ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.43 > p18〜p19

教科「情報」テキスト活用事例
『ひと目でわかる 最新情報モラル』の情報科の授業での活用について
千葉県立東葛飾高等学校 大橋 真也
1.この本はどうしてできたのか
 『ひと目でわかる 最新情報モラル』は,2008年の夏,日経BPソフトプレス(現在は日経BP社)とCIEC(コンピュータ利用教育協議会)の北海道支部と小中高部会との間で,いままでになかったような情報モラルの本を作りたいとの考えで書かれました。大学生向けに書かれたこれまでの難しい学術書ではなく,簡単に読めて,しかも学生の「情報モラル」の力を育てられるような本を目指して作られたのです。
2.この本のコンセプト
 この本を書くにあたって,執筆者の間で何度か話し合って,確認し合ったことがあります。これを知っていただくことにより,読者にもこの本の活用方法も理解していただけると思います。

(1)情報モラルよりも広い内容で書く

 この本では,大学で学ぶ「情報倫理」ではなく,小学校から高等学校で学ぶ「情報モラル」をベースにし,さらに大学生でも必要な内容を含んでいます。さらに「情報モラル」だけでなく,レポートの書き方やプレゼンテーションの方法,キャリア教育,環境教育など「情報モラル」の周辺に位置することも含んだ内容として書かれています。
 そのため高校生にとっては,高校の「情報モラル」の学習だけでなく,このようなレポート作成,プレゼンテーションなどの大学で必要となるスキルや知識についても効果的に学ぶことができるようになっています。

(2)「ダメダメ」は書かない

 いくつかの類書を見てみると,「〜してはいけない」,「〜はダメ」,「〜は禁止されています」など禁止事項ばかりを書いているものもあります。法律やマナーなどには,それができた目的があり,それらは必ずしもダメなことばかりを書いてはいません。そのような「ダメダメ」ばかりを書いた本では,生徒や学生が自分で読もうという意欲もなくなってしまいます。

(3)ポジティブな活用方法を書く

 それでは「ダメダメ」を書かずに何をかけばよいのか。それはポジティブな活用方法を書くことです。「わからないものには触るな」ではなく,それを理解し積極的に活用することによって,学校生活が有意義になることを積極的に書くことに留意しました。それはいままでの高等学校や大学の教育でもあまり行われていなかったことかもしれません。しかし,これからの情報教育を考えていくためには,こんなポジティブな態度を育成していかなければいけないと考えたのです。

(4)自学自習できるように書く

 当初この本は,大学初年次の学生を対象として書かれたため,この本を教科書として購入してもらい,この内容に関してディスカッションを行い,レポートやテストを行うことを想定して書かれています。大学では,教科書をじっくり読ませている時間はありません。この本を使って予習させ,内容について授業の中で活用するのです。そのため教科書としては薄く,かつ高等学校の副読本としても活用できるくらい安価な本として作成されました。また,読みたい内容から読めるように見開きで完結するように構成され,左ページは気軽に読めるような対話形式の文体で書かれています。

(5)必ずしも答えを提供しない

 この本には,必ずしも答えを用意していません。ケーススタディのような類書がある中で,この本はケーススタディ的な立場をとることをやめました。「情報モラル」は高等学校学習指導要領の中でも「育てる」ものであるからです。ケーススタディはそのケースには対応できますが,それを覚えるだけになりがちです。また,情報に関するトラブルの対応集のようになると,その知識を理解し覚えることが学習の主体となってしまいます。この本では,内容をもとに考えることを主体として書きました。

(6)確認テストができるようにする

 大学生の場合,この本をもとに確認テストを入学ガイダンス時に行いたいとの要望もありました。そのために,この本の確認テストをWeb上で受験できるように準備しました。
3.この本を高等学校で使うために
 この本を高等学校で活用するために,いくつかのアイディアを紹介します。

(1)左ページでディスカッション

 左ページの対話を読んで,「似たような事例に遭遇したことがないか」,「何が問題でこのようなことが起こったのか」,「このような問題のときは,どのように対応したらよいか」などについて授業内でディスカッションを行うことができます。また左ページの「考えてみよう」をもとに考えさせ,その結果を発表し合う活動も考えられます。

(2)左ページで調べ学習

 ディスカッションと同様に,左ページの内容だけで調べ学習を行い,発表し合う活動を行うことができます。例えば,「1-03 ケータイメールの件名,署名」では,「先生に課題についての質問したいときのメールを書いてみよう」という内容で調べ学習を行い,実際にそのようなメール文を作成させる活動なども考えられます。

(3)右ページをもとに授業

 右ページの授業と関連する項目をトピック的に取り上げ授業に活用することもできます。教科書には載っていない内容も多くあるので,教科書を補完するものとしても活用できることでしょう。

(4)授業の導入でのWebテスト

 情報の授業に入る前の導入テストや学期末の確認テストとして,Webテストを利用することも考えられます。またそのテストに関連して,事後や事前の授業としても,この本を授業資料として活用することができます。
4.おわりに
 この本を書きながら,編集者や他の執筆者から,知らなかったことがたくさんあったと言われました。どんなに詳しい情報科の先生でもひとりでは知っていることの限界があります。しかし,このような多くの先生方で書かれた本を資料として授業で使うことにより,生徒だけでなく,先生方自身が情報教育に新しい発見や驚き,興味を見つけることができるのではないでしょうか。この本がみなさんのそのような手がかりになれば幸いです。
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