高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

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特別展 雪舟伝説―「画聖(カリスマ)」の誕生―
2024.05.21
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.074>
特別展 雪舟伝説―「画聖(カリスマ)」の誕生―
京都国立博物館

特別展「雪舟伝説」メインビジュアル 京都国立博物館では2024年4月13日から5月26日まで、特別展『雪舟伝説―「画聖(カリスマ)」の誕生―』を開催しています。展覧会では教科書でも掲載している《秋冬山水図・冬景図》をはじめ、様々な作品を見ることができます。
 今回は保存修理指導室長の福士雄也さんに、展覧会の見どころやオススメの作品についてお話をうかがいました。

――教科書では雪舟の《秋冬山水図・冬景図》を掲載し、力強い線の引き方によって、厳しい冬の寒さを表現していることに注目しています。今回の展覧会『雪舟伝説―「画聖(カリスマ)」の誕生―』では本作をどのように紹介していますか。その魅力と共に教えてください。

福士:《秋冬山水図》は、数ある雪舟作品の中でも、墨色のコントラストや筆勢の強さが際立っている点に特色があります。特に冬景は、中景にそそり立つ崖(岩)や遠景の山々の表現に、常識的な遠近感や空間構成を逸脱したようなところがあり、それが力強い線描とともに独自の存在感を生み出しています。一方、秋景はかつて夏景とされていた時期もあるように、あまり季節は明瞭ではありません。岩などのモチーフを、近景から遠景へと重ねていくように配置して画面の奥行き感を表すのは、雪舟が得意とした手法です。
 この作品が教科書に掲載されているのは、雪舟が室町時代を代表する画家の一人であり、その雪舟の代表作であるからでしょう。展覧会でも、多くの人が雪舟の絵としてまず思い浮かべるであろう作品として、冒頭でご紹介しています。かつては京都の曼殊院に伝来した作品で、江戸時代の画家たちにもそれなりに知られていたものだったようです。実際、この作品に見られるような墨の使い方や力強い線描、画面の構図法など、いかにも雪舟らしい表現を取り入れて、新しい作品を生み出した画家は少なくありません。後世に影響を与えた作品としてもとても重要なのです。

国宝 秋冬山水図 雪舟筆
東京国立博物館蔵 室町時代(15世紀) 通期展示

――『雪舟伝説―「画聖(カリスマ)」の誕生―』では雪舟をはじめとして、さまざまな作品を見ることができます。なぜ雪舟だけではなく、後世の作家にも焦点を当てた展示にしたのでしょうか。本展覧会の注目したいポイントと合わせて教えてください。

福士:雪舟は、日本美術史上もっとも著名かつ重要な画家の一人として位置付けられています。そのことは、国宝に指定されている作品が六件もあることからも明らかで、これは一人の画家としては最多の指定件数です(二番目は狩野永徳の四件)。
 では、雪舟はなぜこれほどまで高く評価されているのでしょうか。もちろん、作品が優れているというのも理由の一つです。しかし、画家(作家)に対する評価は決してそれだけで形成されるものではなく、雪舟とその作品に対して歴史的に積み重ねられてきた評価の上に、今日の高い評価があるのです。別の言い方をすれば、そうした評価の歴史を抜きに雪舟の作品だけを見ても、なぜこれほどの高い評価が与えられているのかを十分に理解することは困難なのです。
 本展は、主に近世(桃山~江戸時代)における雪舟受容、つまり後世の画家たちが雪舟作品をどのように評価し取り入れてきたのかをたどることで、今日の雪舟評価がどのように形成されてきたのかを検証することを目的としています。「雪舟だからすごい」のではなく、「なぜ雪舟はすごい(とされている)のか」を考える、そういう展覧会です。
 後世の画家たちは、さまざまなやり方で雪舟の作品を学び、自作に取り入れています。多様な画家たちが多様な仕方で繰り広げる雪舟受容が、本展の注目ポイントです。

重要文化財 四季花鳥図屏風 雪舟筆
京都国立博物館蔵 室町時代(15世紀) 通期展示

竹梅双鶴図 伊藤若冲筆
東京・出光美術館蔵 江戸時代(18世紀) 4/30~5/26展示

――本展覧会では国宝7点を含む、80点以上の作品を見ることができます。その中でも高校生に紹介したいオススメの作品について、教えてください。

福士:①国宝 破墨山水図 雪舟筆 東京国立博物館蔵
 もやもやとした墨の広がりによって山水を描いた作品で、雪舟の水墨技法が遺憾なく発揮されています。しかしそれ以上に、この絵の上の部分には雪舟自筆の長い文章が書かれており、いわば雪舟の肉声を伝えているところが重要です。雪舟が中国(明)に渡ったこと、彼の地で二人の画家に絵を学んだこと、日本での雪舟の師である如拙・周文の偉大さを改めて思い知ったことなど、これほど多くの情報を室町時代の画家自身が書き残した事例はありません。遠い過去の時代を生きた画家が、少し身近に感じられるのではないでしょうか。

国宝 破墨山水図 雪舟等楊筆 雪舟自序・月翁周鏡ら六僧賛
東京国立博物館蔵 室町時代・明応4年(1495)
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp )

福士:②富士三保図屏風 曾我蕭白筆 MIHO MUSEUM蔵
 江戸時代中期、18世紀に活躍した曾我蕭白の作品です。蕭白というと奇抜で個性的な画風で知られ、この作品も富士山の奇妙な形や三保松原に虹がかかる様子など、幻想的な風景表現となっています。しかし、この作品の構図は伝雪舟筆《富士三保清見寺図》(永青文庫蔵)という作品を踏襲したもの。個性的であるということは闇雲に奇をてらうことではなく、真摯に古典と向き合いそこから学ぶ中で生まれるものだということを教えてくれます。歴史や古典を学ぶことは、新しいものを生み出すためにも必要なのです。

富士三保図屏風 曾我蕭白筆
滋賀・MIHO MUSEUM蔵 江戸時代(18世紀) 通期展示

展覧会情報

■『雪舟伝説―「画聖(カリスマ)」の誕生―』
会期:2024年4月13日(土)~5月26日(日)
[主な展示替]
前期展示:2024年4月13日(土)~5月6日(月・休)
後期展示:2024年5月8日(水)~5月26日(日)
※会期中、一部の作品は上記以外にも展示替を行います。
会場:京都国立博物館 平成知新館
公式サイト:https://sesshu2024.exhn.jp/
休館日:月曜日
※2024年4月29日(月・祝)から5月6日(月・休)までは続けて開館し、5月7日(火)を休館とします。
開館時間:9:00~17:30(入館は17:00まで)
観覧料:一般:1,800円(1,600円) 大学生:1,200円(1,000円) 高校生:700円(500円)
※( )内は前売料金・20名以上の団体料金です。

【関連作品 教科書掲載情報】

  • 令和4年度版「高校生の美術1」p40.
    秋冬山水図 ・冬景図(国宝・二幅のうち一幅)[紙本墨画/47.7×30.2cm]
    15世紀末~16世紀初 東京国立博物館蔵
    雪舟等楊[1420~1506]