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ICT・EducationNo.50 > p16〜p19

教育実践例
高等学校における地域間交流授業の紹介
─メーリングリストを活用したメディアリテラシーの学習─
新潟青陵高等学校 渡辺 菜緒美
メールアドレス
1.はじめに
 県外の学校と合同で授業を行うことは,通常の授業の一環としてはなかなか考えにくい。しかし,現代のネットワーク社会において,遠く離れた相手や顔の見えない相手とのコミュニケーションは,face to faceのコミュニケーション同様,ごく当たり前のことになっている。ネットワーク上で取るべき行動やネットワークを通じて入手できる情報の特性については情報の授業で扱われているが,実際に顔の見えない相手と接する経験は学校の授業の中では取り入れづらい。
 そこで本校では,平成23年度から「ローカルの不思議プロジェクト(※注1)」を通じ,離れた地域に存在する学校同士の交流授業に参加している。高校の部は京都女子高校の成瀬浩健先生がまとめ役となり,メーリングリスト(以下;ML)で地域紹介のメッセージを交換するという交流を行っている。オンラインのコミュニケーションを通じて,メディアの特性を意識させ,コミュニケーション能力の育成につながることを期待して参加している。
2.交流授業の概要
(1)参加校,参加生徒
 平成23年度は京都女子高校,東京都の明星高校,そして新潟青陵高校の3校で,平成24年度は京都女子高校,茨城県立石岡第二高校,本校の3校でMLを活用した交流授業を実施した。参加生徒数は約500名を数えるが,各校からの参加者が均等になるように約20名ずつのグループに分け,グループごとにMLを構築している。したがって,同じグループ内に全く知らない他校の生徒と名前や顔を知っている同じ学校の生徒が混在している状態になり,どんな知り合いが見ているかわからない,オンライン上でのコミュニティと似たような状況をつくることができた。

(2)授業計画
 この交流授業は各校とも通常の情報の授業の一部を使い,期間を限定して実施している。本年度は11月から2月までの約4か月の間で,5〜6時間分を交流のための実習時間に充てた。この間,生徒達はメイン課題となる地域紹介メールを含め,一人あたり4回,MLに投稿する予定になっている。授業計画を表1に示す。
授業内容
・MLのしくみ
・メーラの使い方,署名設定
・メール送信(話題:自己紹介・学校紹介)
・メール送信(話題:京都・茨城と言えば○○)※相手地域に対するイメージを交換
・相手から届いた新潟のイメージを読む
・新潟を紹介する写真つきメールの計画書を作成
・取材にあたっての注意
 (写真撮影時のマナーとモラル)
・写真のリサイズの必要性と方法の習得
・メール送信(話題:地域紹介…自分が肌で感じる新潟の見どころ)
・メール送信(話題:感想)
・振り返り
▲表1 授業計画

(3)実習環境の設定
 この授業では,生徒が個々のメールアドレスを持っている必要がある。本校では,ホスティングサービスを利用して臨時の授業用メールアカウントを作成した。また,メーラは無料で設定も手軽な「Thunderbird Portable(※注2)」を利用している。なお,各グループのMLは,京都女子高校の成瀬先生がご自分のサーバを利用して構築して下さっている。
3.授業実践

[第1時]自己紹介メールの送信
 交流授業の意義・計画について説明したのち,メーラの設定を行った。本校の生徒はPCメールを利用した経験が少ない。携帯メールでは曖昧になっている件名の扱いや本文書き出しのマナーについて説明し,署名を自動添付する設定を行った。設定後,挨拶と自己紹介を入れたメールを作成,送信させた(図1)。どのような文章にするかは生徒に任せたが,「こういう書き方でいいのか(伝わるか)」と意見を求めてきたり,近くの席同士で確認し合う生徒も多かった。各自が自発的に丁寧な表現を意識しようとする姿が見られた(図2)。なお,交流授業全体を通して,実習中は五つのルールを守って参加するよう,3校共通で指導している(図3)。
図1:自己紹介メールの作成例
▲図1 自己紹介メールの作成例

図2:メールを作成する生徒の様子
▲図2 メールを作成する生徒の様子

<ML実習でのルール(要点)>
1.個人情報を必要以上に出さない。
2.失礼のない表現方法を選択
3.個人を特定できる写真の添付禁止
4. 返信に対してはお礼のコメントをつける。
5.個人的なメールのやり取りはしない。
▲図3 参加校共通の五つのルール

[第2時]地域イメージの交換
 2回目のメール送信では,「茨城と言えば○○」のように,相手校の地域について持っているイメージを書いて投稿した。同時に相手校からも新潟に対するイメージが送信されてきており,お互いに相手の住む地域に対して抱いているイメージを知らせ合う。
 本校からの京都に対するイメージは,小中学校の教科書や修学旅行などで得た経験をもとにして,「舞妓さん」「お寺や歴史的建造物」「八ツ橋」「抹茶」「新撰組」など,さまざまなイメージがあった。茨城に対するイメージは,主にテレビからの情報をもとにした「納豆」「水戸黄門」などが圧倒的であった。また,他県出身の芸能人を茨城出身として勘違いしている例もあったが,敢えて指摘をせず,生徒同士のやり取りの中で気づいていけるようにした。「茨城についてはよく知らないので教えてほしい」という投稿も目立った(図4)。
図4:地域イメージメールの例
▲図4 地域イメージメールの例

 この「イメージ交換」は,単に生徒同士の交流を深めるだけでなく,次の課題メール作成の下地作りとしての役割もある。交流相手が持つ予備知識を知ってお くことで,相手の存在を意識することができ,コミュニケーションの一部としてふさわしい内容や表現方法を検討させることができる。

[第3時]地域紹介の題材検討
 相手校から届いたメールを読み,新潟がほかの地域からどのようなイメージを抱かれているかをまとめた。新潟に対するイメージは「豪雪」,「米・コシヒカリ」が圧倒的に多く,生徒からも「やっぱり米や雪しか言われない」という感想が挙がった。
 続いて,自分が送る地域紹介メールの題材を検討させた。ほかの地域からも挙げられた「新潟と言えば米・雪」というステレオタイプは,新潟に住む本校生徒達自身の中にも根強く存在しているようで,「送られてきた地域イメージは本当のことだから,何を取り上げたらよいかわからない」という発言もあった。これらの「米」や「雪」のイメージはテレビや学校の教科書を情報源としている例が多かった。
 そこで,雪や米がその情報源でどのように伝えられているか考え,それらが実際の新潟の生活の中にある様子とどう違うか意識してみるように働きかけた。 最終的には,雪というテーマから積雪量の県内地域差に着目したり,信号機の向き(新潟の信号機は積雪の重みに耐えるため,赤黄青が横並びではなく,縦並びになっていると言われている)に焦点を絞った例もあった(図5)。
図5 信号機を紹介したメール
▲図5 信号機を紹介したメール

 このテーマ設定までは2学期中に行い,取材(写真の準備など)は冬休み中に各自で行わせた。期間中,県内のテーマパークに取材に出掛けるなど,意欲的に準備をする生徒もいた。写真は携帯電話のカメラ機能やディジタルカメラを使って撮影したものを提出させることとした。

[第4時]地域紹介メール作成
 最近のディジタルカメラは画素数が増え,生徒が用意した画像はサイズがかなり大きい。そこで課題メールの作成の前に,画像をネットワークを使って送信する際に適切な大きさにリサイズする方法を取り上げた。画像をペイントで開き,サイズ変更の画面で長辺を250ピクセルに変更するという方法で処理した。
 続いて,第3時で考えた構成に基づき,写真を組み入れたメールを作成した(図6)。それ以外にも,「米を使った食べ物」,「暖房・防寒具いろいろ」などをテーマにしていた(図7)。
図6 地域紹介メールの例1
▲図6 地域紹介メールの例1

図7 地域紹介メールの例2
▲図7 地域紹介メールの例2

[第5時]感想メールと振り返り
 交流授業の最後に,地域紹介メールの感想を送り合う時間を設定した。また,実習全体を振り返って学んだことをプリントに記述させる予定である。昨年度の生徒の感想からいくつか紹介したい(図8)。

・他県の人とメールができて,とても楽し
 かった。新潟のことを伝えることで,新た
 に新潟の魅力を発見できた。
・東京も京都も行ったことがあったが,その
 土地の違った顔も見られて楽しかった。
 メールを送るときの大切なことを学び,普
 段のメールへの意識も少し変わった。
・自分の地域のことをわかりやすく伝えよう
 としてくれる相手のメールを見て,新潟を
 もっと知ってもらいたいと思うようになっ
 た。
▲図8 生徒の感想
4.生徒の学び( 平成23年度の実践から)
 振り返りにおいて,生徒に「メールを利用したコミュニケーションで,情報の送り手として配慮すべきこと」を記述してもらうと,以下の三つの観点にまとめることができた。

<メディアの特性に関すること>
  • メールだと相手の受け取り方次第でどうにでも取られるので,注意深く,言葉を選ぶことが大切。たかがメールでも送信してしまったらおしまいなので,何度も読み返して間違いがないかを探すのも大切。
  • 送信者や一部の人だけがわかるような言葉や表現をするのをやめて,見ている人が嫌にならないように配慮する。

<表現の工夫に関すること>
  • 改行や句読点を使って見やすくする。
  • 挨拶などのマナーを忘れない。
  • まず相手を思いやることが大切。相手に短文でそっけないメールを送ったら,相手はきっと嫌な気持ちになる。

<表現する内容に関すること>
  • 実際に自分で取材し,真実を伝えること。自分が体感した上で伝えることが真実の情報だと思う。
  • 間違った情報を教えない。
5.終わりに
 普段身近な友人同士で携帯メールや掲示板などを利用している生徒達が,顔も知らない相手が存在するネットワーク上でどのように行動を取るのか。毎年不安を抱きつつ指導にあたっているが,生徒達は予想以上に節度を守って交流できている。画面の向こうに見えない受け手がいることを意識しながら,それにふさわしい表現を考えてパソコンに向かっていた。そういった“相手を思いやる気持ち”が円滑なコミュニケーションにつながることに,体験的に気づいてくれたと感じている。
※注1: 全国各地の高校生・大学生が,自分達の住む地域について紹介するプレゼンテーションや映像などを制作・交換することで,互いの地域について理解を深めていくプロジェクト。メディアを通じて表現・伝達するメディアリテラシーの観点と,異文化理解の観点を併せ持つプログラム。詳しくは「ローカルの不思議プロジェクトサイト」(http://www.local-mysteries.net/)参照。
※注2: PortableApps.comが配布している。詳しくは,http://portableapps.com/support/
thunderbird_portable
 を参照。
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