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ICT・EducationNo.50 > p20〜p23

教科「情報」 テキスト 活用事例
「情報社会と問題解決」を授業する
聖母被昇天学院中学校高等学校 岡本 弘之
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1.はじめに
 平成25年度から実施される「社会と情報」の学習指導要領では,「(4)望ましい情報社会の構築」の中に「ウ 情報社会における問題の解決」の項目が新たに設けられ,問題解決(※注1)の各段階で,その方法の知識・技能も含めて修得させることが求められている。来年度からの教科書にもこれに対応する単元が設けられている。
 そこで本稿では,勤務校での問題解決の実践を紹介し,来年度からの「社会と情報」で問題解決の授業を実践する上での工夫を紹介したい。
2.授業の流れ
(1)授業の企画
1)授業の設計
 問題解決の授業を企画する際の流れについては,教科書の以下の図がわかりやすい(図1)。
図1  問題解決の手順(日本文教出版「社会と情報」p.153より
▲図1  問題解決の手順(日本文教出版「社会と情報」p.153より)

 勤務校での問題解決の授業の流れは,まず生徒が取り組めるような身近な課題(問題)を提示,課題の現状分析,グループで解決提案を検討,関係者に向けてプレゼンテーションするというプロジェクト方式で進めている。
2)どのような課題を設定するか
 これはいつも苦労するところである。生徒が身近に感じ,実際に問題が存在する課題が望ましく,かつ多くの解決方法があり,そして解決提案の効果が目に見えるもので…といろいろ考える。
 ちなみに今までの課題は,以下の通りである。
・(新入生が校内で迷っているので)校内の案内表示をど
 うすればいいか提案しなさい。
・学校を活性化させるための企画・提案(学校行事)を考
 えなさい。
・(学校の食堂は利用が減少しているので)利用者を増や
 すための企画を提案しなさい。

 毎回,条件に合う課題を選ぶのに苦労している。生徒の意欲を喚起するため,授業のための課題ではなく,実践的な課題になるよう心がけている。

(2)授業の展開
 本稿では24年度に実践した「学校食堂の現状分析を行い,改善案を企画し,食堂に対しプレゼンテーションする」という7時間のプロジェクト方式の授業について紹介していく。
1)問題の発見と明確化(1時間)
 最初に課題を提示し,生徒を座席別に4名ずつのグループに分けた。最初に現状分析として,個人作業で「学校食堂のいいところ(強み),課題(弱み)」の両方を各三つずつワークシートと付箋の両方に記入させた。これを準備した上でグループに分かれ,似た内容ごとに付箋を使って整理するKJ法の手法で話し合いをしながら,分類・整理させた。授業の最後に各グループから1分程度で発表を行い,クラス全体でも分析を共有させた。
 現状分析の際に,今回はグループでのKJ法(図2)を用いたが,個人で分析・整理させる際にはイメージマップ(図3)も有効である。
図2 KJ法の実習風景
▲図2 KJ法の実習風景

図3  現状把握のイメージマップの例(日本文教出版「社会と情報」p.155より)
▲図3  現状把握のイメージマップの例(日本文教出版「社会と情報」p.155より)

2)解決案の検討(1時間)
 解決案を考える段階でより多くのアイディアが出るよう,ブレーンストーミングの手法を用いた。前時と同様に個人で付箋に意見を書かせた上で,「相手の意見を否定しない,数多くアイディアを出す」というルールを説明し話し合いをさせた。話し合いの中でより新しい意見が出るよう,そこで出た意見は違う色の付箋を使って明確化させた。ここでもKJ法を使ってアイディアを整理させ,各グループ1分程度の発表をさせることで,そのアイディアを共有させた(図4)。
図4 授業で示したブレーンストーミングのルール
▲図4 授業で示したブレーンストーミングのルール

3)解決策の立案・情報収集(3時間)
 拡散的思考で出されたアイディアを,実現可能性や優先順位などの基準で絞り,グループで採用する解決案を考えさせた。解決案が決まれば,説得力を持たせるため,現地調査・生徒アンケート・他校の事例調査・関係者の取材・需要調査などの方法(図5)を示し,解決案を実施した場合のメリット・デメリットも考えるよう指示した。
図5 調査の方法(日本文教出版「社会と情報」p.92より)
▲図5 調査の方法(日本文教出版「社会と情報」p.92より)

4)プレゼンテーションの実施(1時間)
 1)〜3)でまとめた解決案のプレゼンテーションを,実際にその策を実施してもらう学校食堂責任者の前で行った。実社会でよくある「クライアントに自分の提案を採用してもらうためにプレゼンテーションを行う」イメージである。
 今回のクライアントに当たる責任者も「食堂に来る生徒を増やす提案」には魅力を感じ「よいアイディアがあれば採用したい」と積極的に協力してくれた。実際に23年度には生徒の企画が採用されている(図6)ので,プレゼンテーションが本格的に企画を提案する場となっている。
図6 生徒の提案が採用されたバイキングデー
▲図6 生徒の提案が採用されたバイキングデー

5)評価(1時間)
 評価についてはプレゼンテーション後に食堂責任者にコメントをもらい,またプレゼンテーション実施時に,内容・態度・スライドの表現・説得力の4観点で相互評価・教員による評価を行った。これらの評価を返した後,自己評価を行い,自分達のプレゼンテーションについて振り返りをさせた。ここでも,教科書の図などを参照させ,イメージを湧かせるとよい(図7)。
図7  自己評価シートの例 (日本文教出版「社会と情報」p.159)
▲図7  自己評価シートの例 (日本文教出版「社会と情報」p.159)
3.結果
 生徒が実際に,食堂にプレゼンテーションした企画のいくつかを紹介したい。

1)温かいみそ汁やスープを販売する
 「食堂を利用しない弁当持参者をどう巻き込むか?」という問題意識から,「弁当持参者でも欲しくなるものを販売すればいい」ということを考え,「弁当は冷たくなるから,温かいものを売れば売れるはず」という仮説を立てた。販売方法も事前に作っておき,お金と引き換えにコップを渡して自分で注ぎ入れるセルフ方式ならデメリットも少ないことを提案した。

2)食堂新聞を作る
 現状分析で「食堂に行ったことがない」生徒が予想以上に多かったことから,「食堂について知ってもらい,『行ってみたい』と思わせる仕掛けが必要」と考え,「食堂新聞を作りメニューなどを紹介すれば『食べてみたい』と足を運ぶ人が増えるはず」という仮説を立てた。新聞の作成も生徒会の新聞委員会に毎号紹介してもらえばデメリットが少ないことも提案した(図8)。

3)ポイントカードを作る
 「一般の店はどうやってお客を増やしているのか?」という問題意識から調査し,「ポイントカードにすればリピーターが増える」と仮説を立てた。値引きの場合とポイントカードの場合を比較し,その利点を強調した提案を行った(図9)。
図8 生徒が提案を行ったプレゼンテーションスライド例1
▲図8 生徒が提案を行ったプレゼンテーションスライド例1

図9 生徒が提案を行ったプレゼンテーションスライド例2
▲図9 生徒が提案を行ったプレゼンテーションスライド例2
4.考察

 学習指導要領解説の「情報社会における問題の解決」の項を見ると,「問題解決」の授業のポイントは次の4点に要約できる。
(1)問題解決の基本的な流れの理解
(2)身の回りの具体的な問題を解決する課題
(3)問題解決の方法に関する知識と技能習得
(4)解決案を実践しての検証
 以下,これらの観点から今回の実践を考察していく。

(1)問題解決の基本的な流れの理解
 これは知識として身につけるのではなく,この流れを教員が理解した上で授業を設計し,生徒には体験的に理解させる方がよい。本実践でも生徒が体験的に理解できるよう授業を構成した。

(2)身の回りの具体的な問題を解決する課題
 生徒が自ら問題を発見することが理想だが,教員の側であらかじめテーマを設定し,そこに自然な形で誘導した方がよい。
 本実践でも「生徒が身近に感じ,実際に問題がある課題が望ましく,かつ多くの解決方法があり,そして解決提案の効果が目に見えるテーマ」として2年連続で学校食堂を選んだが,日本文教出版「社会と情報」,「見てわかる社会と情報」の各教科書で例示されている「図書館の活性化」,「文化祭の活性化」など,学校の中にはいろいろな取り上げられるテーマがあるように思う。
 身近なテーマ設定は生徒の問題意識や問題解決的な視点を育てることにつながる。例えば今回の実習を終えた後,生徒会執行部は食堂で働く人を朝礼で紹介したり,新聞委員会は食堂に関するアンケートを行うなど,授業後も「何か改善できないか?」という意識が残った。

(3)問題解決の方法に関する知識と技能習得
 本実践では,付箋を使った話し合いやKJ法,ブレーンストーミングといった方法,適切なグラフの選び方や見せ方などの問題を解決するためのさまざまな知識や技能について指導した。
 これらの方法を教えることで生徒の話し合い・プレゼンテーションは大きく変わる。例えば話し合いの場面では,従来は参加しない生徒がいたり,一つの意見が出たらそれ以上意見が広がらなかったことも多かったが,付箋やブレーンストーミングの手法を使うことで,全員が参加し,出される意見の数が増え,それに伴い企画の質も向上した。

(4)解決案を実践しての検証
 理想的には企画のプレゼンテーションで終わるのではなく,実際に案を実践させるところまで行い,効果の検証まで実施したい。時間と関係者との調整は必要だが,次年度の実践に向け改善したい。
 以上実践しての振り返りについて課題も含めて述べてみた。これから問題解決の授業を作られる際の参考になれば幸いである。

 最後に筆者のこれまでの実践は,本実践のプリント・スライドも含め,Web上で公開している。
「情報科の授業アイディア」http://www.okamon.jp

※注1:「 ウ 情報社会における問題の解決 問題を解決する方法については,問題の発見と明確化,分析,解決策の検討,実践,結果の評価などの問題解決の基本的な流れを理解させ,身の回りにある具体的な問題を解決する例題や実習によって,情報機器や情報通信ネットワークの適切な活用を通して,問題を解決する方法に関する基礎的な知識と技能を習得させる」(文部科学省 2010「高等学校学習指導要領解説情報編」 p.25-26 開隆堂出版)

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