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ICT・EducationNo.9 > p6〜p12

教育実践例
学校の情報化推進のためのネットワーク研究開発事業報告
−商業の特性を踏まえた情報教育−
愛知県立豊橋商業高等学校 大河内 俊範
admin@toyosho.toyohashi.aichi.jp
http://www.toyosho.toyohashi.aichi.jp/
1.本校の概要
 本校は募集時一括280名の定員です。2年生から「商業科」「国際経済科」「経理科」「情報処理科」の4つの専門学科に分かれ,それぞれの専門的な知識・技能の習得を目標としています。「以信為本」の建学の精神を受け継ぎ,創立百周年を5年後に控え,今まで以上に地域に開かれたビジネス教育の展開を大切にしたいと考えています。以下にいくつかの実践例等を報告します。

豊橋商業高等学校
▲豊橋商業高等学校
2.本校の情報に関するインフラと教育課程
 本校は平成10年度より3年間,文部省の研究指定を受け,学校内に順次配備されたLANを統合して,イントラネットとしてシステムを構築してきました。
 校内LANは,教員系と実習室を中心とした生徒系の2系統があります。この2系統を統合する形で,コンテンツベースの教材や進度計画,生徒交流の場などを提供する内部Webサーバとマルチメディアデータベースが構築されています。これらの利用に当たっては,利用者ごとにオンラインヘルプを用意したり,ネチケットや利用ルールを徹底させたりするとともに,セキュリティや個人情報保護の認知を広く利用者に求めています。
 内部Webでは,授業の補助教材データベース,あるいは課題テーマやカテゴリィ,学習したいテーマの解説や事例,コンテンツ作成に必要な静止画や動画,gifアニメなどのマルチメディア素材,卒業作品としてのAccessのシステムや,プレゼン資料,通産省情報処理技術者試験の自学自習解説教材などが,「ナレッジデータベース」としてテーマ単位で構築してあり,この3年間でCD-R2枚を超えるデータが体系的に蓄積されています。本校のネットワーク構成については,8〜9ページの構成図を参照して下さい。
 1年生は「情報処理」にて,表計算,データベース,HTMLやメール,COBOLを全員が学習します。
 2年生では,情報処理科以外では,表計算応用,勘定系ソフトの利用を学習しています。情報処理科では高度情報化社会に対応するために広範な基礎知識を習得し,通産省情報処理技術者試験の基本情報処理技術者試験や同初級システムアドミニストレータ試験の合格を第1の目標としています。第2の目標は,インターネットビジネスなど高度情報化社会でのビジネスに関する情報処理技術の養成です。具体的には,表計算応用,Accessによるシステム開発,画像加工処理,マルチメディアコンテンツ作成,プレゼンテーションや勘定系ソフトの利用などの技術を目的に応じて使い分け,あるいはWindows上で連係編集できる技術を習得することです。
 高度資格取得での生徒の活躍はめざましく,平成10年度二種26名,シスアド11名,11年度二種27名,シスアド18名,12年度二種14名,シスアド10名が合格しています。また,12年度には,全国商業高等学校協会主催の全国高校プログラミング競技大会で2年生が個人優勝しています。

授業のようす

授業のようす
▲授業のようす

愛知県立豊橋商業高校 各実習室およびネットワーク図 (平成12年10月1日現在)
3.学校の情報化の推進
 文部省に設置された「情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議」で提案された教科「情報」の目標や学習指導要領,および「商業」の学習指導要領を踏まえ,以下の3つの目標に応じて,ビジネス教育の中での情報教育の展開について,目標主題ごとに中心科目を据え研究してきました。

(1)情報活用の実践力の養成
 課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含め必要な情報を主体的に収集・判断 ・表現・処理・創造し,受け手の状況などを踏まえて,発信・伝達できる能力を養成する。

◆「情報処理」と「総合実践」での展開
 1年生の「情報処理」では,表計算,インターネット,COBOL言語,プレゼンテーションに関する基礎的な技術や全般に関する知識を習得させています。国際経済科の「総合実践」では,平成12年度からアメリカオハイオ州トリード市と豊橋市が姉妹都市提携したのを機に,テーマ単位でメールをベースとした計画的な文化交流を積極的に推進しています。また,国内の他校との文化交流として,生徒会によるテレビ会議交流も実施しています。

(2)情報の科学的理解の推進
 情報活用の基礎となる情報手段の特性を理解し,情報を適切に扱ったり,自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法を理解する。

◆「情報管理」と「OA実習」での展開
 2年生の情報処理科科目「情報管理」で,ハードウェア・ソフトウェア,ネットワーク,システム開発など幅広い情報に関する知識を習得させています。また,学校設置科目「OA実習」では,コンピュータやネットワーク,さまざまなソフトを目的に応じて利用する中で,体験的に連携・選択して処理する基礎的な技術を習得しています。今後,以下のような内容について「ビジネス情報」や「文書デザイン」に付加して展開していく予定です。
 急速に進展するITに対応するため,以下の項目の基礎的な内容を習得しています。
・ビジネス活動の業務や改善方法
 QC7つ道具や,新QC7つ道具,KJ法,データマイニング
・IT化にともなう「ナレッジマネジメント
 企業内・取引間で情報共有し,製品流通全体で最適にコントロールする知識・技術
・ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)
 人・情報・設備・資金などの経営資源を有効活用し,経営の効率化を実現する知識・技術
・CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)
 ITを利用して顧客満足度を高める知識・技術
・SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)
 インターネットを利用して,受注から納品までを効率化する知識・技術

(3)情報社会に参画する態度の育成
 社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割やその影響を理解し,情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え,望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度を養う。

◆「課題研究」での展開
 インターネットを利用した地域との連携をテーマに,本校情報処理科「課題研究」では,平成10年度より,情報処理科3年2クラスを2時間同時連続,8展開(テーマ別コース)で生徒選択制で実施しています。このうちの1コース「地域連携コース」を,平成11年度より実施しています。11年度は豊橋市の産官学連携事業体の2つの業務のシステムを共同開発(文書データベースシステム,Accessによる施設設備管理システム)することを目標に参加させていただき,一定の成果を得た。12年度は,同社のご紹介にて,商工会議所,商店街発展会の協力を得て,豊橋中心市街の商店街のホームページ作りに取り組むことになり,「ときわ通り商店街ホームペーシ」を中心に地域情報発信をテーマとして本校公開用コンテンツに付加しました。
 コンセプトは,地域社会と学校の間で,ギブ&テイクの関係を維持しつつ,以下の二点を目標としました。一つは,生徒に就業体験を通して,実際のビジネスで求められる能力や態度,知識を直接感じ取らせることで,学校で習得した知識や技術を深め,総合化し,当面する課題解決のために地域の方々とコミュニケーションをとりつつ,創造性を生かし,前向きに自己発展させる態度を身につけさせることです。もう一つは,さらに,ご協力いただいた企業にとっても一定のメリットを確保することです。特に,生徒には低学年で履修した「ビジネスの基礎・基本の能力」としてのコミュニケーション能力に代表される「豊かな人間性」,組織の中で主体性と自己責任をもって独創的な活動ができる「創造性」,ビジネスに対する理解力と実践力を,情報処理科で学習させた知識・技能と合わせて総合化し,実務能力を養成しています。

就業体験の様子
▲就業体験の様子

 11年度以来,システム開発は学校で行い,定期的にプロジェクト単位でブレーンストーミングやプレゼンテーションを行ったが,常にコミュニケーション時間が不足するため,インターネット技術の一つである「メーリングリスト」を活用し,確実な共通理解を取りつつ1年間に渡って進めてきました。また,システム設計段階の随所で各モジュールにおける「ftp」を利用した相互理解や調整などが頻繁に行われました。
 11年度は,扱うデータがマルチメディアで,かつ,膨大であり,インターネットの活用なしにはコミュニケーションが取れませんでした。生徒達はビジネス活動への積極的な理解態度を示し,長期休業中も自主的な開発活動を継続しました。また,1年間の感想によれば,ビジネス活動の納期などの時間の厳しさ,コミュニケーションの大切さを肌で感じ取ったようで,参加した生徒には情報処理に関する業種・職種に就きたいという意欲が喚起されたケースも見られました。
 12年度は「ときわ通り」商店街の再活性化策としてのホームページ作りに取り組みました。現地ミーティングやメーリングリスト,試作モジュールの提案,店頭での調査,就業体験等を通して,販売促進やマーケティング,HTMLに関する知識・技術に対する関心の深まりが顕著になり,学校でのシステム開発も,自主的な取り組みに熱が入りました。中には,商店街イベントに奉仕で参加するなど,直接店主のみなさんに接し,経営の難しさや悩みを聞き取ることで,生徒自信の内面にも大きな変化が出てきています。13年度には,商工会議所,豊橋観光コンベンション協会や実際のインターネットビジネス企業と連携して,イベント性の高い電子商取引に共同参画する予定です。

地域情報発信コンテンツ
▲地域情報発信コンテンツ

◆「総合実践」での展開
 平成8年度から取り組んできた「課題解決型総合実践」のインターネットビジネスへの対応として,12年度から以下のような形で展開しています。下記の指導展開のように,B2Bや,B2Cなどインターネットビジネスなどの先進技術の基礎・基本を学習し,ビジネスに生かす態度を習得しています。
 当授業展開は,Access,HTML画像編集,表計算,プレゼンテーションの基本操作既習を前提として,ネットワークに関する基礎知識が必要です。ただし,B2Cコンテンツ開発だけを年間を通して指導開発する場合は,コンテンツ交流(取引)を2学期以降とします。WWWをベースとしているので,各校時の展開は同時性を必要としません。
 評価基準等は学校ごとに独自のものとします。校内内部Webナレッジデータベース開発は各学校の裁量(本校のもの流用は校長の決裁要する)とします。NTサーバおよびIIS上のプログラム(本校開発分のASP)は無償提供する予定です。12ページに年間指導計画を示しましたので,参照して下さい。
内部WebのITナレッジデータベースの一例
▲内部WebのITナレッジデータベースの一例
4.まとめ
 本校の授業展開上の取り組みの一部を紹介しましたが,これらは引き続き,情報化の進展に伴って内容を常に再吟味し続けなければなりません。また,教員専用のメーリングリストや掲示板による職員朝礼など,学校の情報化の核心部分となる指導者側の業務,つまり,分掌,学年,教科に関する情報化にも,十分取り組めた訳ではありません。この研究事業をきっかけに,さらなる情報化を推し進めていかなければならないと考えています。最後に,ここに至るまで,多くの先生方のご指導,ご助言をいただきました。この紙面を持って厚く御礼申し上げます。

学期 指導内容
1学期中期考査まで 分割講義形式(自習室A・自習室B)
1学期学期末まで 同上 途中から2人1組でB2Cコンテンツ共同開発から
2学期中間考査まで インターネットビジネスに関する講義2人1組でB2C受発注と分析まで実習
2学期学期末まで 2人1組でB2Cコンテンツ更新
3学期終了まで インターネットビジネスの実際について発表・意見交換会
▲「総合実践」指導展開(指導教諭2人で1クラスを分割・一括指導)

学習内容 教材資料
4月〜
中間考査
まで
(活性化実習室)21台  Aグループ20名
・年間計画概要
・企業活動と業務
・ITと企業活動
・流通業の業務とIT
・コンビニの業務知識
(POS実習室)21台 Bグループ20名
・ビジネスマナー
・企業活動の計数的把握
・経営分析と売上分析
・シスアド教科書による学習
・内部Webによる学習
・内部Webによる学習
・内部Webによる学習

・総合実践テキスト 応対・接客・ビジネス文書
・「会計」教科書 財務諸表の見方・管理会計
・「会計」教科書
・内部Web(売上分析)●QC手法7つ ●新QC手法7つ
中間〜
1学期末
まで
(活性化実習室)21台 Aグループ
・「勘定奉行」仕訳から決算

(活性化実習室)21台 Bグループ
・B2B(企業間電子商取引)システムの実際
・B2C(消費者向け電子商取引)システムの実際
・「簿記」記帳例題を利用して決算まで入力・出力

・銀行取引
・取扱品目と卸との取引契約締結発注と決済
・コンテンツの魅力化
・顧客満足度アップの手法
・アンケートと分析
(POS実習室)21台 (2人1組経営ベース)
・コンビニコンテンツの実際
・コンテンツ開発とマネジメントサイクル
・コンテンツ概要と仮説導出
・個店単位のコンテンツ
・外部Web検索,特徴整理
・コンテンツクリエイターの実際
・仮説設定と詳細設計
・アンケート整理
・コンテンツ開発とアップロード
  夏休み中に開放,他校へ発注 発注データメモ
9月〜
中間考査
まで
(POS実習室)21台 (2人1組経営ベース)
・インターネットビジネスB2Cとマネジメントサイクル
・受注状況の確認と納品
・アンケートデータの集約・分析
・発注品の受け取り確認
・仮説実証と問題点解決方法の検討
・プレゼンテーション発表会
・内部Webによる学習
・Access→Lotus→ワープロやプレゼン
・E-Mail商品票と請求書を添付ファイルにて納品
・内部Webで学習…データマイニングとモデル化
・E-Mail商品票と請求書を添付ファイルにて受納
・代金決済
・経営活動の中で把握
・課題の共通理解
中間〜
2学期末
まで
・分析からコンテンツ更新
・顧客満足度アップの手法
・他校コンテンツ発注(11月末まで)
・実店舗でのコンビニ経営のシミュレーション
・コンテンツのアップロード更新
・内部Webによる学習
・発注データのメモ
・シミュレータによる模擬体験・分析
3学期末 ・受注状況の確認と納品
・アンケートデータの集約・分析
・発注品の受け取り確認
・仮説実証と問題点解決方法の検討
・プレゼンテーション発表会
Access→Lotus→ワープロによるレポート・プレゼン化
E-Mail商品票と請求書を添付ファイルにて納品
・データマイニング等
・E-Mail商品票と請求書を添付ファイルにて受納,代金決済
・年間のまとめ・課題の共通理解
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