学び!と美術

学び!と美術

先生になっていく自分をつくる ~これからの図工・美術の先生(第2回)~
2024.10.10
学び!と美術 <Vol.146>
先生になっていく自分をつくる ~これからの図工・美術の先生(第2回)~
千葉大学 准教授 佐藤真帆

連載「これからの図工・美術の先生」では、各地の大学で図工・美術の教師を目指す学生たちを指導している先生方に、「いま、どんな授業をしているのか?」についてうかがいました。授業に込められた、「将来、こんな図工・美術の先生になってほしい」という願いをひも解いていきます。

第2回は、千葉大学の佐藤真帆先生の授業です。

私が大学の教員養成コースで担当している授業の多くは、教科の指導法に関わるものです。美術を専門としていない学生が多いため、関心をもって授業に取り組めるように工夫しています。教師になっていく学生が主体的に考えられるように、実際に「つくること(美術の活動)」を取り入れています。

つくって語る

美術教育のゼミでは「なぜ、美術を学校で学ぶのか」について文献を読んで議論したあとに、それぞれが考える「美術教育」をコラージュなどで表現してもらいます。この活動は、つくることを通して自分なりの見方・考えを大切にする経験をしてもらうために行っています。

初めは「難しい」「え、どうしよう」と言いながらも、雑誌や広告などを広げて切り抜き始めると、集中して取り組み始めます。

↑雑誌や広告などを切り抜き、コラージュの素材をつくる。

↑同じ「美術教育」がテーマでも、思い浮かべるイメージがそれぞれ異なることが視覚化され、対話が生まれる。

この活動を実際に体験することで、視覚表現と言語表現は同じくらいにパワーがある大切な表現なのだと改めて気づかされます。

ニュアンス、曖昧さ、繊細さ、関係性なども視覚的に表現できるので、より学生各自の声(感じたことや考えたこと)が反映され、つくった本人さえも知らなかった自分に出会うのではないでしょうか。互いの真剣な声に触れることによって学習が活発になっていく瞬間がありました。

つくって「学び」を発見する

図画工作科教育法の授業では、先生にとって身近な教材である教科書に掲載されている題材を取り上げ、実際にみんなでつくってみる時間を設けます。

教科書には実際の児童作品が載っていますが、作品を単なるゴールイメージとして捉えるのではなく、それぞれの作品をつくる過程に多様な学びがあることを体験的に知ってもらうために行っています。

色紙を折ってはさみで切り取ってさまざまな形をつくる活動での例をあげてみます(「ちょきちょき かざり」令和6年度版図画工作科教科書1・2上p.14)。

ある学生が、色紙を四つに切り分けてしまいました。そのとき他の学生から「それは失敗ではなく、どうしてそうなったのかを考えるきっかけではないか」と新たな視点を教えてもらうことができました。ここでは、「失敗」が学びのきっかけになることに気づくことができたようです。

また、初めは少ししか切り抜けなかったのに、二つ目よりも三つ目と、より大胆に切り込みを入れて形がつくれるようになった学生がいました。新しいことにチャレンジするときの不安は誰にでもあるのだと気付き、学習者である子どもの気持ちに寄り添った指導を心がけようという意識につながったようです。

この題材では、色紙を開いて、つくったものを見て、再び折って切り抜くことができます。学生は「戻ることができる」と言っていました。いつもなら不安で仕方ないのですが、この活動では「何ができるか楽しみ」になっていきました。

振り返りのコメントには、自分ならどのような授業にするかという面白いアイデアがたくさん書かれていました。ここにも学生自身が主体的に図画工作科教育について学び始めた瞬間があったように感じます。

↑学生がつくった作品。全部で約90作品あるが、並べてみると同じものがないことに驚く。

先生になっていく自分をつくる

以前、「あなたはどう感じましたか」という問いかけに戸惑う学生の姿に考えさせられることがありました。彼らなりに感じたり、考えたりはしているものの、そのことに注意を向けていないように見えました。

これまでの学習の中で、自分の感じたことや考えたことを聞かれた経験が少ないのでしょうか。

これまで私が関わってきた教科総合のプログラム開発の研究を通して、他の学校教科に比べ、美術は「個人」が学びの中心に据えられる教科であることを知りました。

そして、美術を基盤としたカリキュラムは、たとえ同じゴールに行きつかなくても、多様な学びが生まれることを可能にするのではないかと考えるようになりました。

そのため、これから教師になっていく学生には、美術を通して、主体的に人やものに出会い、それまでの考えを変化させ、新たな意味を生み出していくという体験をしてほしいと思うようになりました。

前述の授業は、そのような学びをつくりだし、見いだせるよう、私が日々探究している一部を紹介したものです。

カリキュラムは学習指導要領や指導案のように事前に書かれたものだけを指すわけではなく、教師と子どもが未知のものを対話的につくっていくという側面があります。

あらかじめ決められた目標や内容だけでなく、開かれた可能性に目を向けることは、個別最適な学びを実現していく鍵となります。

教師として自分には何ができるかを考え、目の前の子どもと一緒に創造的に学びをつくっていく過程は、美術の経験と重なります。そして、これが私のスタートでもあり、今でも夢中になって取り組んでいることです。

美術の先生を目指す皆さんには、出会いを大切にし、先生になっていく自分をつくっていってほしいと思っています。

佐藤真帆(さとう・まほ)
千葉大学教育学部准教授。専門領域は美術教育。特に、工芸教育、創造性とデザイン思考、文化遺産教育、持続可能性と美術教育、幼児教育の総合プログラム、教師教育、アートベース・リサーチなどに関心をもって教育、研究を行っている。現在は、芸術を基盤とした教員養成カリキュラム、国際協働学習の開発に取り組んでいる。日本文教出版令和6年度版小学校図画工作科教科書著者。