学び!と美術

学び!と美術

自らの発見をもとに展開する
2013.06.10
学び!と美術 <Vol.10>
自らの発見をもとに展開する
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 前回、学習活動の始まりや子どもの浸る能力について書いたので、今回はその後の展開を追ってみましょう。子どもは「いいこと考えた」、「こうするとどうなるだろう」と自らの「発見」をもとに展開する力を持っているという話になると思います。

art2_vol10_01 三歳児が描く様子について、それを見ていたお父さんの記録と絵から再現してみましょう(※1)。
 この子は、まず赤いクレヨンを持ちます。そして真っ白い画用紙に向かって手を動かします。すると真っ赤な短い線が一つ生まれます(読者は、絵から赤い線だけ残してその他を全てなくして見てください。それが「この子」の「この時」の眼前に広がる世界です)。
 次に、この子は赤を置いて、水色のクレヨンを持ちます。それを、さっきの線の隣に持っていって、もう一度、同じように手を動かします。すると、赤と青の同じ長さの線がほぼ並行に並びます。おそらく、このとき何か思いついたのでしょう。今度は、茶色のクレヨンを持つと、先ほどの線の真ん中に交差するように線を引きました。
 このとき、この子は「赤トンボにするわ」とつぶやきます。そして黒を取り出して、並行な二本の線の先に丸く目をいれるのです。三本の線と二つの丸だけで、生まれたトンボ。確かに、トンボを最もシンプルな形にデザインしたら、こうなるかもしれません。しかし、省略の表現や再現ではありません。この子が「線の交差する形」をトンボだと意味づけたのです。そして「トンボにする」と宣言して、黒い目を入れたのです。
 クレヨンを持って(※2)、画用紙と対話をしていく過程で生まれた「発見」。この「発見」は次の展開をつくりだします。「青トンボ」「オレンジトンボ」「黄色トンボ」「紫トンボ」。よく見ると、最初のトンボと同じではありません。縦の二本の線は同じ色になっていますし、横棒が二本のものもあります。おそらく、単に繰り返したのではなく、細かな試しや確かめがあるのでしょう。そうやって「完成」したのが、この絵です。

 始まりは一本のクレヨンを画用紙の上で動かすという「自ら働きかける行為」でした。そこから意味あるトンボが一つ生まれ、その経験が次なるトンボにつながりました。それは、自分の「発見」を根拠に、思考や判断を繰り返し、自ら活動を展開していく姿だといえるでしょう。
 子どもは同じ様に、道端で、広場で、教室で、ささやかな行為と発見を繰り返しています。絵は、その一つにすぎません。でも、この絵の背景に、描くことに浸る環境や時間の保証、何より子どもを見守る温かなまなざしがあることを考えたとき、図画工作や美術の役割が分かるような気がするのです。「子どもの発見と展開を確かにする時間」そう言ったら言い過ぎでしょうか?


※1:堺市の小学校、藤永泰成先生の実践報告から。
※2:クレヨンと一体化といった方が適切だろう。