が整理されているので,理解の度合いや興味によって読み進め,概要を把握することができます。

『情報最新トピック集』を授業で活用する様子
▲『情報最新トピック集』を授業で活用する様子

 この手順を追加することで,AND・OR・NOT検索を用いた精度の高い検索ができるような手順としました。ある程度理解が進んだ上で検索を始めることで,検索結果から必要な情報を容易に見つけられるようになると共に,より絞り込んで検索し,理解を深めることができます。あらかじめ概要を把握しておくことで,検索結果が多数表示されるときに,自分の必要としない情報をNOT検索で排除することに役立つようです。
 さらに,検索キーワードや検索結果から理解できたことを紙に書き出すように指導することで,レポートへの「コピー&ペースト」が激減しました。理解が深まり,自分の言葉でレポートを作成することができたからではないかと考えられます。

(3)発表の題材として

 『トピック集』は高校生にも理解できるような記述に努めていますが,限られた時間でわかりやすく説明するためには,重要なポイントを理解し,まとめることが必要になります。
 プレゼンテーションの実習が目的であるならば,情報検索よりも,何をどのように伝えたらよいかを検討することに時間をとるべきでしょう。
 『トピック集』は見開きページに1つのトピックですから,これを題材にプレゼンテーションをさせる実習も効果的です。『トピック集』で扱われている図版は,同じ内容で,一般書店で販売されている『キーワードで理解する最新情報リテラシー 第2版』のサイト※注1からダウンロードして利用することができるので,適切に図を用いたプレゼンテーションも可能になります。
 文章や図としてまとめられたものを利用することで,情報の検索・収集にかける時間を節約でき,プレゼンテーションの完成度を高めることに時間をかけることができます。
 同じトピックについて複数でプレゼンテーションするコンペ形式や,それぞれのトピックを個人やグループに割り振ってプレゼンテーションする分担形式でも,興味深い結果が得られるでしょう。
 相互評価をおこなえば,わかりやすい,興味深いといった表面的な評価だけでなく,プレゼンテーションとして伝えるべき内容が適切かどうかについても相互評価が可能になります。時間が許せばお互いのアドバイスを活かしてプレゼンテーションを改善するといった,PDCAサイクルによるさらなる向上も期待できます。
4.おわりに
 授業で活用されることが『トピック集』の本来の目的ですが,生徒自身が時間のあるときに,興味のあるページを気楽に眺めるといった扱われ方が,一番望ましい姿かもしれません。生徒の「知りたい気持ち」に応えられることが,一番の目的であるといえます。
 『トピック集』は高校生にも読みやすい資料集として企画され,数学や物理などの事前知識がなくても十分理解できるように配慮をしています。しかしまだ記述が難解な部分もあると思います。これはわかりやすさと内容の正確さについて論議を重ね,妥協できるレベルを模索した結果です。限られた紙面,載せたい内容とのバランスも考えたうえでのものですが,今後も改善を図っていきたいと思っています。
 また,トピックの追加や削除,整理統合も,改訂ごとにおこない,進化・進歩をつづけていく予定です。ご覧になった先生方のご意見も参考にさせていただきたいと思いますので,お気づきの点がありましたら日本文教出版※注2にお寄せ下さい。
注1:『キーワードで理解する最新情報リテラシー 第2版』ダウンロードページ
http://ec.nikkeibp.co.jp/nsp/dl/06228/index.shtml
注2:日本文教出版Webサイト「ご要望・お問い合わせ」
http://www.nichibun-g.co.jp/question/index.html
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る