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プロヴァンスの贈りもの

人生で大切なものが何かを考えさせてくれる作品

画像:プロヴァンスの贈りもの あまり飲む機会はないのだが、ワインを飲むと思い出す映画がいくつかある。最近では、小説家志望の国語の先生に扮し、ワインオタク、ふと人生を振り返る役を好演したポール・ジアマッティの「サイドウェイ」。また、ワインの生産や流通、評論などなど、ワインに関わる人たちの実情を鋭く描いたドキュメント「モンド・ヴィーノ」などなど。
  ここにまた、良質のワインを飲みたくなるような映画が公開される。「プロヴァンスの贈りもの」(角川映画配給)である。原題は「ア・グッド・イヤー」。今年はいいワインになったなぁ、といったときの言葉だそうである。
 主人公がまだ少年のころ、プロヴァンスにいるおじさんから、たくさんの「人生の教え」を受ける。このひと言ひと言が、含蓄と示唆にあふれている。
 ただし、映画を見てワインを飲むのは、大人になってから。未成年の方は、映画に酔っても、お酒は飲まないように。

 ロンドンで辣腕をふるう金融トレーダー、マックス(ラッセル・クロウ)の許に、プロヴァンスに住むヘンリーおじさん(アルバート・フィニー)の訃報が届く。マックスは子供のころ、毎年のように、ここプロヴァンスで夏休みを過ごし、ヘンリーからは、かけがえのない教えを受けていた。ここ10年ほどは連絡もとらず、仕事一筋のマックスが、ヘンリーの遺産を相続することになったのだ。
 プロヴァンスを訪れたマックスに、幼いころ、ヘンリーと過ごした思い出が少しづつ甦ってくる。ワイナリー、テニスコート、プール、チェスなどなど、ヘンリーと過ごした日々や、そのときの会話を思い出してゆく。マックスがヘンリーから学んだものは、人としての心構えであり、人生への教えでもあった。
 やがてマックスの前に、地元でレストランを経営する女性ファニー(マリオン・コティヤール)が現れる。ずっと昔、マックスはファニーに出会っているが、マックスは忘れてしまっている。ファニーと会話を交わすうちに、マックスは少しづつ、自らの生き方を考え直すようになっていく…。

 ほのぼのとゆったりした展開である。プロヴァンスののどかな風景に、大きくはないが良いぶどうのできる畑。うっとりする景色を背景にしたリドリー・スコット演出の冴えは、長い人生のさまざまな機微や教えを、ヘンリーおじさんからマックス少年へのセリフに託すところ。

「敗北を認めるのが男、相手の勝利を祝う広い心を持て」 「勝利から学ぶものはない。勝つほうが楽しいに決まっているが、負けることもある。大事なのは負け続けないこと」 「コメディでいちばん大事なのは、タイミングだ」 「紺のいいスーツは最高だ。だが大事なのはスーツより仕立屋だ」 「ぶどう園の経営者がぶどうを育てる姿は厳粛な詩に似ている」 「テロワール(地味)には、太陽や雨より必要なものがある。それはハーモニーとバランスだ」

 いい語録です。ヘンリーおじさんに扮したアルバート・フィニーは、人生の年輪を重ねなければできない達者な演技。ファニー役のマリオン・コティヤールは、勝ち気だけれど、可愛いと思わせる女性を好演。
 親と子、先生と生徒が、いろんな話し合いのきっかけになる佳作といえる。

●公開は8月4日(土) 新宿ガーデンシネマ恵比寿ガーデンシネマ他にて全国ロードショー

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