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いけちゃんとぼく(2009年・日本)

大人になったあなたに贈る、珠玉のラブストーリー

画像:いけちゃんとぼく(2009年・日本)

 人気のコミック作家、西原理恵子さん初の絵本「いけちゃんとぼく」が映画になった。タイトルも同じ「いけちゃんとぼく」(角川映画配給)である。
 コミカルで軽快、ファンタジーではあるが、これがなかなか、考えさせられる。正体不明の生き物いけちゃんと9歳の男の子の交流を通して、一見、男の子の成長が描かれるが、実はそれだけではない。

 いけちゃんは、9歳の男の子ヨシオ(深澤嵐)にしか見えない、正体不明の生き物である。ヨシオがいじめられたり、また他の子をいじめたり、父親が死んだり、同じ年頃の女の子と仲良くなったりするときなど、折にふれて、ヨシオのそばに現れる。いけちゃんには、基本的な形はあるけれども、そのときの状況で、色や形が変わったりする。
 いじめにあったヨシオは、学校をさぼっていけちゃんと山に向かう。いじめに対する復讐の練習である。なんとヨシオは、トンボの頭を万華鏡に入れたり、蝶をそのままノートに貼り付けたりする。悔しくて泣き出すヨシオにいけちゃんは言う。「大きくなって好きな人ができたら、このことを話しなさい。きっと、笑ってくれるよ」と。

 家に帰ると、いじめられたヨシオの危機を救おうと、父親(荻原聖人)が出かけていくが、いじめっ子の親たちに恐れをなして、行方不明になってしまう。さっそく、子どもの喧嘩に親が出るとはなんだとばかり、ヨシオはいじめっ子に詰め寄られるが、そこに、父親の訃報が届く。
 いけちゃんはヨシオに「人より早くおとなにならなければいけない子どももいるんだ。きみがその一人」と励ます。

画像:いけちゃんとぼく(2009年・日本) その日から、ヨシオは、母親(ともさかりえ)が驚くくらい、ごはんをたくさん食べて、早くおとなになろうと努力を始める。さらに、強くなろうと、牛乳屋のおじさん(モト冬樹)に空手を習い始めたりする。
 ヨシオが女の子と仲良くなろうとすると、いけちゃんは顔を真っ赤にして怒る。そんないけちゃんを見て、ヨシオは、いけちゃんはひょっとしたら女の子ではないかと思う。
 「今日はラッキーなことがある」といけちゃん。ヨシオは、いじめっ子にはじめて、パンチの仕返しをする。いけちゃんの予知能力にヨシオは驚く。
 遠くの町の悪ガキたちが、ヨシオたちの住む町にやってくる。いまやリーダー格になったヨシオは、悪ガキたちに、決着は野球の試合でつけようと提案する。
 少しずつだが、ヨシオは成長をとげていく。それにつれて、いけちゃんは、次第に、見えなくなることが多くなってくる。
 やがて、いけちゃんは、ヨシオに正体を明かすことになるが…。

画像:いけちゃんとぼく(2009年・日本) CGをうまく使って、ユーモラスにいけちゃんが描かれる。いけちゃんの声は、蒼井優が務める。表情と感情の豊かないけちゃんに合わせて、なかなかの雰囲気ある声である。

 いけちゃんの正体が分ったとき、そうか、このファンタジーは、人を愛することはどういうことかを、それぞれに問いかけているのだと、納得することになる。そして、涙を誘うラストシーンが待っている。

 映画「いけちゃんとぼく」は、おとな向けの映画かも知れないが、若い人たちにも、さまざまな形の愛の意味を、充分考えさせてくれるファンタジーである。

●2009年6月20日(土)角川シネマ新宿他にて全国ロードショー