学び!と美術

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【インタビュー】デジタル教科書は教師の味方?
2018.07.10
学び!と美術 <Vol.71>
【インタビュー】デジタル教科書は教師の味方?
お茶の水女子大学附属中学校美術科 桐山瞭子教諭
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 筆者も高齢、美術科や図画工作科におけるデジタル教科書の活用について「よく分からない」というのが正直なところです。そこで、デジタル教科書を活用した授業実践の豊富なお茶の水女子大学附属中学校美術科の桐山瞭子先生にインタビューしてみました。

上を向いて学ぼう

奥村「デジタル教科書って何がいいんですか。ただ印刷物がデジタル化されているだけのように感じるのですが……」
桐山「画像だけを見れば、そうかもしれませんが、授業の過程で考えると異なります。まず、上を向いて授業ができます。本の場合『教科書の○ページの作品を見て』と指示すると全員、下を向きますよね。電子黒板に教科書が投影されていれば、生徒は顔を上げるのです。教科書と電子黒板を見比べながら授業が進みます。」
奥村「なるほど、デジタル教科書が子どもの姿勢を変えるというのは目から鱗でした。実にさりげないことですが子どもの『姿勢』は、授業において決定的に重要です。子どもが何を感じ考えているかをとらえながら授業を進めるのが教師の技です。デジタル教科書によって生徒の顔が見えるようになるというのは大事ですよね。」
桐山「そうですね、教科書に掲載されている作品を『下を向いて見る』のと、同じ作品を『顔を上げて見る』ということは、全く異なります。解像度が高くクローズアップもできます。教科書だけではできなかった学習がいろいろできるようになりますね。」
奥村「作品をもとにディスカッションする対話型鑑賞活動には特に有効ですね。『今の意見は、この部分かな?』と具体的な根拠をもって鑑賞の授業ができます。教科書に掲載されている美術作品は、ずっと心に残っているものです。それがデジタル教科書によって、いっそう大切にできるというのはいいですね。」

当たり前のことが分かる

画面は「中学美術1 指導者用デジタル教科書」(日本文教出版)

桐山「当たり前の内容が、確実に理解できることも重要です。教科書に載っていることがよりちゃんと分かるのです。」
奥村「具体的にはどういうことですか?」
桐山「何度習っても難しい概念があります。例えば『光の三原色』と『色の三原色』の違いです。デジタル教科書には『光の三原色』がよく分かる動画が掲載されています。また、色相、彩度、明度の『色の三要素』は混乱しがちです。」
奥村「特に彩度は難しいですよね。」
 この問いに応えるために、桐山先生は電子黒板の前で授業を始めました。電子黒板に映っている色相環の赤、青、黄を囲み、マーカーで線を入れながら、、、
桐山「赤、青、黄、この三つの色があれば、その間の色はつくれますね。これが三原色です。」
桐山「この色が段々と少なくなっていくと……」
 そう言いながら、赤の彩度変化にそって、マーカーを左に動かしていきます。
桐山「最後には、色はなくなってしまいます。明るさや暗さ、つまり明度だけになってしまうのです。」
 桐山先生の手は、明度の段階にそって、上下に動きます。
奥村「桐山先生の手の動きと、画面の色や形が連動して、色相、彩度、明度がすっきり分かりました。先生自身の『動き』が、子どもの概念形成を助けている感じがします。」
桐山「デジタル教科書を用いるようになって、概念の共有が滑らかに行えるようになったのは事実です。それに伴って、子どもの作品も変わってきました。例えば、色の性質や効果を活用してポスターをつくるようになってきましたね。」

指導の効果を高める様々なコンテンツ

画面は「中学美術1 指導者用デジタル教科書」(日本文教出版)

桐山「これまでの教科書になかったコンテンツに助けられることもあります。例えば補色残像(※1)や明度対比(※2)は理解が困難な内容です。パワーポイントで分かりやすく教材を自作しているのですが、中々生徒が信じてくれない(笑)」
奥村「明度対比の図を見せて、『実は同じだよ』といっても、そもそも『そう感じていない』ので難しいですよね。」
桐山「でも、この動画で、すぐ理解できますよ。」
 桐山先生がデジタル教科書をタップすると、左から車が表れて、右に移動する動画が現れます。ゆっくりと動くことによって、私たちが背景の影響で明るさを感じていることが実感できます。
奥村「おそらくこのようなコンテンツは、工夫することが好きな誰かが、どこかで考え出したことでしょうね。紙ベースでは個の実践で閉じたままですが、デジタル教科書によってアイデアが広く公開されることになります。デジタル教科書がノウハウの共有を促進し、教育の質を高める効果があるのかもしれません。」
桐山「今までうまくいかなかったのは、実は紙ベースだけで授業を進めていたことが原因だったのでしょうね。デジタル教科書は、さまざまな資源をつなぐことができる可能性があります。私の実践もまだまだですが、これまで事実的な知識で終わっていたことを、子どもたち自身が使えるような概念とし、思考や判断をより深めることができればと思っています。」

お茶の水女子大学附属中学校 小泉薫先生のタブレットPCを用いた実践

 取材を通して、デジタル教科書はデジタル教科書単体で考えるのではなく、教師の技、授業計画、タブレットPCやデジタルノートなど他のメディア等、様々な資源とのつながりで考える必要があることが分かりました。組み合わせによっては学習効果の最大化が図れるのかもしれません。

 

※1:ある色を凝視した後に、白い壁などへ目を移すと,そこに補色が見えてくる現象。
※2:周りの明度の影響で、色が明るく見えたり、暗く見えたりすること。

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