ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.50 > p24〜p27

教科「情報」 テキスト 活用事例
コミュニケーションの本質を考えさせる
─「見てわかる社会と情報」を活用しながら─
兵庫県立東灘高等学校 小田 真樹子
メールアドレス
1.はじめに

 日本文教出版の「見てわかる社会と情報」(以下;教科書)は,その名の通りイラストを主体とし,最低限度の本文とキーワードに関する事柄は吹き出しなどを用いて説明している教科書である。視覚に訴えることで,教科書に例示されている内容や複雑な事柄を理解しやすくすることができる。
 ここでは,「情報通信ネットワークの活用とコミュニケーション」の分野を例に,授業展開の方法を探ってみたい。

2.さまざまなコミュニケーション手段
(1)コミュニケーション手段の変遷
 教科「情報」がスタートした頃は,教科書に記載されていたコミュニケーション手段は,手紙,電話,FAXに加えて,インターネットを利用したWWW,電子メール程度であった。ところが,教科「情報」が新設されて約10年が経過した今日では,インターネットを利用したコミュニケーション手段だけでも,SNS,ブログ,Twitter,携帯端末を利用したテレビ電話など,さまざまな方法が用いられるようになった。生徒達も大人以上にこれらの情報コミュニケーション手段を活用し,それによって友人関係を構築している。
 一方で,生徒同士のトラブルにおいてもこれらのコミュニケーション手段が大きく関わっていることが多い。よって,コミュニケーション手段の概要だけでなく,利用方法,利用時の注意点なども合わせて理解させることが必要である。

(2)教科書のイラストから理解させる
図1 さまざまなコミュニケーション手段(p.117)
▲図1 さまざまなコミュニケーション手段(p.117)

 教科書第4章第1節では,情報ネットワークを用いたさまざまなコミュニケーション手段を例示し,「目的や場面に応じて,適切な手段を選ぶこと」を理解させるために,それぞれのコミュニケーション手段の活用例を記載している(図2)。
図2 ブログの活用例(p.119)
▲図2 ブログの活用例(p.119)

 生徒達はこれらのコミュニケーション手段を活用しているように見えるが,設定方法の詳細や専門用語についてまで理解しているのであろうか。一例を挙げると,大多数の生徒がブログやSNSを利用しているが,その中で,トラックバック,フィードといった用語が「掲載内容を日記に関連づけること」,「更新状況がわかる機能」であると説明できる,あるいは理解している生徒はまだまだ少ない。
 教科書のp.118-119では見開きで,「電子メールの送受信」と「ブログやSNSでの情報発信」がイラストを用いて紹介されている。さらに,「自分の見せる情報を相手に合わせて変えられる」アクセス制限の機能も紹介している。キーワードの説明とイラストがあるので,教室での座学における資料提示に役に立つ(図3)。
図3 アクセス制限の例(P.119)
▲図3 アクセス制限の例(P.119)

(3)言語的に理解させる
 大部分をイラストで例示というと,新学習指導要領のいわゆる“脱ゆとり”に逆行するような印象を受けるかもしれないが,第一印象として文字の羅列よりも画像による視覚的効果が期待できる生徒層は確実に存在する。
 導入部分は視覚的効果から入るとしても,生徒の理解をさらに深めさせるためには,言語的に確実に理解させることも重要である。
 例えば,本文のキーワード説明の補足として,「トラックバックは,あなたのページを私のブログにリンクしましたよ,あなたのブログを紹介しましたよ」というお知らせであると,噛み砕いた表現にすることや「友達のブログの更新通知をメールで受け取っている人もいるよね? RSSと同じようなことだよね」と,生徒の実体験に置き換えて説明する。その際には各学校・クラスの生徒の様子を見ながら例えを考えるようにしたい。特に,情報通信技術を用いたコミュニケーション手段は周囲の友人から影響を受けて広がっていくので,どのようなツールが生徒間で使用されているのか,授業前の生徒の雑談などからもヒントを得ることができる。そのヒントから例示する内容を学年やクラスによって柔軟に変更している。
 また,授業の導入として,「どのようなSNSを知っているのか?どんなSNSを利用しているのか?機能を理解しているのか?」などの簡単なアンケートや問いかけを行うことによって,授業で取り組む内容や理解すべき内容を事前に提示しておくのも効果的である。

(4)用語を定着させる
 本文はイラスト中心であるが,各章の終わりには用語解説のページとは別に「内容の整理」として,学習のキーワードとなる文章が短文で記載されている。
 この「内容の整理」を活用すれば,授業のまとめとしての確認をする簡単な復習テスト・小テストなどから,定期考査にまで応用できる。単なる用語解説ではなく,短い文章で書かれているため文脈の中で重要なキーワードをとらえさせることが可能である(図4)。
 すなわち,この教科書はキーワードとなる重要な用語とその説明が簡潔に記載されているシンプルな構成であるため,ある意味,教員の好きなように脚色して授業を展開することができるのである。教科書自体は絶大なインパクトを与えるイラスト主体の構成であるが,それに「味つけ」を行うのは教員であり,その手腕が問われる。教員の意欲を掻き立てられる教科書である。
 味つけが難しく感じられる単元では,先ほど紹介した内容の整理や章末問題,教科書準拠問題集やワークシートなどを活用し,生徒達の基礎学力の定着を図ることに重点を置いてもよい。
図4 内容の整理「ブログやSNSでの情報発信」(p.145)
▲図4 内容の整理「ブログやSNSでの情報発信」(p.145)
3.実習

 次に,コミュニケーション実習の一例を挙げておく。情報通信ネットワークがいかに発展しようとも,パソコンや携帯電話,スマートフォンなどの画面の向こう側にいる人を常に意識しなければならない。コミュニケーション手段によっては,相手の表情や様子がすぐにわからないものもある。
 特に,最近の生徒の様子を見ていると,携帯端末を利用して,その場の思いつきや感情でブログやSNSに投稿する例が数多く行われているようである。よく考えずに投稿することによる人間関係のトラブルが後を絶たない。次に紹介する実習は,道案内を利用し,コミュニケーションの本質を考えさせるものである。

(1)準備
 1クラスを1グループ6〜7人のグループに分ける。各グループの中から代表者を1人選ぶ。各グループの代表者1人を別室や廊下に呼び出しルールを説明する。その間に教室に残った生徒には机や椅子の配置を図5のように変更させ,代表者を囲むように移動させておく。また,B4のクリアファイルに2枚の地図を入れておく。最初は裏面のみが見える状態で表面には紙を貼って隠しておくようにする。
図5 机と生徒の配置
▲図5 机と生徒の配置

 地図の表面は,よくある路線図を利用する。生徒達が土地勘のない地域であり,複数の路線があるものを選んだ。路線毎に色分けされ,カラー印刷ができればなおよい。本校では,札幌市営地下鉄の路線図(※注1)を利用している。現在,代表者がどの駅にいるかには印をつけておき,何処の駅に行きたいかは表面の地図の横に記載している。
 裏面は,翻訳サイトを利用して路線図にある駅名を外国語で表示したものである。地図は上が北ではなく,上が東になるように向きを変え,さらに白黒の表示とする(図6)。
図6 路線図の裏面(一部)
▲図6 路線図の裏面(一部)

 英語や英語に近い言語,漢字を用いる言語などは生徒が内容を容易に想像できるので使わない。今回作成したのは韓国語版である。翻訳サイトを利用して容易に変換でき,文字数も少なく表示できるためであるが,一見して何が書かれているかを識別できない言語であれば,どんな言語に置き換えてもよい。昨今の韓流ブームでハングルを理解できる生徒も増えてきたため,ほかの言語に置き換えることも検討している。

(2)実習開始
 代表者にクリアファイルを手渡す。この時点では,表面は紙で隠されて見えない。代表者には,「あなた達には迷子役をしてもらう。現在居る場所は,黒い丸印の部分である。グループのメンバーから道案内を受けるので,わかったら手を挙げるように」という指示を告げる。ルールは次の通りである(図7)。

・表面を見てはいけない。
・裏面をほかのメンバーに見せてはいけない。
・「はい」,「いいえ」,「わかりません」以外の言葉を発し
 てはいけない。
・自分が何処に行くかがわかれば手を挙げて先生を呼び,
 その場所を指し示す。
▲図7 実習におけるルール

 ほかのメンバーには,「代表者が迷子になったので,道案内をしてほしい」と告げる。迷子の人がどの駅からどの駅に行きたいのかは,地図に書いてあると伝える。

(3)道案内
 代表者が教室に戻り,表面を覆っている紙を取り外すと道案内開始である。
 最初は,大概「○○線に乗って,△△駅で乗り換えて…」との説明が行われる。迷子役の代表者は裏面に書いてある文字が理解できないので,「わかりません」という言葉が連発される。
 次の段階での説明では,「北に向かって…」と方角の表現や「青色の路線に乗り換えて…」など色の表現が出てくることが多い。この段階でも迷子役には伝わらない。中には,案内役の生徒がイライラしたり,迷子役の生徒が申し訳なさそうな思いをすることもあるが,「見ている地図が違うのかもしれないね,表現方法を変えてごらん」と案内役の生徒達にヒントを出す。もちろん,ヒントを出す前に,「見ている地図が違うのでは?」と気づく生徒もいるし,早々と「二つの路線が交わる駅で乗り換えて,いくつ目」と機転を利かせる生徒もいる。早く解答がわかったグループには,表面と裏面を見比べさせて,どこが違うかを確認させる。答えの出ないグループの様子を見させて,アドバイスを出させるようにさせるとよい。

(4)実習のまとめ
 この実習の重要なポイントは,コミュニケーションの本質は,自分がどう伝えたかではなく,相手にどう伝わったか?を理解させることにある。今回の実習では,ポイントは次の三つになる。
 ・言語が違う
 ・カラーか白黒か
 ・地図に記載されている方角の向きの違い

 これらの違い以外にも文化や風習などによって,自分が考える意図とは違った形で相手に伝わってしまうこともある。パソコンや携帯の画面を通しても常に画面の向こうにいる人を意識しなければならないということである。その意識は今後何年経とうとも,情報通信技術がどれだけ発展しても変わらないことではないだろうか。
4.最後に
 直感的に理解できる教科書を使用することで,生徒の関心が高まる期待を持てる。そして,その関心をさらに発展させるように,教科書のより効果的な活用法や,関心を知識に結びつけ定着させるための実習方法などを,日々進歩する情報技術や環境変化していく生徒の様子を鑑みながら対応していくことが求められている。
※注1:札幌市交通局の許諾を得て路線図を若干改変し利用している。
http://www.city.sapporo.jp/st/subway/route_time/documents/rosenzu.pdf
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る